第六十五話:突然の誘い
「ししょ~。こっち向いてくらはい」
「へ? 何……むぐっ!?」
アオイの言葉に反応した祐樹が、アオイの方角に顔を向けると、祐樹の顔より大きな肉を口の中に突っ込まれる。
アオイはぽわぽわとした笑顔のまま、嬉しそうに言葉を続けた。
「えへへ~。あーんですよぉ」
「もご、もごごもごごももごごもーんもごごもごごご!(いや、こんなワイルドなあーん聞いたことねえから!)」
祐樹は頑張って肉を咀嚼し、どうにかその全てを飲み込む。
それを見るとアオイはさらに嬉しそうに笑い、キラキラとした瞳で次の肉を掴んだ。
「いや、いい! ストップ! とりあえず落ち着こう!? このままだと殺人事件に発展するから! 主に窒息で!」
祐樹はアオイに対して言葉を浴びせるが、アオイは「ふぁ~?」と返事を返すだけで、とても意味が通じているようには思えない。
祐樹は片手で頭を抱え、「どう伝えればいいんだよもう……ていうか酒飲ませたの誰だよ」と、恨み節を呟いた。
「あ、酒飲ませたのアタシだ! 悪い悪い! あっはっはっは!」
「だろうね! なんとなくわかってた私!」
祐樹はあまりの事態に一人称まで混乱しつつ、フレイの豪快な笑いに答える。
しかし次の瞬間、祐樹は背後からの鋭い視線に気付いた。
「…………」
「あ、あの、レオナさん? どうかなさいまして?」
祐樹はビクビクしながら、自分のことを睨みつけてくるレオナに声をかける。
レオナの頬は赤く染まっており、褐色の肌に赤色が混じり、茶色がかった頬が少し色っぽかった。
「…………」
「無言やめてぇ! それ一番こたえるから!」
無言で睨みつけてくるレオナに対し、懇願するように言葉を紡ぐ祐樹。
やがてレオナは、ゆっくりとした動作で口を開いた。
「……じー」
「それ擬音化しただけだよね!? 会話って文化を使おう!? お願いだから!」
レオナが一体何を伝えたいのかは不明だが、その瞳からは明らかに不満の感情が見て取れる。
それが余計に祐樹の感情を揺さぶり、動揺させた。
「まあ細かいことはいいじゃねえか! とりあえず飲もうぜ! あっはっはっは!」
「とりあえず飲んだからこの状況なんだけどね!? ちょっとは責任感じようかキミは!」
豪快に笑うフレイに対し、噛み付くように言葉を返す祐樹。
その言葉を受けたフレイは、少しだけ冷静な顔になり、言葉を紡いだ。
「んじゃ、ちっと聞くけどよ。ユウキ、おめえ一体何者だ? いくらなんでも強すぎると思うぜ」
「ふぇ!? そ、そそ、そんなことないんじゃないかなぁ!? うん! ニャッフルやレオナ、それにアオイだって強いよ! なあみんな!」
急な質問に動揺した祐樹は、三人に対して言葉を紡ぐ。
それに対し三人は、それぞれの返事を返してみせた。
「そーれすよぉ。わらしもししよーにおそわってますから、つよいですよぉ。たぶん」
「……じー」
「ぐー……ぐー……」
「ロクな回答がねえ! ダメだこの子達ただの酔っ払いだ!」
祐樹は今更過ぎる事実を叫び、どうしたものかと同様する。
そんな祐樹を見たフレイは、腕に力を込め、ぐいっと一杯グラスを空にすると、言葉を続けた。
「ま、強い分には困らないからべっつにいいけどな! あっはっはっはっは!」
「あ、あははは……」
なんとか追跡の手を逃れた祐樹は、引きつった笑いを浮かべる。
フレイは呑気な笑顔で「おーい! こっちもう一杯おかわり!」と叫んでいた。
「しかし、今回は助かったぜ。フレイの活躍がなきゃ、この勝利は無かっただろうよ」
祐樹はどうにか調子を取り戻したのか、一口だけ酒を飲み、楽しそうに笑いながら、フレイに言葉を紡ぐ。
フレイは祐樹の横顔をぽーっとした表情で見つめると、何故か顔を赤くし、ばんばんと祐樹の肩を叩いた。
「ば、ばばば、ばかやろ! そんなことねえよ!」
「いててて! 叩くなよ!」
突然肩を叩いてきたフレイに対し、文句を返す祐樹。
それからしばらくフレイは無言になってしまい、赤い顔のまま俯いてしまった。
「にゃ~。ニャッフルを忘れるにゃ。まだ食べられるにゃ~……」
「うん。ニャッフルは大人しく寝てような?」
寝言(?)を呟くニャッフルに対し、その頭を撫でながら言葉を紡ぐ祐樹。
頭を撫でられたニャッフルは気持ちよさそうに喉を鳴らすと、再び夢の世界へと旅立っていった。
「それよりししょー。おさけがすすんでないれすよお。あと私もなでなでしてください」
「あ、それあたしも~」
「どさくさに紛れて何言ってんの君達!? 本当飲み過ぎだぞ!」
突然素っ頓狂な事を言い出したアオイとレオナに対し、ツッコミを入れる祐樹。
その様子を見ていたフレイは、やがて何かを決心したような表情となり、その口を開いた。
「よし、決めた!」
「ふぇ!? な、何がでございましょう?」
突然横で大声を出された祐樹は、ビクビクしながらフレイへと質問する。
その様子を見たフレイは「あ、悪い悪い」と悪戯な笑顔を見せた。
「まあ、たいした事じゃねえんだけどさ、ユウキにちょっとしたお願いがあんだよ」
「おう、なんだ? 俺に出来ることなら何でも言ってくれ」
思ったよりまともそうなフレイの言動に、ほっとした様子で返事を返す祐樹。
フレイはその言葉を受けると、一度だけ深呼吸をし、言葉を続けた。
「アタシと、一日デートしてくんねーか?」
「…………へ?」
フレイの言葉が信じられず、間抜けな声を出す祐樹。
その後祐樹がレオナに尻を蹴られ、アオイにほっぺをつつかれたのは言うまでもない―――