第五十話:商業都市トライロードへ
「さーて、と。お前ら、準備できたか?」
魔法学園都市マジェスティックの宿屋の前で伸びをしながら、仲間達へ声をかける祐樹。
仲間達はそれぞれ、返事を返した。
「はい! 万全です、師匠!」
「あたしも、準備できたわよ」
「準備って、どっか行くのかにゃ?」
「うんうん。ニャッフル以外は偉いな」
前日の話を全く覚えていないニャッフルに対し、辛辣な言葉をあびせる祐樹。
ニャッフルはプリプリと怒りながら、祐樹へと言葉をぶつけた。
「ニャッフル以外ってどういうことにゃ! ニャッフルだって偉いにゃ!」
「どこがじゃい! 昨日“商業都市トライロードに出発するから、各自準備しとけよ”って言ったでしょうが!」
反論してきたニャッフルに対し、さらにツッコミを入れる祐樹。
ニャッフルはその言葉を受けると、うっと唸った。
「にゃ、わ、忘れてたにゃ。で、でも、ニャッフルに準備なんか要らないにゃ! いつもこの身一つで旅してきたにゃ!」
「お前、本当今までよく生きてたよな……」
胸を張って準備などいらないと言い切るニャッフルに対し、片手で頭を抱える祐樹。
そんな祐樹に、今度はアオイが話しかけた。
「あの、師匠。トライロードに行くのは良いのですが、目的は何でしょう? 装備の充実ですか?」
アオイは頭の上に疑問符を浮かべ、首を傾げながら祐樹へと質問する。
祐樹は抱えていた頭から手を離すと、アオイへと向き直って言葉を返した。
「ああ、それもあるんだが……アオイ。お前、魔王についてどこまで知ってる?」
祐樹は真剣な表情で、アオイへと質問する。
その言葉を受けたアオイは、しばらく考える仕草をした後、言葉を返した。
「それは……えっと、魔王は魔物が増加した元凶である、ということしか……」
「だろう? 俺達は、魔王の居所すら知らないんだ。それでどうやって討伐するんだよ」
「あ……」
祐樹の言葉を受けたアオイは、なるほどといった表情で声を漏らす。
その様子を見ていたレオナは、口を挟む形で言葉を紡いだ。
「要するに、魔王に関する情報を集める為に、人の多い商業都市に行こうってこと、か。まあ、利にはかなってるわね」
レオナは胸の下で腕を組み、何故か偉そうに言葉を紡ぐ。
祐樹は「ま、そゆこと」と飄々とした様子で言葉を返した。
「にゃるほど! じゃあさっそく行くにゃ! おー!」
「!? だああ、ニャッフル! だから先行すんなって言ってんだろがー!」
突然走り出したニャッフルの後を、祐樹はダッシュで追いかける。
その様子を見たレオナは、アオイへと声をかけた。
「!? まずい、置いてかれるわね。行くよ、アオイ!」
「あ、はい!」
レオナの言葉を受けたアオイは素直に頷き、その足に力を込めて祐樹たちを追いかける。
そんなアオイの背中を、レオナも懸命に追いかけた。
「着いたにゃー! ここがトライロードかにゃ?」
「かにゃ? じゃねえ! 先行すんなって言ってんだろが!」
「にゃふ!」
周囲をキョロキョロと見回すニャッフルに対し、チョップを入れる祐樹。
ニャッフルはチョップされた頭を摩りながら「痛いにゃ! チョップするにゃ!」と文句を返した。
「それにしても、大きな街ですね……人も多いです」
「いろんな種族が入り混じって、ある意味カオスね」
一行の目の前には、まるで山のような形をした町並みが広がっている。
山の頂上にはこの辺りを統治する王国の王城が聳え立ち、その周りをびっしりと民家や商店が密集している。
行き交う人々も商人、戦士、魔法使い、宗教家と多様であり、その種族も様々だ。
賑わいという意味では、これまで旅してきたどの街よりも栄えているだろう。
「確かにこれだけ人がいれば、誰か魔王の事を知ってるかもしれないにゃ! さっそく聞き込みにゃ!」
ニャッフルはキョロキョロと辺りを見回すと、さっそく聞き込みに回ろうと両足に力を込める。
しかしその瞬間、しっぽを祐樹に掴まれた。
「こらこら。てきとうに聞き込みしてたら日が暮れるぞ。まずはギルドだ」
「にゃっ!? しっぽを掴むにゃ!」
ニャッフルはプリプリと怒りながら、祐樹へと言葉をぶつける。
祐樹は「だから先行すんなって何回言わすんだっての……」と頭を抱えた。
「師匠。ギルドに行けば情報が手に入るのですか?」
「んー、まあ違うけど、合ってるかな。行けばわかるさ」
「???」
なんとも的を得ない祐樹の回答に、頭に疑問符を浮かべるアオイ。
祐樹はそんなアオイに微笑みながら答えた。
「まあともかく、行ってみましょ。ギルドにも人はいるでしょ」
レオナは胸の下で腕を組み、祐樹へと話し掛ける。
祐樹はうんうんと頷き、「だな。じゃ、ついてこーい」と緩い感じで返事を返した。
こうして、商業都市トライロードのギルドに向かう一行。
まさかそのギルドであんな面倒な仕事を請ける事になるとは、祐樹以外誰も知るわけもなかった。