第四十一話:いざ、新大陸へ
「杖に認められたって……どういうことよ? 確かに、杖の形状は変化してるみたいだけど……」
レオナの持っていた木製の杖はその外殻であった木の殻を破るように、その姿を現した。
スラリとのびた杖の部分の先端には青い球体が宙に浮き、その球体を囲うように二つのリングが回転している。
その姿は美しく、ある種の威厳すら感じた。
「ま、認められたっつーか、杖にかけられてた封印が解かれたって言った方がわかりやすいかな。レオナの力が一定以上になったから、杖もそれに合わせて進化したのさ」
祐樹はどこかドヤ顔になりながら、レオナへと返事を返す。
レオナは腑に落ちない表情ながらも、その杖を手に取り、まじまじと見つめた。
「つまり、これがこの杖本来の姿……ってことね。じゃああたしも、パワーアップしたってこと?」
「そゆこと。ま、いずれ体感することになるさ」
「???」
どうにも的を得ない祐樹の返答に、頭に疑問符を浮かべて首を傾げるレオナ。
アオイはその様子を見守っていたが、やがて祐樹へと質問した。
「えーっと……それはつまり、レオナさんがヒーラーとして覚醒した、ということなんでしょうか?」
「!? い、いや、それは違うぞアオイ。間違ってもヒールは使っちゃダメだ」
アオイの回答に対し、慌てた様子で返事を返す祐樹。
その返事を聞いたアオイは、どこか言い辛そうにしながら言葉を返した。
「えーっと、師匠。大変申し上げにくいのですが……もう使っちゃってます、ヒール」
「にゃああああああああ! 体が痺れるにゃー!」
「コラアアアアアアア! ヒール使っちゃダメってあれほど言ったでしょうが!」
早速ニャッフルにヒール(?)をかけているレオナに対し、大声を張り上げる祐樹。
レオナはびくっと肩をいからせて驚きながら、返事を返した。
「ええ!? だ、だって、あたしパワーアップしたんでしょ!?」
「いやそれはそういう意味じゃなくて……まあいいや、次の街でどうせわかるだろ」
祐樹は意味深な微笑みを見せながら、レオナへと言葉を紡ぐ。
レオナはその言葉を受けると「はあ? ますます意味わかんない……」と、不満そうに眉間に皺を寄せた。
「にゃ、にゃああ、ユウキ、とりあえず、たすけて、にゃ」
「あ、しまった。忘れてた」
全身の麻痺状態を訴え、ユウキへとヒールを懇願するニャッフル。
やがて祐樹はニャッフルにヒールをかけ、その状態異常を回復させた。
「え、えーっと、とにかくこれで、“商業都市トライロード”への道は開けたわけですよね。ビッグブリッジの通行証も手に入るわけですし」
アオイは微妙な空気になってしまったことを覚り、状況を整理する。
祐樹はそんなアオイの言葉を受けると、意外な返事を返した。
「あ、スマン。次の目的地は“魔法学園都市マジェスティック”に変更だ。まあ、いずれにしろ新大陸にあるから、ビッグブリッジを渡るのは変わらないけどな」
「―――っ!?」
祐樹の言葉を聞いたレオナは、一瞬体をビクッとさせ、下唇を噛み締める。
その様子を見たニャッフルは、心配そうにその顔を覗き込んだ。
「??? どうしたにゃ、れおにゃ。おなかでも痛いのかにゃ?」
「ん、なんでもないわ。ありがと、ニャッフル」
「???」
どこか様子のおかしいレオナの様子に野生の野生の勘を発動させたニャッフルは、なおも不思議そうに首を傾げる。
レオナはそんなニャッフルから視線を外すと、祐樹へと言葉をぶつけた。
「ちょっと、マジェスティックには絶対に行かないといけないわけ? できればあたし、行きたくないんだけど」
レオナは胸の下で腕を組み、祐樹へと言葉を紡ぐ。
その視線は真剣そのもので、どこか気迫めいたものも感じさせた。
「んー、ダメなんだよなぁ、これが。大丈夫、レオナにとって悪いことにはなんねーから」
「???」
自信満々に言葉を紡ぐ祐樹に対し、一体その自信はどこから来るのかと首を傾げるレオナ。
アオイはそんな二人の様子を見ると、言葉を紡いだ。
「私は、師匠のご命令に従います。レオナさんは何か、行きたくない理由があるのですか?」
「!? いや、まあ、別に? ただなんとなくよ! 別に行ったっていいわ!」
レオナは何故か怒ったように視線を外し、言葉をアオイへと返す。
アオイはそんなレオナの様子が腑に落ちず、頭に疑問符を浮かべて首を傾げた。
「行ったっていいんだな? じゃあはい! 次の目的地はマジェスティックにけってーい! 行くぞー!」
「あ……」
歩き出した祐樹に、何か言いたげに右手を伸ばすレオナだが、下唇を噛み締め、その手を引っ込める。
その様子を見ていたアオイはどこか心配そうに、首を傾げた。
「あの、師匠。どうしてもマジェスティックに行く必要があるのでしょうか? レオナさん、乗り気じゃないようですが……」
アオイは心配そうな表情で、こっそりと祐樹に話しかける。
祐樹は穏やかな笑顔でアオイに一歩近づくと、その言葉に答えた。
「ま、それもしゃーない。とにかくここは俺を信じてくれ、アオイ」
「!? は、はい! わかりましゅた!」
「???」
急に距離の近くなった祐樹の顔を見たアオイは、顔を真っ赤にして、視線を逸らす。
祐樹はそんなアオイの反応に疑問符を浮かべながらも、ビッグブリッジへの道を歩き出していた。
「また着いたにゃー! ビッグブリッジ!」
ニャッフルは目の前に伸びるビッグブリッジを見ると、にゃー! と両手を上げて見せる。
一度門前払いになっているから、それを渡れるのが嬉しいのだろう。
「さて、じゃあアオイ。早速番兵に話しかけてきてくれ。ゴーレムを倒したから、通行証をくれるはずだ」
「あ、は、はい! わかりました!」
アオイは祐樹の言葉を受けると、急いで番兵の元へと走り出す。
それを見送ったレオナは、再び祐樹へと話しかけた。
「ねえ、あたしのパワーアップって本当なの? この杖以外に実感が全然ないんだけど」
「だーいじょうぶ。それもマジェスティックに着けばわかるって」
「???」
祐樹は何故かニヤニヤしながら、レオナの言葉に返事を返す。
レオナはそんな祐樹の様子に疑問符を浮かべ、さらに困惑した様子で首を傾げた。
「みなさーん! 通行証、頂けました!」
やがて戻ってきたアオイの手には、何かのチケットのようなものが握られており、どうやらそれが、ビッグブリッジの通行証のようだ。
それを見た祐樹は満足そうにうんうんと頷くと、言葉を返した。
「よぉし、これで新大陸への道は開けた! いざ、ビッグブリッジへ!」
「「「おー!」」」
祐樹の言葉に呼応し、言葉を返す一行。
こうして勇者様ご一行は、大陸を繋ぐ超巨大橋、ビッグブリッジを渡り始めた。