第四十八話:パフェを食べよう
「じゃ、じゃあ、えっと、あ、あーん……」
「へぁ!? な、何故に!? どうしたのレオナさん!?」
レオナは突然パフェを一口すくうと、祐樹の口へと運ぶ。
祐樹は突然の事態に対応できず、ツッコミを入れた。
「う、うるさいわね! 周りがやってるんだから、あたしたちもやるの! ほら!」
「え、ええええ…………ぱくっ」
祐樹もまた顔を赤くし動揺しながらも、突き出されたレオナのスプーンからパフェを食べる。
その後もぐもぐと咀嚼するが、正直言って味がわからなかった。
「ど、どど、どう? おいしい?」
「お、おう。美味いよ。うん」
レオナはあからさまに視線を外しながら、顔を真っ赤にしながら祐樹へと質問する。
祐樹はおどおどしながらも、返事を返した。
「ふぅ……で、一体どういうことなんだ? 突然デートなんてええええええええ!?」
「あ、あー……」
事情を聞こうとした祐樹の視界には、目を瞑って真っ赤な顔のまま口を開けるレオナの姿が映る。
祐樹は予想外の展開に動揺し、思わず大声を出した。
「な、何してんのよ。つ、次はあたしの番でしょ!?」
「へぁ!? は、はひ!」
レオナは片目だけ開いて動いていない祐樹を見ると、声を荒げる。
祐樹はその声に押され、思わずパフェを一口分スプーンにすくった。
「じゃ、じゃあ。あー……」
レオナはその様子を確認すると再び口を開き、まるで餌を待つひな鳥のようにも見える。
祐樹はその様子を見ると、ごくりと喉を鳴らし、言葉を紡いだ。
「あ、あーん……」
祐樹の震える手からレオナの口へとパフェが運ばれ、やがてようやくあーんが成功する。
レオナはもぐもぐとパフェを食べると、両目を見開き、その背後にはぱぁぁ……と明るいオーラが見える。どうやら美味しかったらしい。
「う、美味いか?」
祐樹は答えのわかりきっている質問を、レオナへと届ける。
その顔は真っ赤で、今にも爆発しそうだ。
「あ、う、うん。ありがとう」
「っ!?」
上目遣いになりながら、顔を真っ赤にして素直にお礼を言うレオナは思った以上の破壊力で、祐樹は思わず視線を逸らす。
女子に免疫のない祐樹にとってこの状況だけでもアウェイなのに、その表情は反則だった。
「じゃあ、は、はい。あーん……」
「まだやんの!? あ、あー……」
再びパフェを一口分スプーンにすくったレオナは、またしても祐樹へ突き出す。
祐樹はツッコミを入れながらも、そのパフェを口に入れた。
そんなやり取りを何度かしているうちに、パフェは空になっていた。
「し、死ぬ。心臓が、もたねえ……」
祐樹は生まれて初めての体験に面食らい、バクバクと脈打つ心臓に生きた心地がしない。
レオナはその長い耳の先端まで真っ赤にした状態で、何故か俯いたままだ。
その隙に祐樹は、パフェの容器を持って立ち上がった。
「えっと、じゃあ、行こうぜ。ていうか俺、なんで誘われたんだ?」
祐樹はずっと疑問に思っていた事をレオナへと質問する。
祐樹の頭の中では、デートに誘われる理由など微塵も考えられなかった。
「はぁ!? こっ、これは、演習試合のお礼よ! それ以外の意味なんてないんだから!」
「なんで怒る!? わ、わかったよ!」
祐樹の言葉を受けたレオナは、さらに顔を真っ赤にしながら声を荒げる。
その言葉を受けた祐樹は、レオナの口調にツッコミを入れながらも納得した。
「わかったじゃないわよ。もう……」
「???」
レオナはぷくーっと頬を膨らませ、何故かごねた様子でぽつりと言葉を零す。
その言葉が聞こえていた祐樹は、頭の上に疑問符を浮かべた。
「―――っ! ああもう、さっさと次、植物園、行くわよ!」
「いたひ!? なんで蹴るんだよもう!?」
何故か尻を蹴りながら次の目的地を告げるレオナに、ツッコミを入れる祐樹。
レオナは胸の下で腕を組むと、フンとそっぽを向いて、そんな祐樹を無視した。
「ええええ……なんなのこのひと……」
祐樹は尻を摩りながら、レオナと共に植物園へと歩いていく。
レオナは道中何故か深呼吸を繰り返しながら、祐樹と共に植物園へと向かった。