第四十二話:魔法学園都市マジェスティック
「にゃー……すごい景色だにゃー……」
「本当ですね。綺麗……」
大きな門をくぐったその先にあったビッグブリッジを渡っていると、まるで自分が海の上をあるいているような気分になる。
大きな海が視界全体に広がり、空は爽やかに晴れ渡っている。
太陽の光が反射して、海はまるで宝石のような輝きを放っていた。
「うんうん。綺麗だよなぁ。よく俺もこの画面で静止して、飯食ったりしたもんだよ」
「???」
小さく呟くように囁かれた祐樹の言葉を受け取ったレオナは、言葉の意味がわからず、頭に疑問符を浮かべる。
それについてレオナが質問しようとした瞬間、ニャッフルが大声で叫んだ。
「あー! 大きな門が見えてきたにゃ! さてはあれが出口にゃ!?」
「あ!? こらニャッフル! 先行すんなって何度言えばわかんだコラアアアアアア!」
ニャッフルは正面に微かに見えてきた門に対して反応し、持ち前の敏捷性を駆使して駆け出していく。
祐樹はそんなニャッフルの後ろを、同じように駆け出して追いかけた。
「あ、師匠! 待ってください! レオナさん、急ぎましょう!」
「!? あ、ええ、そうね。行きましょう」
「???」
どこか浮かない表情をしているレオナに対し、頭に疑問符を浮かべて首を傾げるアオイ。
レオナはそんなアオイの反応に構わず、祐樹たちを追いかけて駆け出していった。
「と、いうわけで……あっという間に“魔法学園都市マジェスティック”に到着だな」
「にゃー! でっかい街だにゃ! ユウキと同じような格好のヤツがいっぱいにゃ!」
マジェスティックに到着した祐樹は腕を組み、満足そうに頷く。
ニャッフルは相変わらず元気に、率直な感想を述べた。
「そりゃそうだ。この街は魔法学園を中心に発展した都市だからな。学生服の連中が多いのは当然だ」
「でも、師匠が着ている学生服とは少し違いますね。師匠はどこの学園に通われていたのですか?」
「えっ!?」
まさか本当の事を話すわけにもいかず、アオイの不意打ちとも言える質問に固まる祐樹。
レオナは少し元気のない声で、そんな祐樹に言葉を紡いだ。
「ま、学園なんて大きな街には複数あったりするし、それのどっかでしょ」
「そ、そうそう! まあどうでもいいじゃん! あはははは!」
祐樹は誤魔化すように、わざと大声で笑ってみせる。
アオイは「そうですか。いつか行って見たいですね、師匠の母校へ」と微笑み、会話はそこで途切れた。
「それにしても、なんかみんな棒切れを持ってるにゃ。あれは何にゃ?」
ニャッフルの言葉通り、歩いている学生達の腰元には、何かスティックのような短い棒が差し込まれている。
どうやら学園から配布されているもののようで、皆一様に同じスティックを持っているようだ。
「ああ、あれは学園から支給される魔法を使うためのスティックだ。まあ、魔法使いの必需品だな」
「ほえー……れおにゃの杖みたいなものかにゃ?」
「お、珍しく冴えてるなニャッフル。その通りだ」
的を得ている回答をしたニャッフルの頭を撫で、言葉を返す祐樹。
ニャッフルは「珍しいとは何にゃ!」と憤慨した様子でぷりぷりと怒った。
「あっれー? レオナじゃん。お前、戻ってきたんだ」
「!?」
突然レオナに話しかけてくる、複数の学生達。
しかしその目は決してクラスメイトに向けられる暖かいものではなく、むしろどこか馬鹿にしているかのようだ。
「修行の旅に行くとか出て行ったけど……変わったのは杖だけか? ま、そりゃそーか。あはははは!」
学生の一人は言葉を続け、馬鹿にしたような笑いをレオナにぶつける。
レオナはそんな学生を睨みつけ、言葉を返した。
「何よ、うるさいわね! あたしが何しようと関係ないでしょ!?」
「おー、怖い怖い。ま、丁度演習試合もあるんだ。当然お前も参加するよな?」
学生の一人は、相変わらず馬鹿にしたような目をしたまま、言葉を続ける。
その言葉を受けたレオナは、下唇を噛んで下を向いた。
「おい、やめろよ。レオナちゃんが演習試合なんかに出たら、怪我じゃすまねーだろ? なんせへっぽこヒーラーなんだからよ!」
あはははは! と、学生達は一様にレオナに視線を集め、笑う。
ニャッフルはそんな学生達を見ると、ボキボキと拳を鳴らした。
「ユウキ。あいつらぶっ飛ばしていいにゃ? なんか無性に頭にきたにゃ」
「突然の暴力宣言!? ここは穏便に行こうぜニャッフルさん!」
祐樹はニャッフルの言葉にショックを受け、拳を振るおうとするニャッフルを両手で止める。
すると学生の一人は、レオナの杖を見ると、興味深そうに近づいた。
「へー、なんか格好良い杖じゃん。元々お前に不釣合いなもんだったけど、さらに差が開いた。って感じだな」
「―――っ!」
レオナはその学生の言葉を受けると、悔しそうに下唇を噛み締め、睨みつける。
しかし学生はそんなレオナの視線を意に介さず、その杖に触れようと手を近づけた。