第四十九話:レオナの輝き
「着いたけど……相変わらず地味だよなぁ。まあ、貴重な薬草が手に入るからいいけどな」
祐樹は到着した植物園を見ると、ぽりぽりと頬を搔きながら言葉を紡ぐ。
ゲームプレイ時は奥にある貴重な薬草を収集して、さっさと立ち去ったことを良く覚えている。
「地味って言うな! あたしのお気に入りの場所なんだから!」
「あ!? す、すまん。そうか、お前家庭菜園が趣味だったもんな……」
祐樹は申し訳なさそうに頭を搔き、レオナへと言葉を返す。
確かに攻略本には、趣味:家庭菜園と書かれていたことを、今更ながら祐樹は思い出していた。
「あれ? あたしあんたに、趣味の話なんてしたっけ?」
レオナは頭に疑問符を浮かべ、不思議そうに首を傾げる。
祐樹はしまったと口に手を当て、慌てて返事を返した。
「あ、いや、なんとなくそうかなーって。さ。あはははは!」
「??? まあ、いいわ。確かにそうだしね」
「ほっ……」
レオナの納得した様子に、ほっと胸を撫で下ろす祐樹。
今度はその様子にレオナは疑問符を浮かべるが、やがて視界の隅に入った花に目を奪われた。
「あ、あの花! 今の時期にしか咲いてないやつ!」
レオナはぱぁぁと花咲くような笑顔を見せ、その花を指差す。
祐樹はその花を見ると、攻略本の内容を思い出し、言葉を返した。
「ん? お、おう、そうだな。確か“アーティファクト・フラワー”だっけか」
祐樹とレオナの目の前には、さくら色をした可愛らしい花が複数咲いている。
確かに足元の案内板には、“アーティファクト・フラワー”と記載されていた。
「へえ、あんた、花も詳しいんだ」
「ん? あ、ああ、まあな。名前とか知ってるくらいだけどさ」
本当はその栽培方法から効能まで全て知っているのだが、とりあえず祐樹はそれほど知識はないと答えておく。
あまり色々な事を知っていると、レオナなら詮索されかねないからだ。
「ふーん……あ、きゃあ!?」
「おわっ!?」
レオナは突然花の下から飛び出してきた虫に驚き、思わず祐樹の腕を取って抱きつく。
祐樹は突然腕に触れた控えめな柔らかさと女の子特有の甘い香りに驚き、素っ頓狂な声を上げた。
「び、びっくりした……栄養のある花だから、虫も多いのよね」
「オ、オ、オウ。ソウダナ」
祐樹は腕をがっしりと抱きしめられたその柔らかな感覚に動揺し、ロボットのような返事を返す。
その様子を不思議に思ったレオナが現状を改めて確認すると、沸騰するやかんのように徐々に顔を赤くしていった。
「な、な、何抱きついてんのよ!」
「理不尽っ!?」
レオナは祐樹を突き放すと、その尻に渾身の蹴りを入れる。
祐樹はその蹴りに対し、思いを込めたツッコミを入れた。
「ほ、ほら先行くわよ、先! この後が大事なんだから!」
「へ、へい?」
レオナは耳の先まで真っ赤にしたまま、まるで怪獣のようにずんずんと奥へと進んでいく。
祐樹はその背中を、頭に疑問符を浮かべながら追いかけた。
「おお、これは……」
「きれい……」
先に進んだ二人を待っていたのは、群生しているアーティファクト・フラワー。
この植物園の名物で、別名“花の塔”とも呼ばれている。
その足元には美しい水が流れており、周囲には水の流れる音と、虫の鳴く声だけ。
静かなその空間は、まるでこの世のものとは思えなかった。
『やっぱ、あれだな。ゲーム画面とは全然違うわ。うん』
祐樹はうんうんと両腕を組んで頷き、目の前の光景に感動する。
しかし、その腕の袖を、レオナがくいくいと引っ張った。
「あ、あの、あの、さ」
「うん?」
レオナは視線を逸らしながら、もごもごと口元を動かしている。
良く聞こえなかった祐樹は頭に疑問符を浮かべ、首を傾げた。
「ありがとう、ユウキ。今回の演習試合、本当に、助かったわ」
レオナはこれまでに見たことの無い、素直な笑顔を浮かべ、真っ直ぐに祐樹の目を見つめて、お礼の言葉を紡ぐ。
祐樹はそんなレオナの笑顔に一瞬見とれ、そんな自分に動揺しながらも返事を返した。
「―――っ! お、おう。まあ、気にすんな」
祐樹は動揺しながらも、どうにか返事を返す。
その顔は赤く染まり、まるで赤いアーティファクト・フラワーのようだ。
「じ、じじ、じゃあ、帰るわよ! ほら、手、出して!」
「へぁ!? ちょ、レオナさん!?」
レオナは顔を真っ赤にしながら、突然ぎゅっと祐樹の手を握り、そのままずんずんと歩き出す。
祐樹は引っ張られるようにして、数歩歩かされた。
「な、何で手ぇ繋ぐの!? 手ぇ繋ぐなんで!?」
「うるさいわね! デートなんだから、仕方ないでしょ!?」
顔を真っ赤にしながら質問する祐樹に対し、同じく顔を真っ赤にして答えるレオナ。
二人は手を繋いだまま、宿屋へと歩いていく。
そしてその後、そのままの状態で宿屋に戻った二人に、アオイとニャッフルから矢のような質問が飛んでくる事は、言うまでも無い。