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第六十一話:開戦

『ピギイイイ!』

『ピギピギ!』

『ピギィ!』


 トライロードの外に出た一行を待っていたのは、平原を埋め尽くすようなゴブリンの大群。

 それらはトライロードを完全に取り囲んでおり、今にも攻め込んで来そうな勢いである。

 平原は完全にゴブリンの肌色である緑に染まり、ある種異様な光景が眼前に広がっていた。


「うひゃ~。予想通りすげー数だなぁ」


 祐樹は右手を眼の上に掲げると、呑気にゴブリンの大群を見つめる。

 ニャッフルは間髪入れず、声を荒げた。


「あ、あんな数を相手にするのかにゃ!? 大丈夫かにゃ……」


 さすがのニャッフルも不安なようで、普段はピンと立っているネコミミも今は垂れ下がってしまっている。

 祐樹はそんなニャッフルの頭を撫でると、優しく声をかけた。


「心配すんな、ニャッフル。俺たちの左右を見てみろ」

「にゃ? ……あ」


 ニャッフルは言われたとおりに左右を見渡すと、そこには数え切れないほどの冒険者達がひしめき合っていた。

 皆一様にゴブリンの大群を見つめ、使命に燃えた表情をしている。

 それを見たニャッフルもまた、表情を真剣なものに変えた。


「そうにゃ。ニャッフルたちだって一人じゃない、にゃ」

「ああ、そうだ。俺たちみんなで、この街を守るんだからな」


 祐樹は嬉しそうに笑うと、再びニャッフルの頭を撫でる。

 ニャッフルは相変わらず真剣な表情で、ゴブリンの大群を見つめていた。


「おおい! そろそろ奴らも動き出す! 最前線の君達はまず、敵の数を減らしてくれ! 我々は万が一にもゴブリンが街に入らないよう、後方支援する!」


 主導者らしき男は、最前線を任せる冒険者達に、一斉に声をかける。

 その声に合わせて、「ウオオオオ!」と、地鳴りのような掛け声が返ってきた。


「いよいよだな……陣形はいつも通り、アオイ、ニャッフルの順でいく! 今回は敵の数が多い。レオナの大魔法が鍵になるぞ!」

「任せといて。あんな雑魚ども、全員蹴散らしてやるわよ」


 レオナは杖を構え、勇ましく祐樹に返事を返す。

 そしてフレイは、背中に背負っていた大槍を振り回しながら取り出すと、ゴブリンの大群に向かって構えた。


「よぉし、呪文詠唱中の護衛は任せな! 雑魚散らしは得意だからな!」

「ああ、それで頼む! じゃあみんな、戦闘開始だ!」


 祐樹の声に応え、全員が「おお!」と返事を返す。

 その後まるでその声を聞いていたかのように、ゴブリンの大群が奇声を上げてトライロードへと迫ってきていた。

 そしていよいよ、アオイの剣とゴブリンの斧が交差する。

 それは、戦いの開戦を意味していた。


「レオナ! 呪文詠唱開始! ニャッフルはアオイのサポート。フレイは……」

「雑魚散らしだろ!? うおらあああああああああ!」


 フレイは大槍を頭上で回転させて突風を巻き起こすと、レオナの周りに集まってきていたゴブリン達を吹き飛ばす。

 それでも吹き飛ばなかった屈強なゴブリン達は、一人一人その大槍で突き倒していった。


「その通り。さすが龍族。戦闘力は折り紙つきだな」


 祐樹はうんうんと感心し、フレイの戦いぶりを見守る。

 それを横目で見たアオイは、思わず呟いた。


「フレイさん。すごい……」


 フレイの戦いぶりに見惚れたアオイに、一瞬の隙が生まれる。

 その瞬間、ゴブリンの斧がアオイに振り下ろされた。


「!? アオイ、油断すんな!」

「にゃああああ!」


 アオイに振り下ろされた斧を、ニャッフルは咄嗟にとび蹴りで弾き飛ばす。

 アオイはハッとして、ニャッフルへと言葉を紡いだ。


「!? す、すみませんニャッフルちゃん! 油断していました!」

「大丈夫にゃ! お互いにバックアップするのにゃ!」

「よぉし、それでいい! いい感じだぞ!」


 お互いに声を掛け合って戦う二人に対し、同じく声をかける祐樹。

 戦闘はさらに激しさを増し、周囲の冒険者達の中には、ピンチに陥っている団体もいた。


『!? やべえな……仕方ない。確か詠唱短縮のスキルもあったはずだから、こっそり助けるか』


 祐樹は広い視野で戦況を見極め、苦戦していた冒険者達の周りにいるゴブリンに、その視線を合わせる。

 やがて人差し指と中指を立てると、小声で大魔法を唱えた。


「……リベリオン・ウェイブ」


 祐樹が魔法の名を呼ぶと、その指先が光輝き、やがて大津波が、ピンチだった冒険者達を守るようにうねりを上げてゴブリン達を蹴散らす。

 それを横目で見ていたフレイは、両目を見開いて驚いた。


『!? こいつ、Sランクの魔法を杖もなく、しかも短縮詠唱で放ちやがった。一体何者だよ……』


 フレイは一瞬動きが止まり、そこに隙が生まれる。

 ゴブリンはその隙を見逃さず、持っている手斧でフレイへと襲い掛かった。


「!? フレイ! 来てるぞ!」

「お、おおよ!」


 フレイは咄嗟に手甲で手斧を受け止めると、そのままの流れで槍を振り回し、ゴブリンを吹き飛ばす。

 そしてそのまま、レオナの護衛に戻った。


『今はそれどころじゃねえ……か。しかし、この大群、思ったより数が多いぜ』


 フレイは次から次へと現れるゴブリンに対し、睨み付けるような視線をぶつけながら考える。

 しかしその瞬間、レオナの呪文詠唱が完了した。


「待たせたわね! ヴォルテックス・ディザスター!」


 レオナがその魔法名を唱えると、無数の雷が周囲のゴブリン達を一掃する。

 しかしその後ろから、第二第三のゴブリンの集団が、迫ってきていた。


「師匠! 物凄い数です! 一旦引いて体勢を整えますか!?」

「いや、大丈夫だ! このままの陣形で戦っていれば、いずれ奴等も弾切れになる!」


 提案してきたアオイに対し、大声で応える祐樹。

 アオイはそんな祐樹の言葉を信じ、無言で頷いて戦闘を続けた。


「おっしゃあ! かかってこいやあああああああ!」


 フレイは相変わらず大槍を振り回し、迫り来るゴブリンの大群をまるで紙のように吹き飛ばしていく。

 その間にレオナは呪文詠唱を続け、Sランクの魔法を放ち続けた。


「はぁっ。はぁっ。もう、ダメ。魔力が……」


 レオナは疲れきった様子で、杖で体を支えながら言葉を紡ぐ。

 どうやら魔力切れを起こしてしまっているようだ。


「仕方ねえな……フレイ! 龍変化で敵を一掃できるか!? 時間は俺が稼ぐ!」

「!? おおよ! 任せときな! はあああああ……」


 祐樹の言葉を受けたフレイは、大槍を地面に突き立てると、両手を左右に広げ、精神を統一して力を溜める。


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