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第六十八話:フレイの輝き

「で、ここがトライロードで一番人気のスイーツショップか……」

「並んでやがんな……」


 二人の目の前では、出店形式で開かれたスイーツショップの前に、カップルやら女子グループの団体による行列が広がっていた。

 その長さは、五分やそこらの待ち時間で済むようにはとても見えない。


「よし、祐樹。並んできてくれ」

「俺かよ!? ったくしょうがねえな……」


 これも男の役目かと考え、祐樹は頭をボリボリと搔きながら、その列の中へと混じっていく。

 フレイは適当な席に座ると、何かを考えるような仕草で、祐樹の帰りを待った―――







「お待たせー……ってうおぁ!? なんじゃあの男どもは!?」


 戻ってきた祐樹の目に飛び込んできたのは、街路樹に引っかかった男達の姿。

 ざっと十人はいるだろうか。まるでその木に生えた果実のように、男達は枝にぶら下がっている。


「ああ、ナンパされちまってよ。ふっ飛ばした」

「どういうナンパ撃退法!? やりすぎだろ!」


 淡々と答えるフレイに対し、ツッコミを入れる祐樹。

 しかしフレイはそんな祐樹のツッコミに構わず、言葉を続けた。


「それより、どんなの買ってきてくれたんだ? 早く見せろよ」

「お、おう。お前の好みとか知らねえからてきとうだけど、文句言うなよ」


 祐樹は手に持っていたクレープを一つ、フレイへと差し出す。

 バナナとチョコレート、それに生クリームがトッピングされたそれは、スタンダードだが美味しそうなクレープだった。


「おっ、いいねー。アタシはこういうシンプルなのが好きなんだよ。わかってんじゃねーかユウキぃ!」

「わぷっ! だから当たってるっつーの!」


 フレイはクレープを受け取ると、嬉しそうに祐樹の肩に腕を回す。

 祐樹は頬に押し付けられた柔らかな感触に頬を赤くしながら、返事を返した。


「ま、いいじゃねえか。食おうぜ。いただきまーす」

「お、おう。いただきまーす」


 また“あーん”とかいう展開になったらどうしようかと思っていた祐樹だったが、どうやらフレイにそのつもりは無いらしく、あっさりと食べ始める。

 ほっとした祐樹は、自分も買ってきたクレープにかじり付いた。


「うまっ。さすがトライロード一番のクレープ屋だな。生クリームがなんとも……」

「ごちそーさんでした!」

「はえーよ! お前デートってもっとこう、会話のキャッチボールをするもんじゃねえの!?」


 まさかの速さでクレープを平らげたフレイに対し、ツッコミを入れる祐樹。

 フレイは頭に疑問符を浮かべ、首を傾げた。


「あん? そうなのか? でもほら、キャッチボールっていうか、投げる事はしたぜ。主に人だけど」

「さっき吹っ飛ばした男どもじゃねーか! デートの要素一個もねえよ!」


 相変わらず木の上で呻いている男たちを指差し、悪びれた様子も無く言葉を紡ぐフレイに対し、鋭いツッコミを入れるフレイ。

 祐樹はボリボリと頭を搔き、やがて言葉を紡いだ。


「仕方ねえなぁ……とっておきのスポットに連れてってやっから、デートってもんを勉強しやがれ」

「おっ、今度は祐樹のエスコートか。楽しみだねえ」


 フレイは悪戯な笑顔を浮かべ、祐樹はゲンナリとした様子で「ま、俺もスポットを知ってるだけだけどな」と言葉を続ける。

 しかし二人にはその前に、やることがあった。


「まあ、とりあえず……」

「あ、そうか。そうだな」


 互いに顔を見合わせ、こくりと頷く祐樹とフレイ。

 次の瞬間二人の言葉は、完全に一致した。


「「あの男ども、そろそろ降ろしてやるか」」


 こうして祐樹とフレイによる男達の救出作戦が始まり、ちょっとした野次馬が集まり始める。

 なお、助けられた男達が一目散に走り去って言ったのは言うまでもない。


「さて、じゃ男どもは助けたし、とっておきのスポットに行くとするか」

「おう! 頼むぜ大将!」

「誰が大将だ。誰が……」


 フレイの言葉にゲンナリしながらも、ふらふらと歩き出す祐樹。

 フレイはどこか嬉しそうに、そんな祐樹の横を歩き始めた。







「で、ここがトライロード一番のデートスポット。“王城前広場”だ」

「おおー! いい眺めだなぁ!」


 二人の立っている広場は山状になっているトライロードの街の最上段にあり、その眺めは壮観としか言いようがない。

 どこまでも広がる平原、奥に見える山々の間には、今にも日が落ちようとしている。

 オレンジ色の光が広場を照らし、フレイの赤い髪も、より一掃輝きを増した。


「……ありがとな、ユウキ」

「ん? ああ、いいって。この場所は結構有名なんだぜ?」


 手すりに体を預け、ぽつりと言葉を零すフレイに対し、笑いながら返事を返す祐樹。

 しかしフレイは真剣な表情で、祐樹へと向き直った。


「そうじゃねーって。アタシのこと、買ってくれただろ? で、何もせず仲間に入れてくれた。そのお礼、ちゃんと言ってなかったからな」

「んあ? それならアオイに言ってやれよ。入札したのはあいつだぜ?」


 祐樹は不思議そうに首を傾げ、フレイへと言葉を紡ぐ。

 フレイは小さく笑うと、言葉を続けた。


「言ったさ。そしたらアオイの奴、“入札できたのは師匠のおかけです!”だってさ。で、いきさつを聞いたんだ」

「ぐぬぬ。アオイの奴、勇者のくせに余計なことを言いおって……あいつ主人公の自覚あんのか?」


 祐樹はボリボリと頭を搔き、後で説教だな、とアオイの顔を思い浮かべる。

 フレイはそんな祐樹の顔を突然両手で掴むと、無理やり自分の方へと顔を向かせた。


「とーにーかーく。ありがとな、祐樹。お前のおかげで、助かったよ」

「―――っ!」


 フレイは夕日の中でその炎のような髪をなびかせ、輝きの中で穏やかな笑みを浮かべる。

 普段は見たことのないフレイの表情に面食らった祐樹は、思わず言葉を失った。


「お? なんだよ黙っちまって。さてはアタシに惚れたか? この野郎!」

「いててて! 絞まってる! 絞まってるっつーの!」


 フレイは悪戯な笑みを浮かべると、祐樹の肩に腕を回し、そのまま締め上げる。

 祐樹はフレイの腕を掴みながら、荒々しく言葉を返した。


「よぉし、じゃあこれから、もっと眺めのいい場所に連れてってやるか!」

「ん? おいフレイ。まさか……」


 祐樹から腕を放したフレイは、深呼吸の後に、両手を広げる。

 祐樹は嫌な予感を感じ、言葉を紡ぐが、時既に遅かった。


「はぁぁぁぁ……ドラゴニック・ロード!」

「あぶっ!? こんなとこですんじゃねー!」


 突然龍変化を始め、炎を周辺に撒き散らし始めたフレイに対し、防御障壁を展開しながら周囲の人々を守る祐樹。

 しかしフレイはそんな祐樹の頑張りに構いもせず、ドラゴンへとその姿を変えた。


「さっ、行くぜ祐樹。早く乗りな!」

「わぁったよ! わかったけどゆっくりな! 俺始めて乗るんだからあああああああああああ!?」


 フレイは祐樹が背中に乗った瞬間、トップスピードで上昇を始める。

 祐樹はフレイの体にしがみつき、断末魔のような声を広場に残した。

 こうして二人は、より高い場所から、トライロードを、そして夕日を見つめる。

 そして王城前広場には、ポカンとしたカップル達だけが残されていた。


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