第五十一話:情報屋を探せ!
「着いたな。ここがトライロードのギルドだ」
「ほえー、ギルドもでっかいにゃー」
トライロードのギルドへと足を踏み入れると、ニャッフルはぽかんと口を開けて高い天井を見上げる。
大広間の中では戦士や魔法使いがひしめき合い、中にはガラの悪そうな者までいる。
とにもかくにもトライロードのギルドは、これまで行ったギルドの中で最大級の規模を誇っていることは間違いなかった。
「さてと、じゃあさっそく仕事を請けるぞー。今回の仕事は“情報屋の捜索”だ」
祐樹はスタスタと歩いて様々な依頼書が張られている壁へと近づくと、一枚の依頼書を親指で指差す。
その依頼書を見たアオイとレオナは、同時に言葉を紡いだ。
「捜索任務……ですか。考えてみれば、初めてですね。気合を入れて頑張りましょう!」
「情報屋……確かにそいつを探し出せば、魔王の情報も得られそうね」
「そゆこと。君らは飲み込みが早くて助かるよ」
祐樹はうんうんと頷き、二人の回答に満足する。
そんな中ニャッフルが、片手を上げて祐樹へと質問した。
「ユウキー。その任務って楽しいのかにゃ?」
「さーて、早速任務を請けに行くぞー」
「ちょ!? 無視かにゃ!? ねえ楽しいの!? 楽しいのかにゃ!?」
「痛いとこ突いてくるんじゃないよ! いいからやるぞ!」
意外と鋭いニャッフルの言葉に、思い切り無視を決め込んで無理やり押し進める祐樹。
こうして一行は結局、情報屋の探索任務を請ける事になったのだった。
「し、師匠……今、何人目ですか?」
「五十人目だな……丁度半分ってところか」
「もう嫌にゃー! この任務超つまんないにゃ!」
「確かにね……捜索って言うから嫌な予感はしてたけど……」
今、勇者様ご一行は、トライロードの民家一軒一軒を回り、全てのモブに話しかけるという超地味で面倒くさいイベントをこなしている。
祐樹は内心わかっていたものの、『コントローラでただ操作するよりはマシだな』と見当違いの方向に考えを巡らせていた。
「退屈なのはわかるが……仕方ねえだろ。ほら、アオイを見習え」
祐樹はダレ始めているレオナとニャッフルへ、アオイを指差しながら言葉を紡ぐ。
二人はアオイの姿を見ると、奮い立つようにその両拳を打ち鳴らした。
「にゃーもう! こうなったらやってやるにゃ! あ、おじさーん! 情報屋さんを見なかったかにゃ!?」
「仕方ないわね……地道に進めるしかないか」
ニャッフルは早速近くを通りかかった商人風の男に声をかけ、レオナは胸の下で腕を組み、ため息を吐きながら言葉を紡ぐ。
祐樹はうんうんと満足そうに頷くと、そんな二人に言葉を送った。
「ま、このイベントは粘るしかねえからな。俺も行ってくるか」
こうして勇者一行の、地味な聞き込み操作が始まる。
ニャッフルがその後「結局聞き込みするなら、魔王のこと聞いたほうが早くないかにゃ!?」と喚き出すのは、それから数十分後のことだった。
「ああ、情報屋さんね。彼女なら古代遺跡の方に行くのを見ましたよ」
「本当ですか!? 師匠! 目撃者がいましたー!」
「ようやく全員に話しかけたみたいだな……あー面倒くさかった」
実はこのイベント、話しかけられるモブ全員に話しかけ、全員に話しかけた瞬間に、情報屋の証言を得ることができるというイベントである。
祐樹はそれがわかっていただけに、アオイの言葉は福音のように聞こえた。
「やったにゃー! 早速古代遺跡へゴーにゃ!」
「あ、ニャッフル! だから先行すんなって何度言わすんじゃコラアアアアアアアア!」
ニャッフルはアオイの言葉を聞くと、嬉しそうにしっぽを振り、そのまま古代遺跡の方角へと駆け出していく。
祐樹はそんなニャッフルに、鋭いツッコミを入れた。
「怒ってる場合じゃないでしょ! ニャッフルどんどん小さくなってるわよ!?」
「あー、もう! 行くぞ! アオイ、レオナ!」
「は、はい! 師匠!」
「まったく……結局いつもの調子なのね」
祐樹の声に反応し、それぞれの反応を返す二人。
こうして勇者様一行は、トライロード近くの古代遺跡へと、その足を進めた。
「着いたにゃー! あれ、みんなどうしたにゃ?」
「お前のせいで疲れてんだよ! なんで君はすぐ独走すんのかね!?」
ニャッフルについて走っていたアオイとレオナは息を切らし、肩で息をしている。
その姿を疑問に思ったニャッフルに対し、祐樹は鋭いツッコミを入れた。
「うっ、ご、ごめんにゃ。で、でも、古代遺跡には着いたにゃ!」
「はあ……ま、そうだな。この中に情報屋がいるのは間違いないだろう」
焦りながら紡がれるニャッフルの言葉に対し、腕を組んで答える祐樹。
ニャッフルは「そ、そうだろうにゃ。目的地は合ってるにゃ」とほっとした様子で答えた。
「まあともかく、ここからは戦闘陣形で進むぞ、いいかみんな」
「はい! わかりました!」
「がってんにゃ!」
アオイを先頭とし、ニャッフルがその後ろにつく。
そしてその後ろにレオナがつき、一言呟いた。
「モンスターも出るってわけね……情報屋はこんなとこで何してんだか」
「意外と核心を突くね君……ま、それも遺跡に入ればわかるさ」
「???」
驚いた様子の祐樹に対し、頭に疑問符を浮かべるレオナ。
こうしてアオイを先頭とした勇者一行は、古代遺跡へとその足を踏み入れた。




