第五十七話:フランの秘密
「ここがカジノ……ですか。はじめて来ました」
「にゃー……なんだか派手なところだにゃー……」
「そうね。なんか無駄に派手って感じだけど」
カジノに入った一行だったが、ニャッフルとアオイはポカンと口を開け、豪華な装飾に目を奪われる。
沢山のテーブルの上では様々なゲームが歓声と共に行われ、下は赤いじゅうたん、上は豪華なシャンデリアと、まさに豪華絢爛な場所である。
共に田舎育ちである三人にとっては、まさにカルチャーショックの塊とも言えた。
「まあまあ、とにかくゲームを始めようぜ。やるゲームは、あれだ! “モンスターウォーカー!”」
祐樹は急に生き生きとした表情に変わり、テーブルの一つを指差す。
三人は同時にそのテーブルを見て、アオイは手を上げながら祐樹へと質問した。
「あのー、師匠。あれはどういったゲームなのでしょうか?」
「よくぞ聞いたアオイ! あれはな、ダイスを振って、出た目の数だけコマを進めていくんだ。で、ディーラーより先にゴールした方が勝ち。簡単だろ?」
アオイの質問を受けた祐樹は、嬉々としてゲームの説明を始める。
それを聞いていたレオナは一点の疑問を持ち、祐樹へと質問した。
「……で、どれくらいあれをやれば億単位のお金が手に入るわけ?」
「おふ。痛いとこ突くなレオナ」
あまりに単純なルールに疑問を抱いたレオナは、胸の下で腕を組みながら祐樹へと質問する。
祐樹はたじろぎながらも、やがて質問に答えた。
「えーっと。3000回くらい……かな? えへへ」
「さんぜんかい!? 日が暮れちまうにゃ!」
祐樹の衝撃の一言に、ツッコミを入れるニャッフル。
しかし祐樹は、そんなニャッフルに力強く返答した。
「仕方ねーだろが! 他のゲームはリスクが高いから、結局これやるのが一番稼げるんだよ! 俺なんか本編よりカジノにいた時間のが長いくらいだ!」
「??? 師匠。一体何の話をされているのですか?」
唐突にゲームをプレイしていた頃の話をした祐樹に対し、疑問符を浮かべて質問するアオイ。
祐樹はしまったと片手を口に当て、やがて言葉を続けた。
「と、とにかくだ。これをやりまくるぞ! それしかない!」
「あのねぇ。そんな悠長なこと言ってて大丈夫なわけ? 期限に間に合わなかったらあの娘売られちゃうのよ」
レオナは相変わらず腕を組みながら、祐樹へと言葉をぶつける。
祐樹はキリッとした表情で、レオナへと返事を返した。
「大丈夫だ。俺の計算上はギリギリ間に合う」
「どこから来るのよその自信は……」
キリッとした表情で言葉を返す祐樹に、片手で頭を抱えるレオナ。
先ほどの言葉を聞く限り、3000回という回数は消して少なくない。本当にギリギリの戦いになってしまうだろう。
そしてそんな一行のやりとりを聞いていたフランは、不思議そうに首を傾げ、声をかけた。
「あのー、さっきから皆さん、何を言ってますの?」
「ああ、フラン。悪い。お前には関係ない―――はっ!」
「!? な、何よ突然、びっくりしたわね」
フランに穏やかに答えていた祐樹は、突然何かを思い出したように、頭を跳ね上げる。
するとそのまま、頭の中をフル回転させた。
『落ち着け。落ち着け俺。攻略本の内容を思い出せ。確か198ページの隅の方に、何か書いてあったはずだ。あれは確か―――』
「!? そ、そうか! フラン! ちょっとお願いがあるんだが、いいかな!?」
「ふぇ!? は、はひ! わかりましたわ!」
突然フランへと近づいた祐樹は、真剣な表情で言葉を紡ぐ。
フランは突然近くなった祐樹の顔に驚き、その頬を赤く染めながら答えを返した。
「お前普段、右手でダイスを振ってるだろ? 出したい目を思い浮かべながら、左手でダイスを二つ振ってみてくれ」
「??? えっと……じゃあ、6のダブルを出しますわ。……えいっ」
祐樹は空いているテーブルへと移動すると、備え付けのダイスをフランへと振らせる。
ニャッフルたち三人は、そのダイス目を静かに見守った。
「!? ろ、ろくにゃ! 本当にろくのダブルが出たにゃ!」
テーブルの上を転がったダイスは、6のダブルを示している。
ニャッフルはしっぽをピンッと立て、興奮した様子で声を発した。
「ほ、ほんとうですわ! じゃ、じゃあ次は1のダブルを……えいっ」
「ま、また宣言通り!? ユウキ、これどうなってるの!?」
再び宣言通り1のダブルを出したフランを見て、祐樹へと質問するレオナ。
祐樹はふっふっふと笑いながら、ドヤ顔でその質問に答えた。
「実はフランの家系には、ある特殊能力が備わっている。それがこのダイスを自在に操る能力だ。フランの親父も、実はこの能力で巨万の富を得ていたのさ」
まあ、攻略本の隅っこに書いてあるプチ情報なんだけどな、とは言わず、そこまでで言葉を区切る祐樹。
レオナはそんな祐樹の言葉を受けると、ぽかんと口を開けて驚いた。
「よぉし、これで二人一組でやるゲームでも勝てる! 全財産賭けるぞアオイ、財布出せ!」
「ええええ!? 大丈夫なんですか師匠!?」
突然素っ頓狂なことを言い出す祐樹に対し、驚きながら返事を返すアオイ。
祐樹はそんなアオイに、親指を立てながら自信満々に答えた。
「大丈夫だ! 俺幸運値もマックスだから!」
「すみません師匠! 意味がわかりません!」
アオイは祐樹の言葉の意味がわからず、ただ混乱する。
しかしやがて財布を渡すと、祐樹はフランの手を引いて走り出した。
「よぉし、行くぞフラン! 今日は長い夜になりそうだぜええええ!」
「ふぇ!? は、はひ! わかりましたわ!」
フランは祐樹に手を掴まれ、真っ赤になりながらゲームの行われているテーブルへと駆け出していく。
残された三人はお互いに目を合わせると、同時にこくりと頷いた。
なおその後、祐樹が二人に尻を蹴られたのは、言うまでもない。




