第七十話:長老に会いに行こう
「右カウンターにゃっ!?」
ニャッフルはビクンッと飛び起き、口の端から涎を垂らす。
祐樹はそんなニャッフルを見ると、すかさずツッコミを入れた。
「どういう夢見てんだよ。ほら、着いたぞ、お前の故郷だ」
祐樹が片手で指すとその先には、山々に囲まれ、自然豊かな孤島が視界一杯に広がっていた。
どうやら一行は、島の一番の高台に着陸したようだ。
「ほ、本当に帰ってきてるにゃ! ひどいにゃユウキ! ニャッフルはビッグになるまで帰らないと誓っていたのににゃ!」
ニャッフルはぷりぷりと怒りながら、祐樹へと言葉をぶつける。
祐樹は一度ため息を落とすと、そんなニャッフルの肩に腕を回した。
「あのな、よく考えてみろニャッフル。今や俺達は、勇者アオイ様のパーティの一員だ。これは充分ビッグになったと言えるんじゃないか?」
「!? にゃ、にゃるほど。確かに言われてみればその通りにゃ」
ニャッフルはぽんと両手を合わせ、両目を大きく見開く。
祐樹は心の中で「ちょろい」と呟いた。
「にゃはははは! ニャッフル様の凱旋帰国にゃ! みんな、着いてくるといいにゃ!」
「はいよー」
ニャッフルはふんすと鼻息を荒くすると、堂々とした態度で自分の生まれた村への道を歩いていく。
祐樹は片手を上げながら、力なくてきとうな返事を返した。
「あ、あの、師匠、いいんですか? 勇者といってもその存在は公開されてませんし、ビッグになったとは言えないのでは……」
「しっ。ニャッフルに聞こえるだろ。だーいじょうぶだって、あいつもちょっと怒られるだけだからさ」
祐樹は悪戯な笑顔を浮かべながら、アオイへと言葉を返す。
アオイは「はぁ……」とポカンとしながら、声を漏らした。
「みんにゃー! なにやってるにゃ! この英雄ニャッフルについてくるにゃ!」
ニャッフルは先行すると、両手をぶんぶんと振りながら言葉を一行にぶつける。
レオナは胸の下で腕を組みながら、小さくため息を落としつつ、声をもらした。
「はしゃげばはしゃぐほどピエロね」
「ぶふっ! ば、馬鹿レオナやめろ、吹き出しちまったじゃねーか」
レオナの冷静なツッコミに、思わず笑いそうになるフレイ。
その後一行は、必死に笑いを堪えながら、ニャッフルの後ろを歩いていった。
「にゃあああああ! おかーさん、ごめんなさいにゃー!」
「まったくこの子は! 今までどこほっつき歩いてたんだい!」
ニャッフルは今、母親に抱えられ、その小さなお尻を思い切り叩かれている。
アオイは心配そうにニャッフルを見つめているが、それ以外のメンバー全員の心はシンクロしていた。
『予想通りだな(ね)』
やがてニャッフルの母親は、ひとしきりニャッフルのお尻を叩き終わると、一行に向かって近づいてくる。
ニャッフルはぐったりとした様子で、地面に倒れこんでいた。
「皆さん、うちの馬鹿娘が大変なご迷惑をおかけしました。本当にごめんなさいね」
「そ、そんな、お母さん! お顔を上げてください! ニャッフルちゃんは私たちパーティになくてはならない人材ですよ! ね、師匠!」
「そこで俺に振るのか!? あー、まあ、そっすよ、お母さん。あいつは本当に、強くなりました」
祐樹は倒れているニャッフルを見つめると、穏やかな笑みを浮かべ、言葉を返す。
その言葉を受けた母親は、ほっとした様子で返事を返した。
「それならいいんですが……あの子ったら突然村を飛び出して、“ビッグになるにゃー!”なんて言うもんでしょう? 私心配で心配で……」
「ご心配には及びませんよ、お母さん。ニャッフルちゃんはもう立派な拳闘士で、私も随分助けてもらっていますから」
アオイは穏やかな笑顔を浮かべ、ニャッフルの母親へと言葉を紡ぐ。
ニャッフルの母親はその言葉を受けると、何かを思い出したように返事を返した。
「あ、そうだニャッフル! 皆さんを長老様のところにお連れしなさい! まずは挨拶をしないとね!」
「は、はいにゃ! すぐつれてくにゃ!」
母親の声を受けたニャッフルは、尻尾をぴんっと立てながら、返事を返す。
その後家の出口まで駆け足で走ると、一行を手招きした。
「じゃあみんな、早く行くにゃ! 長老の家まで案内するにゃ!」
ニャッフルはぴょんぴょんと飛び跳ね、ぶんぶんと両手を横に振る。
それを見た一行は、のんびりとした動作でニャッフルの方へ向かって歩き始めた。