第六十話:緊急依頼
トライロードのギルドにたどり着いた一行を待っていたのは、これまで見たことないほど大量の冒険者達だった。
さすがにトライロード全体の冒険者が全員集まっているだけあってその状況は壮観で、戦士、魔法使いなど、様々な職業の冒険者達が一同に会している。
「ほえ~。トライロードの冒険者って、こんなにいたのかにゃ~」
「これでもまだ全員じゃないぜ。まあこの大陸最大の商業都市だからな」
ポカンと口を開けながら言葉を紡ぐニャッフルに対し、説明をする祐樹。
その祐樹の言葉に、今度はアオイが驚いた。
「これでも全員揃っていないんですか!? 一体どんな大規模な依頼なんでしょう……」
アオイの心配はもっともだった。
これだけの冒険者を一度に集めたのだ。何か理由があるに違いない。
そしてその理由とは、少なくとも喜ばしいことではないはずだ。
「まっ、どんな依頼だろうが大丈夫だって! アタシに任せときな! あっはっはっはっは!」
「ふふっ、心強いです」
アオイの背中をばしばしと叩くフレイに対し、にこやかに答えるアオイ。
レオナは注意深く周囲を見回していたが、やがて口を開いた。
「どうやら全員集まったみたいね……依頼内容が発表されるっぽいわよ」
レオナの声を聞いた一同は、同時に前方へと注目する。
その視線の先では、スーツを着た初老の男性が、拡声器を持って壇上に上がっていた。
「諸君! お集まり頂きありがとう! 今日集まってもらったのは他でもない、このトライロードに危機が迫っているからだ!」
主催者らしき男性の声を聞いた冒険者達は、ざわざわと騒ぎ出す。
その後「静粛に!」という声を受け、冒険者達はその口を塞いだ。
「実は、ゴブリンの大群がこのトライロードに迫っている。目的はもちろん、物資の略奪だ。これを許すわけにはいかない」
主催者らしき男性は右拳に力を込め、言葉を紡ぐ。
冒険者達は静かに、その言葉に耳を傾けていた。
「冒険者諸君! 君達の力をもって、この脅威を退けてもらいたい! これはギルド始まって以来最大級の緊急依頼だ。諸君らに冒険者としての誇りがあるのなら、是非参加してほしい! この街を守ってくれ!」
主催者らしき男性の声を聞いた冒険者達は、うおおお! と声を張り上げてそれに答える。
男性の声を聞いたアオイは、動揺した様子で祐樹へ声をかけた。
「ど、どどど、どうしましょう師匠! ゴブリンの大群って、これじゃまるで戦争です!」
「まあ、それくらいの規模にはなるだろうな。でもまあ、やることは変わらねえよ。そんな心配すんな」
祐樹はニッコリと笑いながら、ぽんぽんとアオイの頭を叩く。
アオイは「は、はひ」と顔を赤くして返事を返し、祐樹はレオナとニャッフルに尻を蹴られた。
「ま、とにかくゴブリンを蹴散らせばいいんだろ!? 楽勝楽勝! あっはっは!」
「いてて……ま、まあともかく、フレイくらいどーんと構えてればいいさ。お前らにはそれくらいの実力がある」
祐樹は何故か蹴られた尻を摩りながら、みんなへと声をかける。
各自はそれぞれ照れたり胸を張ったりしながら、祐樹の言葉に応えた。
「君達のモンスター討伐数は……ん!? こ、これは凄い。よし、是非とも最前線をお任せしよう」
「……へ?」
主催者らしき男性は書類を見ると、祐樹たちの実力を測り、最前線への配置を命ずる。
それを聞いた祐樹は、ポカンと口を開けて答えた。
『まじかよ。最前線って一番難しいエリアじゃん。しまった……モンスターを討伐しすぎたか』
祐樹はボリボリと頭を搔きながら、男性からの命令を頭の中で反芻する。
しかし男性はすでに他の冒険者の所に行ってしまい、どうやら命令の撤回はありえなさそうだ。
「し、師匠……最前線って、私たちで大丈夫なんでしょうか」
「んー、ま、大丈夫だと思うぜ。しかし今回は俺も、参加しなきゃかもなぁ」
「???」
うーんと難しい表情をして腕を組む祐樹に対し、頭に疑問符を浮かべて首を傾げるアオイ。
しかしそんな祐樹の肩に、がっしりと腕が回された。
「よぉし、そうと決まればさっさと行こうぜ! あっはっはっは!」
「ちょ、フレイさん!? まだ色々準備が……ああああ!」
フレイは祐樹の肩に腕を回すと、そのままずるずるとギルドの出口へと引き摺っていく。
祐樹は抵抗しようとするが、顔に当たる柔らかな感触に、完全に力が抜けていた。
「し、師匠!? 待ってくださーい!」
「ちょ!? ニャッフルを置いていくにゃー!」
「はぁ。本当、私たちこんなんばっかりよね」
三人はそれぞれの言葉を口にしながら、先行してしまったフレイと祐樹を追いかける。
こうしてゴブリンの大群との大戦は、その火蓋が切って落とされようとしていた。