第六十二話:大戦の終焉
「!? おおよ! 任せときな! はあああああ……」
祐樹の言葉を受けたフレイは、大槍を地面に突き立てると、両手を左右に広げ、精神を統一して力を溜める。
その間群がってくるゴブリン達は、祐樹が肉弾戦と魔法で蹴散らした。
「師匠! フレイさんは一体何を!?」
「こっちは大丈夫だから、アオイは目の前の敵だけに集中しろ! ニャッフル、サポート頼むぞ!」
「あいあいさーにゃ!」
ニャッフルは祐樹の言葉を受けると、アオイの背後を守るように構える。
アオイはその姿を見ると、真剣な表情で眼前のゴブリンを睨みつけた。
『そうだ。今は師匠を信じるしかない。私にはそれしか、できない!』
アオイは「はあああ!」という掛け声と共に、群がってくるゴブリン達を切り倒していく。
打ち損じたゴブリンは、ニャッフルの拳によって地に沈められた。
「はぁぁぁあぁあああ……」
『あと数分……ってとこか。問題ねえな』
横目で精神統一しているフレイを確認した祐樹は、ゴブリン達を片手間で吹き飛ばしていく。
その姿には、もはや余裕さえ感じられた。
「いよっしゃあ! いくぜ、ユウキ!」
「おお! いっけえ、フレイ!」
フレイの言葉を受けた祐樹は、嬉しそうに言葉を返す。
やがてフレイは右拳を天に突き上げ、そして叫んだ。
「はぁぁぁ……ドラゴニック・ロード!」
フレイが叫んだ瞬間、フレイの体が大型の炎に包まれ、その姿を見えなくする。
その様子に、アオイは目を丸くした。
「し、師匠!? フレイさんは一体!?」
「ま、見てな。フレイの真の姿が見られるぜ」
声を荒げるアオイに対し、あくまで冷静に言葉を返す祐樹。
やがて炎の中から、一匹のドラゴンが姿を現した。
『グオオオオオオオオオオオオオ!』
『ピギッ!?』
『ピギピギィ!』
「ははっ。あいつらビビッてやがる。まあ、そりゃそうか」
ドラゴンはやがてその大翼で空に飛び立つと、空から炎のブレスを周囲のゴブリンたちに浴びせかける。
その威力は絶大で、Sクラスの炎魔法レベルの威力があった。
「し、師匠、あのドラゴンは、まさかフレイさんなんですか!?」
「ああ、その通りだ。一定時間だけだが、龍族はドラゴンに変化できる。フレイの場合フレイムドラゴンだから、あの姿なのさ」
アオイの質問に対し、相変わらず冷静に答える祐樹。
フレイ(ドラゴン)は一通りのゴブリンを消し炭に変えると、やがて元の姿に戻った。
「ふぅーっ。さすがにブレス連発は疲れるわ」
フレイは大槍を両肩に担ぐと、悪戯な笑顔を浮かべて祐樹たちへと言葉を紡ぐ。
祐樹はフレイと同じようにニッコリと笑うと、返事を返した。
「だろーな。でもおかげで、決着がついたみたいだぜ。な、アオイ」
祐樹はフレイと話していたかと思うと、そのまま視線を移し、アオイへと向き直る。
その言葉を受けたアオイは、慌てて周囲を見渡した。
「決着? ……あ」
周囲を見渡したアオイを待っていたのは、もはや動かぬ骸と化したゴブリンたちの山。
中にはすでに祝杯を上げ、喜んでいる冒険者たちの姿まであった。
「諸君! 諸君らの活躍でゴブリンは撃退した! 我々の勝利だ!」
主催者らしき冒険者は、自らもボロボロになりながら、拡声器を使って勝利の報告を皆に届ける。
冒険者達はその声に応じ、「ウオオオオオ!」と声を荒げた。
「どーやら、片付いたみてーだな。あー面倒くさかった」
祐樹は肩をゴキゴキと鳴らし、まるで何事もなかったかのように振舞う。
その姿を見たアオイは、両手を重ね、祐樹へと賛美の視線を送った。
「さすが師匠! あれだけの戦闘の後なのに、傷一つありません! さすがです!」
「あー、いや、みんなが頑張ったおかげだよ。あははは……」
祐樹はアオイの視線が照れくさいのか、頬を赤く染め、その視線を逸らす。
しかしそんな祐樹を、フレイは遠くからしっかりと見つめていた。
「イチゴエユウキ……か。ふふっ」
「???」
何故かニヤリとしているフレイを見上げ、頭に疑問符を浮かべるレオナ。
そしてその後、ギルドを上げた大祝勝会が開かれ、その料理のほとんどをフレイが平らげてしまうのだが……それはまた、別のお話。