第六十六話:デートデートデート4
商業都市トライロードの宿屋のベッドに座る一越祐樹は、真剣な表情で、対面のベッドに座るフレイへと質問する。
その表情は真剣そのものだった。
「フレイ……聞き間違いか? 昨晩の件、もう一度言ってほしいんだが」
祐樹は真剣な表情のまま、フレイへと言葉を紡ぐ。
フレイは頭に疑問符を浮かべ、首を傾げながら言葉を返した。
「??? だーかーら。アタシとデートしてほしいって言ってんだよ」
「あー、はいはい。デートね。デートデート……はぁああああああああああああああ!?」
ただのゲーマーだった俺が異世界では無敵だった件
「待て、落ち着け俺。惑わされるな。きっとこれは幻覚だ」
「幻覚じゃねえよ失礼だな! アタシはただ、デートしてほしいと言ってるだけだろが!」
「おだまりぃ! ただでさえ豆腐メンタルの俺に、女子がそんなこと言うんじゃねー! 心臓爆発すんだろが!」
「どんな奇病!? さっきからユウキおかしいぞ!」
フレイは怒りながら、祐樹へとツッコミを入れる。
祐樹は心を落ち着かせ、頭をフル回転させた。
『落ち着け。トライロードでのイベントの中には仲間とのデートイベントもあったはずだ。それは問題ない。ただ……相手が俺だってのが問題だ。確かあれ、勇者とフレイのイベントだろ』
祐樹は言葉を落ち着け、再びフレイへと向き直る。
そしてゆっくりとした口調で言葉を紡いだ。
「あー、フレイさん? アオイと行ってくればいいんじゃないかな?」
「どういうこと!? それじゃデートにならないだろが!」
フレイは祐樹の言葉を受けると、再び怒りながら言葉を返す。
祐樹は「こんな時だけ正論吐くなよ……」と呟き、頭を抱えた。
「とにかく、デートすっぞ! ほら、エスコートしてやっから!」
フレイは座っていたベッドから降りると、すたすたと祐樹に近づき、右手を伸ばす。
祐樹はしぶしぶといった様子で、その手を取って立ち上がった。
「あー、もう、わかったよ。デートすればいいんだろ?」
「最初っからそう言えばいーんだよ♪」
こうして二人は連れ立って、宿屋から街へと繰り出す。
宴会の中での世迷言と思われていたフレイの発言から一夜明け、どうか夢でありますようにと願っていた祐樹の願いは、こうして簡単に打ち崩されたのであった。
「で? エスコートって、具体的にどこ行くんだよ?」
宿の外に出た祐樹は、フレイへと質問する。
フレイはしばらく何かを考える仕草をした後で、返事を返した。
「あー、丁度アタシの槍を新調したくてさ。買い物に付き合ってくんねーか?」
「それデートかなぁ!? いや、まあ得意分野だからいいけどな。じゃ、エスコートよろしくな」
祐樹は片手を上げ、フレイへと言葉を紡ぐ。
それを受けたフレイは「おう、任せとけ!」と元気良く返事を返した。
「…………」
「…………」
そして訪れる、沈黙の時間。
沈黙を先に破ったのは、祐樹の方だった。
「お前店の場所とか全然知らないだろ!? 知らないね!?」
ボーっと突っ立っているフレイに対し、言葉をぶつける祐樹。
フレイは口笛を吹きながら、返事を返した。
「ふひゅー♪ ふー♪ 何のことだかさっぱりわからねえなー♪」
「いやバレバレだから! そして口笛吹けてねえから!」
そっぽを向いて口笛を吹く真似をするフレイに対し、ツッコミを入れる祐樹。
やがて祐樹は、フレイの右手をガッシリと掴んだ。
「あーもう、いい武具屋なら知ってるから、連れてってやるよ! ほら!」
祐樹はフレイの右手を掴むと、そのまま手を繋ぐ形でずんずんと歩いていく。
フレイはみるみる内に顔を真っ赤にして、言葉を返した。
「ちょ!? い、いいいい、いきなり、手繋ぐんじゃねえよ!」
「散々俺の首に腕回してたでしょうが!? もうわかんないこの子の基準!」
真っ赤になりながら恥ずかしそうに言葉を紡ぐフレイに対し、ツッコミを入れる祐樹。
フレイは小声で「そ、それとこれとは何かちげーんだもん……」と返していたが、祐樹には聞こえていなかった。
「とにかく、さっさと行くぞ! 槍を新調するんだろ!?」
「わ、わかった! わかったから!」
フレイは手を引かれながらも、その手を振りほどく事はせず、赤い顔のまま祐樹に引っ張られていく。
こうして二人は、トライロードの武具店へと歩き始めていた。
「おーし、着いたな。ここがトライロードで一番の槍を扱ってる武具店だ」
「い、いつまで握ってんだよ! もういいだろ!?」
手を繋いだままの状態が気になったのか、フレイは祐樹の手を振りほどく。
その顔は耳まで真っ赤で、その表情は歳相応の少女のように照れていた。
「??? 普段は俺の肩に腕回してくるくせに、今日はどうした? 変なもんでも食ったのか?」
「う、うるせえな! そういうのとはこう、なんか、ノリが違うんだよ!」
「???」
いまいち的を得ないフレイの回答に、首を傾げる祐樹。
そんな祐樹の様子を察知したフレイは、すぐに祐樹の背中を押した。
「そ、それよりほら! さっさと入ろうぜ!」
「お、おう」
フレイはぐいぐいと武具店に向かって祐樹を押し出し、祐樹もまた、武具店に向かって足を進める。
こうして二人のショッピングは、その幕を開けた。




