第五十五話:カジノへGO
「と、いうわけで、シーサンセットに着いたにゃー!」
「おー、相変わらず観光客で溢れてるねぇ」
ニャッフルはやー! と両手を上げ、気合を入れて声を発する。
祐樹は相変わらず活気のある街の様子を確認し、うんうんと頷いていた。
「あ、あんた達、足速すぎ……ちょっとは待ちなさいよ」
「はあっはあっ……さすが師匠です」
二人を追ってきたレオナとアオイは、それぞれ肩で息をしながら、言葉を紡ぐ。
祐樹はそんな二人を見ると、ポリポリと頬を搔きながら言葉を返した。
「あー、悪い悪い。カジノができると思ったら、いてもたってもいられなくてな」
祐樹は悪戯な笑顔を浮かべながら、楽しそうにレオナ達へと返答する。
その笑顔を見たレオナは何故か頬を赤く染めながら、さらに言葉を続けた。
「フ、フン! まったくガキなんだから。それよりさっさと行くんでしょ? カジノ」
「おうよ! 行くぞニャッフル!」
「ガッテンにゃ!」
祐樹とニャッフルは何故か肩車状態で合体し、ハイテンションでカジノに向かって駆け出していく。
その後ろを、アオイとレオナは少し疲れた様子で追いかけた。
「と、いうわけで着いたにゃー! ここがカジノかにゃ?」
「おう! そうだぜ! 綺麗だろ!」
祐樹はニャッフルを肩車した状態で、目の前のカジノを指差す。
カジノはいくつものネオンで装飾され、確かに電子的な輝きを放っていた。もっともその動力自体は、当然魔力なのだが。
「はあっはあっ……で、入るの? なんか入り口を黒服の人が塞いでるみたいだけど」
「……へ?」
追いかけてきたレオナの言葉を受けた祐樹は、そのままカジノの入り口へと視線を移す。
確かに入り口には、屈強な黒服の男が腕を組んで仁王立ちしていた。あれでは中に入れない。
「しまったああああああ! 入場規制がかかってやがる!」
「えっ何!? なんなのよ!?」
突然四つんばいになって倒れこんだ祐樹に動揺し、声をかけるレオナ。
しかしその時祐樹の頭の中では、超高速で攻略本のページがめくられていた。
『やばい。レオナ覚醒イベントのためにレベル上げしすぎたせいで、時間が余計に経過しちまったらしい。何かないか、何か、このカジノに入る方法は……』
レオナ覚醒イベントは、ぶっちゃけた話裏技である。実際攻略本にも載っておらず、ゲーム開発者がとあるイベントで一度口にしただけだった。
まあそれは良いとして、レオナを覚醒させるには、まずレベル上げを大量にする必要があり、これが非常に時間がかかる。
結果、時間経過によって封鎖されるカジノの仕掛けに、今回はまんまと引っかかってしまったというわけだ。
こうなると普通のプレイヤーは、ギルド任務をこなしまくってボルドを稼ぐしかない。しかしそれでは、あまりに時間がかかりすぎるだろう。
「えっと、とりあえず私、あの黒服の人に話を聞いてみますね」
四つんばいになったまま動かない祐樹を見かねたアオイは、とりあえず黒服に放しかけようと走り出す。
やがて黒服との会話を終えたアオイは、一行の元へと戻ってきた。
「どうだった?」
「ダメでした」
「ダメじゃん!」
レオナはアオイの言葉を受け、即座にツッコミを入れる。
しかしアオイは焦ったように両手をわたわたと動かし、言葉を続けた。
「あ、で、でも、一部のVIP……というかセレブの方が同伴なら、私たちもカジノに入れるみたいです。なんでもセレブの社交場にしたいというオーナーの意向で、今は入場規制をかけているだけのようなので……」
「にゃ~。といっても、ニャッフル達はセレブじゃないからにゃあ」
ニャッフルはいつのまにか祐樹の肩から降りると、両耳をぺたんと折りたたみ、ガッカリとした様子で言葉を紡ぐ。
アオイはそんなニャッフルの頭を、よしよしと撫でた。
「ふー……さて、どうするのよ? 祐樹。ドラゴン諦めるの?」
レオナは胸の下で腕を組み、四つんばいになった祐樹へと質問する。
祐樹は四つんばいのまま、脳内をフル回転させていた。
『思い出せ。思い出せ俺。攻略できないゲームなどないんだ。攻略本の内容をよく思い出せば―――はっ!』
「わかったあああああああああああああ!」
祐樹は突然がばっと起き上がり、大声を張り上げる。
その声に驚いたレオナは「ひゃう!?」と変な声を返した。
「よし、ギルドに行くぞみんな! ついてきてくれ!」
「ぎ、ギルド、ですか? また何で―――あ、師匠!?」
祐樹は何かを思いついたようで、一心不乱にギルドへと走り出す。
質問をスルーされたアオイは、ポカンとした表情で固まった。
「あーもう! とにかく追いかけるわよ! こんなのばっかりね!」
「おいかけるにゃ! アオイ!」
「あ、は、はい!」
レオナとニャッフルに声をかけられたアオイは、固まっていた状態を解き、共に走り出す。
こうして一行は、再びシーサンセットのギルドへ向かって走り出した。