第五十二話:魔王の居場所は
「さて、遺跡に入ったわけですが……その情報屋さんというのは、一体どんな方なのですか?」
アオイは剣を抜いて周囲を警戒しながら、祐樹へと声をかける。
祐樹はポリポリと頬をかきながら、アオイへと言葉を返した。
「どんなって……まあ、情報屋としての腕は確かだな。あいつの知らない事はない、と言ってもいい」
「それは凄い! それなら魔王の情報も手に入りそうですね!」
アオイは笑顔になり、祐樹へと言葉を返す。
祐樹は言いにくそうに「あー、ただな……」と言葉を続けた。
「そいつ自身が極度の方向音痴で、よく行方不明になるんだ。その上―――」
「誰かあああああああ! 助けてくださいッスー!」
祐樹の言葉を遮るように響く、女性の声。
声のした方向を見ると、大きなリュックを背負った黒髪の女性が、巨大なガーゴイルに追いかけられながら、こちらに向かってきていた。
「その上、極端な不幸体質なんだよ。これが……」
祐樹は片手で頭を抱え、攻略本で何度も見た情報屋のその顔を横目で見る。
アオイはそんな祐樹の言葉を受けつつも、剣を巨大ガーゴイルへと構えた。
「師匠! モンスターです! 戦闘準備を!」
アオイは真剣な表情で、言葉を紡ぐ。
祐樹はボリボリと頭を搔くと、言葉を返した。
「仕方ない……いくぜ、お前ら!」
「はい!」
「ぶっとばしてやるにゃ!」
「仕方ないわね……」
祐樹の言葉に反応し、それぞれの返事を返す一同。
こうして、巨大ガーゴイルとの戦闘が始まった。
「と、いうわけで、巨大ガーゴイルはやっつけたわけだけど……あんた、何で追われてたわけ?」
祐樹は頭をボリボリと搔きながら、息を切らしている情報屋へと声をかける。
情報屋は体を起こすと、言葉を返した。
「いやーそれが、クライアントのところに情報を届けるはずが、気付いたらこんなところにいて、しかも巨大ガーゴイル像に触っちゃって……」
「いや、もういい。なんか頭痛くなってきた」
情報屋のあまりにひどすぎる不幸体質に、頭を抱える祐樹。
やがて情報屋は、そんな祐樹の様子に構わず、言葉を紡いだ。
「そういえば、自己紹介がまだでしたッス。自分はルーシュ=スクーパー。情報屋をやっているッス。助けてくれて本当にありがとうございますッス!」
ルーシュは大げさに頭を下げ、背中に背負った大きなリュックが上下に揺れる。
アオイはそんなルーシュに、声をかけた。
「あの、ルーシュさん。私達はあなたの救助依頼を請けて来たのですが……実は、教えてほしいことがあるんです」
「情報が必要ッスか!? 自分になんでも聞いて欲しいッス!」
ルーシュはえっへんと胸を張ると、どんと胸を叩いてみせる。
それを見たアオイは、言葉を続けた。
「実は、魔王の居所について調べているのですが……ご存知ですか?」
アオイは恐る恐る、ルーシュへと質問する。
魔王の居場所なんて貴重な情報を、いくら情報屋だからといって知っているとは限らない。
むしろ馬鹿にされてしまわないか、内心心配していた。
「あ、それなら分かるッス。あくまで噂話ッスが……」
「分かるんですか!? 是非教えてください!」
アオイは興奮した様子で、ルーシュの肩を掴む。
ルーシュは「わ、わかったッス」と、少し驚いた様子になりながらも、背中のリュックを地面に下ろし、その中を探り始めた。
「えーっと、魔王だからま行ッスよね。ま、ま……」
「ほわっ!? メモ帳がびっしり入ってるにゃ!」
ルーシュの背後からリュックの中身を見たニャッフルは、驚きに声を荒げる。
ルーシュはリュックの中に入った大量のメモ帳の中を手探りで探し、やがて一冊のメモ帳を取り出した。
「あった! ま行の三冊目に書いてあったはずッス!」
ててーん! という効果音と共に、ドヤ顔でメモ帳を取り出すルーシュ。
やがてそのメモ帳を開くと、ゆっくりとした口調で語り始めた。
「えっと……なんでもこの大陸から東に数キロ行った海上に、突然浮遊城が出現したらしく、地元の漁師さんの話では、魔王城なんじゃないかってもっぱらの噂ッス」
「ま、あくまで噂ッスけどねー」と、能天気に笑ってみせるルーシュ。
魔王が復活していることなど、欠片も心配している様子はない。
「し、師匠! この情報って!?」
「ああ、ま、真実だ。で、俺たちの最終目的地でもある」
祐樹は腕を組みながら、真剣な表情でアオイへと答える。
アオイはそんな祐樹の表情を見ると、同じように真剣な表情で剣の柄を強く握った。
「とりあえず、必要な情報は手に入ったってわけね……で、その魔王城? に行けばいいわけだ」
レオナは胸の下で腕を組みながら、冷静に言葉を紡ぐ。
そんなレオナの言葉を聞いたニャッフルは、頭の上に疑問符を浮かべ、言葉を紡いだ。
「でもにゃー。浮いてるんにゃよね、そのお城。どうやって行くのにゃ?」
「「……あ」」
ニャッフルの核心を突いた質問に、同時に声を漏らすアオイとレオナ。
祐樹はそんなニャッフルの言葉に対し、「こいつ、たまに核心を突くなー」と、内心で関心した。
「……ま、なんとかなるさ。それよりさっさと脱出しようぜ。埃っぽくて嫌いなんだよ、ここ」
「あ!? そ、そうでした! ルーシュさんの安全を確保しなければ!」
祐樹の言葉を受けたアオイは、再び剣を構え、今度は出口の方向へと体を向ける。
そんなアオイの姿を見たルーシュは、元気一杯で声をかけた。
「はい! よろしくお願いするッス!」
「いい気なもんだよなぁ。まったく……」
呑気にニカッとしながら敬礼までしているルーシュを見つめ、頭を抱える祐樹。
こうして一行は古代遺跡を脱出すべく、その一歩を踏み出した。