第六十四話:祐樹絶対包囲網
「……で、どうしてこういう状態になるんだ?」
祐樹は酒の入ったグラスを両手で掴むと、ぼーっと宴会の様子を見ながら言葉を紡ぐ。
その周囲にいるアオイ、レオナ、フレイの三名は、それぞれ祐樹の言葉に反応を返した。
「ししょー! それよりもっとのんれくらさいよぉ! あはははは!」
「…………ひっく」
「ユウキぃ! 酒が進んでねえぞぉ! あっはっはっは!」
祐樹は今、アオイに右肩に寄りかかられ、左からはフレイが腕を回してきて、背中からは何故かレオナが寄りかかってきている。
祐樹はどうしてこうなったのかわからず、グラスを掴んだまま固まっていた。
「らいたいししょーはれすねえ。おんなのひとに……ふにゃふにゃ」
「ちょ、気になる! アオイその台詞最後まで言って! 寝るなー!」
祐樹はこくりこくりと船をこぎ始めてしまったアオイに対し、声を荒げる。
アオイはそんな祐樹の声に応え「あ、おはようございます。ししょー」と、にぱーっとした笑顔を見せた。
「おはよう! 君本当自由な子になっちゃったね!?」
ぽわぽわとしたアオイに対し、厳しいツッコミを入れる祐樹。
しかしそんな祐樹に、今度は背中から寄りかかっているレオナが声をかけた。
「うるふぁいわね~。だいたいあんたは鈍感っていうか、そもそも……ふにゃふにゃ」
「ちょ、気になる! 何それ流行ってんの!?」
またしても肝心なところを言ってくれないレオナに対し、今度は哀願するようにツッコミを入れる祐樹。
しかし今度はそんな祐樹の肩に腕を回していたフレイが、祐樹へと言葉をぶつけた。
「おう! 細かい事は気にすんな! 飲め飲め! あっはっはっは!」
「細かくないよ!? わりと重要ぽいことこの子達言ってくれないんだよ!?」
グラス片手に豪快に笑うフレイに対し、涙目になりながら言葉を返す祐樹。
そしてその瞬間、太ももに何か重みを感じた。
「にゃ~。ニャッフルはさいきょうにゃ~」
「ニャッフルさん!? 寝るならお布団に行きましょうね!?」
ニャッフルはまるで寝床を探す猫のようにとことこと四つんばいになって歩くと、祐樹の太ももにほっぺを摩り付け、そのまま眠りに入る。
その寝顔は安らかさに満ちており、とてもではないが起こせそうにない。
つまり―――
「あのう、皆さん。俺動けないんスけど」
祐樹は酒の入ったグラスを両手に持ちながら、全員に対して言葉を紡ぐ。
そして間髪入れず、ニャッフル以外の全員から返事が返ってきた。
「「「我慢(して/しろ/しな)」」」
「あ、はい」
祐樹はもう何かを達観したような表情で、瞳の光を失う。
もはや脱出不可能であることを悟り、覚悟を決めたようだ。