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第六話:二人旅

 ザルニア村から北へ数キロ、草原の中の街道を進むと、王都セレスティアルが見えてくる。

 赤い屋根の家々が壇上に立ち並び、その頂点には、白い城壁と赤い屋根でまとめられたシンプルな城が立つ。まるで一つの山のようになっている全体像だが、この王都の主役は実はそれらではなく、城下町に栄える城下市場だ。

 立地が各国家の中間地点に存在することもあり、その市場には様々な国からの物資と人が集う。

 集まってくる種族も、耳がとがっていて全体的に細身のエルフ、ずんぐりむっくりで剛腕のドワーフ、猫耳や犬耳を持ち、動物並みの運動神経を誇る獣人族など、その様相は様々である。

 しかし、この物語の主役である勇者様とモブ(笑)はというと―――


「まだまだぁ! あとスライム50匹!」

「はい! 師匠!」


 その城下町を目の前に、レベル上げの真っ最中であった。

 ザルニアの村を出てから数キロ先にある森の中で、勇者はずっと剣を振り続けている。その討伐数は凄まじく、既に雑魚モンスターであるスライムを100体は撃破していた。


『スライム一匹の経験値が5。仮に勇者のレベルが今6だとすると、あと50匹倒せば―――』

「!? 師匠! 新しい技を閃きました!」

「うん。だろうな」

「そっけない!? もっと感動してください師匠! これは凄い技ですよ!」


 勇者アオイはちょっとふくれながら、両手をぶんぶんと上下に振り、必死に新技をアピールする。

 その様子を見た祐樹は、言葉を返した。


「よし、んじゃ早速その新技を見せてくれ」

「!? はい! よろこんで!」


 祐樹の言葉に満面の笑顔となったアオイは、近くにあった大岩と相対する。

 そのまま剣を肩に背負うように構えると、バックステップして大岩との距離を取り、剣を振り下ろしながら、叫んだ。


「はぁぁぁぁ! 裂衝斬!」


 振り下ろされた勇者の剣からは衝撃波が放たれ、大岩を真っ二つに切り裂く。

 その様子を見たアオイは、ぴょんぴょんと飛び跳ねた。


「や……やった! 成功しましたよ、師匠!」

「ん。上々だな」


 嬉しそうなアオイを微笑ましく見守り、同じく嬉しそうに頷く祐樹。

 どうやらこの世界にも、大分慣れてきたようだ。


『それにしても……やっぱ俺のステータス。これおかしいよな』


 祐樹は自らの手をじっと見つめ、小さくため息を落とす。

 その手をぎゅっと握り締めると、そのまま近くにあった大樹に、軽く突き出した。


「……ふっ!」


 祐樹の拳からは拳圧が放たれ、大樹は見るも無残にへし折られて吹き飛ばされる。

 城下町に集まる多くの人々の中には手練れの拳闘家も多くいることだろうが、拳圧だけで大樹を破壊する馬鹿……もとい手練れは、恐らく存在しないだろう。


「!? し、師匠、凄いです! さすがです!」

「いや、まあ、うーんと……ありがとう」


 祐樹は微妙な表情で、アオイの憧れの視線を受ける。

 所詮は元ぼっち。そもそも人から尊敬されるなど慣れていない。ましてそれが美少女であるなら、なおさら対応に困る。

 それに―――


「俺自身、自分の力がうまくコントロールできねえんだよなぁ……」


 ここ数日でわかったことだが、ほぼ確実に、祐樹のステータスはアオイのそれを凌駕している。

 それどころか、全ステータスがMAXであることは、ほぼ確実であると言えた。


「試しにダッシュしてみたら一瞬で王都に着いちまったし、拳を突き出したらこれだし、危なくてシャドーボクシングもできねえよ、これじゃ」


 祐樹は頭をボリボリと掻きながら、自らの手を見つめる。

 突然自らの身体能力が、飛躍的に向上したのだ。いくら体が強くとも、精神がそれについていかない。

 いや、正確には、使いこなすことはできるのだが、細かい加減がどうもできないのだ。それは例えて言うなら、その辺の子供に“軽くて丈夫な伝説の剣”を持たせるようなもの。振り回せば無敵だが、その力をどう使うべきかの判断が子供にはできない。

 祐樹は今まさに、それに悩んでいた。


『俺が戦えば楽勝なんだろうけど、それじゃ“グラディス”の物語が、あまりにも変わっちまうもんなぁ……』


 グランディスカ・ストーリーズというゲームの主人公はあくまで、勇者アオイである。決してモブキャラである祐樹ではない。それは祐樹が一番良く理解している。

 突然異世界に放り込まれた祐樹にとって拠り所となるのはやはり、その頭脳に暗記した攻略本の存在なのだ。


『やっぱ、あんま俺が物語に介入しない方がいいんだろうなぁ……とはいえパーティの一員なんだから、それなりに働かなきゃならんのだけど』


 祐樹は祐樹なりに、今の自分の現状を、冷静に分析していた。

 自分は今、ゲーム“グランディスカ・ストーリーズ”の中にいる。それはもう間違いない。

 そして物語の冒頭の通りに勇者が登場し、旅立った。ここまでは良い。

 しかし―――


『その勇者が俺じゃないって……なんだよそりゃあ』


 祐樹はがっくりと肩を落とし、再びモブキャラである自分の存在に絶望する。

 勇者のパーティの一員になったとはいえ、今の祐樹はただの目付きの悪いボロボロの学生服を着たモブキャラにしか見えない。まして勇者様などと呼ばれるはずもない。

 だとすれば、祐樹にできるのは一つだけ。


『この勇者様と一緒に、魔王を討伐……つまり、ゲームをクリアするしかねえ』


 クリアした後どうなってしまうのか、祐樹自身にもわからない。

 しかし、攻略本の通りに物語を進めなければ、それこそ世界がどうなるのか、自分がどうなってしまうのかすらわからない。

 祐樹には、それが一番怖かった。

 ただ自分のステータスをひけらかして闇雲に冒険するより、攻略本通り、堅実に冒険を進めた方が良い。

 それがモブキャラ、一越祐樹の最終判断だった。


「師匠? あの……次はどうしましょう。まだスライムを倒しますか?」


 いつのまにか近づいてきたアオイは、剣を持ったまま、どこか不安そうに祐樹を見つめる。

 どうやら考え事をしている祐樹に対し、何か不安を感じているようだ。


「あ、ああ、悪い。修業はそのくらいで大丈夫だと思うぜ。こっから次のボスくらいなら楽勝だろ」

「“コッカラツギノボス”??? というのはわかりませんが、もしかして私、強くなったということでしょうか!?」

「お、おう。強くなったよ。序盤のレベルとしては十分だ」


 嬉しそうに顔を近付けるアオイに対し、たじろぎながら返事を返す祐樹。

 勇者は祐樹の言葉を受けると、剣を両手で持ちながら、嬉しそうにぴょんぴょんと飛び跳ねた。


「やったやった♪ 師匠に褒められました♪」

「はぁ……お前も大分キャラ変わったよな」


 初登場時は“颯爽登場! 勇者様!”といった感じだったのに、今では一介の明るい女の子にしか見えない。

 もっともこの姿は、祐樹と二人きりの時にしか見せないのだが。


「ま、そろそろ王都に向かうとするか。レベルとしては充分だろ」

「はいっ♪ 師匠♪ どこまでもお供します!」

「いや、正確には俺がお前のお供なんだけどね!? 勇者がモブのお供しちゃダメだろ!」


 RPGの歴史上、勇者がモブのお供をするというのは聞いたことが無い。少なくとも祐樹は、そんなRPGをプレイしたことはなかった。


「わかりました! では不肖、私が先陣を切らせて頂きます!」


 アオイはキリッとした表情となり、敬礼のようなポーズをして見せる。

 祐樹は苦笑いを浮かべながら、ぽりぽりと頬をかいた。


「ははは……ま、それでいいや」


 こうして勇者様ご一行は、王都セレスティアルへと旅立っていくのだった―――


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