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第四話:勇者の秘密

「はっ!? ここはどこ!? 私はモブ!!」

「師匠? ご飯が冷めてしまいますよ?」


 長老の家に着いた二人は今、同じテーブルを囲んで座っている。

 祐樹は先ほどのショックから立ち直り、意識を持ちなおしたようだ。


「いやだから、その師匠ってのやめてくれよ。俺なんか祐樹とかユウでいいからさ」

「そんな、師匠を呼び捨てになどできません!」


 勇者はキリッと眉間に皺を寄せ、祐樹へと言葉を返す。

 祐樹はそんな勇者の様子に、再び頭を抱えた。


「ああもう、一体どうすればいいの……教えて攻略本」

「???」


 料理に手を付けない祐樹に、疑問符を浮かべる勇者。

 しばらく考え込むように腕を組むと、何か思いついたように両手を合わせた。


「そうか! 師匠は猫舌でいらっしゃるのですね!? 私がふーふーして差し上げましょう!!」

「ぶふぅ!? 何言ってんだお前!! 野郎のふーふーなんて想像だけでおぞましいわ!!」


 祐樹は口に入れていたスープを吹き出し、勇者へと言葉を返す。

 勇者はキリッと眉間に皺を寄せると、祐樹へと返事を返した。


「大丈夫です、師匠! 冷ますのは自信があります!」

「俺はお前の思考に背筋が凍ってるよ! もういいから黙って食えって!」


 祐樹はぶんぶんと両手を横に振り、勇者の申し出を断る。

 勇者は祐樹の言葉を受けると、再びシュンと頭を垂れた。


「やはり、やはり私では師匠のお役に立てないのですね……」

「ぐっ……いや、もう同情せんぞ。いくら綺麗な顔してても、ふーふーされたら俺の大事な何かも失う気がする」


 祐樹は勇者の落ち込んだ様子に一瞬動揺するが、ぶんぶんと顔を横に振って思考を整理する。

 勇者はさらに落ち込んだ様子で、頭を垂れた。もはやテーブルに頭をぶつけている。


「そこまで嫌なのですか師匠……私は本当に、駄目な弟子だ」

「…………」

「…………」


 二人を包む、沈黙の空間。

 そんな沈黙が数十秒続き……沈黙を先に破ったのは、祐樹だった。


「ああもう、わかったよ! ふーふーでもなんでもしやがれってんだ!」


 祐樹は観念したのか、腕を組んで言葉を紡ぐ。

 その声を聞いた勇者は、一瞬にして笑顔を取り戻した。


「本当ですか師匠! わかりました! 一生懸命ふーふーしてあーんしますね!」

「オプション付けてんじゃねえコラアアアアア! あーんまでは許可してないからね!?」


 勇者の言葉に反応した祐樹は、速攻でツッコミを入れる。

 しかしそれよりも早く、勇者はスープをスプーンに掬っていた。


「ふー、ふー。はい、師匠。あーんして下さい」

「いやだから、あーんはむぐぅっ!?」


 祐樹がツッコもうとした矢先、その口にスプーンを入れる勇者。

 コンソメスープの香ばしい香りと、何かを失った喪失感が、同時に祐樹を襲った。


「男に、男に最初にやられてしまった。密かに憧れていたのに……」


 祐樹は椅子から崩れ落ち、四つん這いの状態で落ち込む。

 勇者は頭に疑問符を浮かべ、首を傾げた。


「どうしました師匠。味に何か問題が?」

「大変美味しゅうございました! 問題はそれ以外だよこんちくしょう!」

「???」


 泣きながら喚く祐樹に、さらに疑問符を増やす勇者。

 そんな二人の食卓は、少し長めの時間がかかり、夜が更けていった……




「ああ……そういや服ボロボロだし、そうだな、風呂入りたい」


 食器の片づけも終わり(当然勇者が率先して終わらせた)、少し落ち着いた頃、祐樹は思い出したように呟く。

 考えてみれば昨日も徹プレだったし、髪もなんだか脂っこい。すぐにでも風呂に入って洗いたい気分だった。


「えっ!? お風呂ですか!? ではお背中流し―――」

「スタァァァァップ!! それ以上は言わせねえよ!?」

「むぐっ!?」


 祐樹は一瞬にして勇者との距離を詰め、その口を右手で押さえる。

 勇者は驚いた様子で、両目を見開いた。


「俺は風呂に入ってくるから、勇者様は読書でも剣の修行でもしててくれ、わかった?」

「むぐぐっ。むぐっ」


 祐樹に口を押さえられながらも、何か言いたそうに口を動かす勇者。

 大体の察しがついている祐樹は、さらに言葉を続けた。


「俺は豆腐メンタルなんだ。俺の背中を流そうってんなら、師匠と弟子の関係も無しだ。わかったかな?」

「むぐぅ……」


 祐樹の言葉を受けた勇者は、明らかに落ち込んだ様子で項垂れる。

 しかし祐樹はそれを振り払うように、風呂場へと走った。


「とにかく、背中流すのはダメだからな! じゃあ!」

「あっ!? 師匠!」


 祐樹は脱衣所へとダッシュすると、一瞬にして服を脱ぐ。

 そのまま戸を開けると、中々広くて立派な風呂場が広がっていた。


「へぇ……この世界も、風呂は同じような作りなんだな」


 祐樹はキョロキョロと辺りを見回すと、シャワーと蛇口らしきものが取り付けられた場所を発見する。

 本来蛇口が付いているはずのそこには、何か宝石のようなものが取り付けられていた。


「??? なんだこりゃ」


 祐樹がその宝石に手を近付けると、その宝石は穏やかに輝き、やがて暖かいお湯がシャワー口から流れてきた。


「おおっ!? 魔力に反応して作動すんのか……ファンタジーだなぁ。ここまでは攻略本にも書いてなかったぞ」


 祐樹はシミジミと感動すると、やがてシャワーを使って体を流し始める。

 備え付けのタオルを使って体を洗っていると、背後の扉の開く音が聞こえた。


「あん? 勇者かー? 言っとくけど背中は流させないからな」

「……っ!?」


 祐樹の声に反応し、何かが膝を折ったような音が風呂場に響く。

 どうやら勘は当たっていたらしい。


「やっぱ勇者か……なんか気配でわかるんだよな」


 祐樹は体を洗ったことで少し上機嫌になり、風呂場に入ってきた事自体は咎めようとしない。

 もっとも男同士なのだから、気にする方がおかしいのだが。


「わかりました、師匠。背中を流すのは諦めます」

「おっ!? わかってくれたか! やー、よかったよかった」


 祐樹はほっと胸を撫で下ろすと、そのまま上機嫌で体の細部まで洗っていく。

 洗い場は一つしかないので、必然的に勇者は待つ形になるだろう。


「洗い場は順番な。後は頭だけだか―――!?」


 ら、と続けようとした祐樹の頭を、勇者ががっしりと掴む。

 そしてそのまま、わしゃわしゃと洗い始めた。


「ですが、頭は洗わせて頂きます!」

「やっぱりかコラァアアアアアアアアアアアアアア!! 君本当に諦めないね!?」

「ありがとうございます!」

「褒めてないですやだこの子こわい!」


 細い指で頭を洗う勇者に対し、言葉を返す祐樹。

 しかしやがて観念したのか、祐樹はされるがままになっていった。


「あーもう、わかったよ。じゃあさっさと洗ってくれ」

「はい師匠! 一生懸命やらせていただきます!」


 背後からでも、勇者が満面の笑顔で祐樹の頭を洗っていることがわかる。

 祐樹は諦めたような、どこか楽しそうな笑顔を浮かべて、その両手に頭を預けた。


「では師匠。流させて頂きます!」

「いちいち断らなくていいって……つうかモブの頭洗う勇者なんて聞いたことねえよ」


 祐樹はどこか呆れるように笑いながら、まんざらでもない様子で言葉を紡ぐ。

 実は祐樹自身、あまり友達が多い方ではない……というかぶっちゃけぼっちなので、こういう“裸の付き合い”みたいなものに、密かな憧れはあったのだ。

 もっとも、頭を洗ってもらう事になるとは思ってもみなかったが。


「えっと、シャワーは魔法石を発動させて……」

「うぶふぉ!? いきなり水圧強いなおい! ちゃんと加減、して……」


 突然頭に衝撃の走った祐樹は、驚いて背後を振り向く。

 そこには、衝撃的な光景が広がっていた。


「す、すみません師匠。私、不器用なもので……」


 金髪のロングが目に眩しく、青色の瞳は湯気が立っている浴場でも輝いて見える。

 胸元まで巻かれたタオル。鎖骨の流れから自然と下に視線を落とすと見える、大きな二つの双丘。

 その先端は、桃色の、桃色で、桃色が……


「お、おま、おま……」


 祐樹はプルプルと震えながら、勇者を指差す。

 勇者は頭に疑問符を浮かべ、首を傾げた。


「どうかしましたか? 師匠」


 その動きに合わせて、プルンと動く二つの双丘。

 性別を判断するに十分すぎるその大きさに祐樹は驚愕し、そして叫んだ。


「キャーーーーーーーーーーーーーーーー!」


 祐樹は慌てて股間を隠し、風呂場からダッシュで逃げ出す。

 この場合のダッシュは当然ながら一瞬で、気付けば祐樹は脱衣所に来ていた。

 そしてそのまま、後ろ手で戸を閉める。


「お、おま、お前女じゃねーかバカヤローコノヤロー!」


 錯乱した祐樹は、浴場の中の勇者へと声を荒げる。

 勇者は慌てて祐樹を追いかけ、脱衣所の戸へと近づいた。


「も、申し訳ありません師匠! 女だと何か問題がありましたか!?」

「問題しかねえだろがコラァ! いや個人的には嬉しいのよ!? でもおとなの階段は一段ずつ上がるのが素敵だと思うの僕!」

「すみません師匠! 何をおっしゃっているのかわかりません!」

「もう俺もわかんねーよ! 頼むから休ませてくれぇ!」


 祐樹はいつのまにか半べそをかきながら、風呂場の勇者へと声を荒げる。

 それから二人の風呂が終わるまで、さらに数時間を要したのは、言うまでもない。


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