第四十三話:ギャレットとの確執
学生はレオナの視線を意に介さず、その杖に触れようと手を近づけた。
しかし―――
「わりーけど、汚い手で触らないでくんねーか。それ、かなり大事な物なんでな」
「!? ゆ、ユウキ……」
祐樹は杖に触れようとした学生の腕を掴み、睨みつけながら言葉を紡ぐ。
その言葉を聞いたレオナは両目を見開き、ユウキの名を呼んだ。
「はあ? 何おまいでででで!?」
「あ、ごめーん。力込めすぎちゃった?」
祐樹に腕を掴まれた学生は突然痛がり、その場で悶絶する。
祐樹は穏やかな微笑を浮かべながら、そんな学生へと言葉をかけた。
「離せよ、この馬鹿力! いってえ……」
学生は祐樹の手を振り払うと、掴まれていた部分を手で摩る。
そしてそれを見ていた学生の一人が、今度はレオナへと話しかけてきた。
「久しぶりだな、レオナ。修行の成果はどうだい?」
「ギャレット……!」
レオナに話しかけてきた男は、学生服をきっちりと着こなし、小奇麗な格好と腰に差し込まれた豪華な装飾のスティックが目を奪う。
レオナはその男を見ると、再び下唇を噛んだ。
「君も演習試合に出るのかい? いや、やめておいたほうがいい。君じゃ―――」
「出るよ」
「!? ちょっと、ユウキ! あんた何勝手に言ってんの!」
ギャレットと呼ばれた男の声に、どこか自信満々な表情で答える祐樹。
そんな祐樹の言葉に驚き、レオナは声を荒げた。
「ああ、ま、心配すんなよ。今のお前なら、楽勝だから」
「はあ??? 意味わかんない」
レオナは祐樹の言葉の意味がわからず、混乱した様子で頭を抱える。
そんなレオナに構わず、ギャレットは祐樹へと言葉を続けた。
「へえ、楽勝、か。大きく出たね。じゃあもし、負けたらどうする?」
「へっ、そん時は俺が、素っ裸でこの街を一周してやるよ」
ギャレットの挑発的な視線に合わせ、祐樹も挑発的な言葉を返す。
ギャレットはそんな祐樹の言葉を受けると、あっはっはと笑い始めた。
「ははは、これはいい。演習試合、楽しみにしているよ。じゃあ僕は、この辺で」
「あ、ギャレットさん! 待ってください!」
ギャレットと呼ばれた男は取り巻きと思われる男達を引き連れ、何処かへと去っていく。
その後、レオナの怒号が響いた。
「ちょっとあんた、馬鹿じゃないの!? あんな約束して、どうなるか―――」
「大丈夫だよ。お前が負けるわけねえし」
祐樹は眠そうに欠伸をしながら、レオナへと返答する。
レオナは不真面目な祐樹の態度にさらに体内温度を上げ、言葉を紡いだ。
「負けるわけねえって……相手はあのギャレットよ!? 学園でトップの生徒に、あたしが敵うわけ、ないじゃない……」
「レオナさん……」
自分で言っていて虚しくなったのか、レオナは悔しそうに下唇を噛み締め、言葉を紡ぐ。
アオイはそんなレオナを、心配そうに見つめ、声を漏らした。
「大丈夫だって。俺は、お前を信じてるからな」
「―――っ!?」
真っ直ぐに目を合わせ、少し笑いながら言葉を紡ぐ祐樹。
その顔を見たレオナは一瞬にして顔を赤くさせ、そっぽを向いた。
「ば、馬鹿じゃないの!? 本当もう、どうなっても知らないからね!」
レオナはプリプリと怒りながら、腕を組んであさっての方角を見る。
アオイはそんな二人の様子を見て、一瞬複雑そうな表情になるが、やがて言葉を紡いだ。
「あの、師匠。演習試合というのは、一体何なのですか?」
「ああ、魔法使い同士の戦いのことだよ。実戦形式だから、見ごたえあるぜ」
アオイの言葉に対し、当然のように返事を返す祐樹。
その言葉に、アオイは驚いた様子で言葉を返した。
「ま、魔法使い同士って、相手を撲殺する大会じゃないんですか!?」
「お前の中の魔法使い像ってそんなん!? 嫌だよそんな血なまぐさい大会!」
アオイの言葉に対し、すかさずツッコミを入れる祐樹。
そしてそのまま、レオナへと体を向け、言葉を続けた。
「さて、じゃあレオナ。勉強の時間だ! いや、呪文の暗記大会、かな」
「…………は?」
祐樹の予想外の言葉に振り返ったレオナは、ぽかんとした表情を返す。
そんなレオナの様子を見た祐樹はニヤリと意味深に微笑んだ。