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第五十九話:飲食店に行こう

「うんめー!」


がつがつむしゃむしゃと、出された料理を平らげる龍族の娘。

アオイたち一行は、その様子をポカンとしながら見守っていた。


「す、凄い食欲ですね……」

「ああ。カジノで余分に稼いでおいてよかったな」


 一行はあれから飲食店に向かい、好きなものを龍族の娘に注文させた。

 その瞬間龍族の娘は目を輝かせ、迷わずに店のメニュー全てを注文し、それをたいらげようとしている。

 店の店主も厨房も、今や戦争のような忙しさであった。


「これおかわりー! あ、これうめーぞ、食うか?」

「おう、じゃあもらうわ」

「師匠馴染むの早いですね!? 二人なんてまだポカンとしてますよ!?」


 娘から食事を分けてもらっている祐樹を見て、驚きと共に声を荒げるアオイ。

 祐樹はポリポリと頬を搔きながら「まあ、ほら、こういうの慣れてるから」と適当な回答を返した。

 まさか攻略本に性格も載っているから予想通りだし、何度もプレイしてるイベントだから慣れてる、とは言えるわけがない。


「お前話わかるなぁ! あっはっはっは!」

「は、ははは……うっす」


 娘は祐樹の肩に腕を回すと、豪快に笑ってみせる。

 先ほどまでのぐったりとした姿からは、想像もできない。


「そういえば、自己紹介がまだでしたね。私はアオイ=フィルソード。あなたのお名前は?」


 アオイはゆったりとした上品な仕草で、娘へと話し掛ける。

 娘は食べかけの肉を掴みながら、アオイへと答えた。


「アタシか? アタシはフレイ=ストライカーってんだ。よろしくな!」


 フレイはニカッと笑いながら、片手を上げてアオイへと挨拶する。

 アオイはニッコリと微笑むと、「こちらこそよろしくお願いします」と返事を返した。


「あ、それで、今あなたが掴んでいるのが私の師匠で、ユウキ様です。で、こっちで固まってるのが左からニャッフルちゃん、レオナさんですね」


 アオイは手のひらを使って後ろで固まっている二人を指し、フレイへと紹介する。

 フレイは嬉しそうに瞳を輝かせると、さらに言葉を続けた。


「おう! 二人とも、よろしくな! あっはっはっは!」

「え、ええ」

「よろしくだにゃ~」


 豪快に笑うフレイに対し、ぎこちない笑顔で答える二人。

 捕らえられていた時とのギャップが激しすぎて、まだ状況についてこれていないようである。


「しっかし、ニャッフルって言ったか? お前可愛いな~。うりうり」

「おふ、なかなかテクニシャンヌ……」


 フレイは祐樹から腕を離すと、ニャッフルの顎下を撫でる。

 ニャッフルは気持ちよさそうに喉をゴロゴロと鳴らした。


「そっちのレオナっていったか……お前、魔法使いだな。しかも、すげー強いだろ。魔力量がハンパじゃねえ」

「え!? そ、そんなことないわよ…………えへへ」


 レオナは突然褒められた事に気を良くしたのか、少し頬を赤く染めて頭を搔く。

 その後レオナは最後に、アオイへと向き直った。


「んで、アオイ……お前、勇者だろ。魔力でわかるよ」

「ええええ!? す、すごい……」


 一発で正体を見破られてしまったアオイは、驚きに声を荒げる。

 ようやくフレイの腕から開放された祐樹は、アオイへと言葉を紡いだ。


「龍族ってのは元々勘が鋭い種族だからな……それくらいはわかるのさ」

「そ、そうなのですか。凄いですね……」


 祐樹の言葉に納得し、こくこくと頷くアオイ。

 するとフレイは、少しだけ顔を赤くして再び祐樹と肩を組んだ。


「なんだいもう、照れるじゃねーかよ! ほれ、食え食え!」

「もう食えねーよ! お前のペースに巻き込むな! ってか、その、さっきから当たってんだよ!」


 祐樹は何故か顔を真っ赤にしながら、フレイへと抗議の言葉をぶつける。

 フレイは頭に疑問符を浮かべ、首を傾げた。


「当たってるって……何が?」

「何がって……その、む、胸……が、だよ」


 祐樹は顔を真っ赤にしながら顔を背け、消え入るような声で言葉を紡ぐ。

 フレイはその言葉を聞くと、再び豪快に笑って見せた。


「なーんだ。アタシは気にしねーから大丈夫だって! あっはっは!」

「俺が気にするんだっつーの! お前らからもなんか言ってやってくれ!」


 祐樹は一行に助けを求めるべく、アオイたちの方を向く。

 しかし一行はそれぞれ、浮かない表情で落ち込んでいた。


「フレイさん、確実に私より大きいです……」

「何言ってんのよアオイ。あたしなんか、あたしなんか……くっ」

「女はおっぱいじゃないにゃ! ニャッフルは負けないにゃ!」

「思いのほか深刻なダメージ!? どうしたのお前ら!」


 予想外のメンバーの様子に、動揺する祐樹。

 フレイの格好は両手両足に甲冑は装備しているものの、胴体部分はビキニしか着ておらず、かなり露出度が高い。

 さらに豊満な体と炎のように赤い髪が相まって、ぶっちゃけかなり目立っていた。

 というより、この風体ではどこに居ても目立つだろう。


「いやー、食った食った。もう腹いっぱいだぜ」

「こっちの財布はほぼ空だけどな……ああ、カジノが恋しいぜ」


 フレイの食事代を払い終わった祐樹は、落ち込んだ様子で言葉を返す。

 フレイは「いやー、悪い悪い」と祐樹の背中をばしばし叩いた。


「でも、食った分はしっかり働くぜ。アタシは一応槍使い……いや、竜騎士やってんだ。雑魚散らしなら任せときな!」


 フレイはニカッと笑いながら、親指で自らを指し示す。

 その体の大きさも相まって、中々頼りになりそうである。


「槍を使うんですね……そういえば確かに、持ち物の中に大きな槍が含まれていました」


 アオイはフレイを引き取った際の事を思い出し、言葉を返す。

 フレイは「まーな。自分で言うのもなんだけど、結構強いぜ」と自信満々に返答した。


「移動手段確保のつもりが、思わぬ戦力強化ですね、師匠! フレイさん、格好良いです!」

「おう。ま、その実力の程も、すぐにわかるさ」

「???」


 意味深な言葉を返す祐樹に対し、不思議そうに頭に疑問符を浮かべるアオイ。

 しかしそんなアオイをよそに、食べ物屋に一人の男が飛び込んできた。


「おおーい! ギルドが冒険者に緊急招集をかけたぞ! 冒険者は全員、ギルドに集合だってよ!」

「!? 一体、何事でしょうか。緊急招集なんて、初めてです」


 アオイはその男のただならぬ雰囲気に驚き、言葉を紡ぐ。

 祐樹は予想通りの展開にニヤリと笑い、言葉を紡いだ。


「やっぱり来たか……そろそろだと思ってたんだ」

「???」


 何故か動揺していない祐樹の様子に、頭に疑問符を浮かべるアオイ。

 しかしそんなアオイをよそに、今度はフレイが声を荒げた。


「うっしゃ、仕事だな! 食わせてもらった分、きっちり働くぜ!」


 フレイは荷物の中から槍を取り出すと、一度ぐるりと振り回してから背中に背負う。

 その際の風圧で、店の中の食器が大きく揺れた。


「にゃ!? こ、このおねーちゃん、何者にゃ!? 凄い力にゃ!」

「こりゃ、大口叩いてたのもあながち嘘じゃないわね……」


 そんなフレイの様子に、それぞれの感想を述べるニャッフルとレオナ。

 祐樹はパシッと拳を手のひらに打ち付けると、全員へ声をかけた。


「うっし! まずはメインクエスト……もとい仕事だ! 行くぜ、お前ら!」

「「「「おー!(にゃ)」」」」


 一行は一斉に右手を天に突き上げ、ギルドに向かって歩いていく。

 この後まさかあんな大仕事を引き受けることになろうとは、祐樹以外誰も知る由もなかった。


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