第三十八話:新大陸への道
「もー飽きたにゃあああああああ!!」
シーサンセットのギルド内に、ニャッフルの叫びが木霊する。
ギルドに集まった冒険者達は、訝しげな視線をニャッフルへと集中させた。
「あのなぁニャッフル。叫んでも仕方ねえだろが。ほら、次の討伐任務だ」
「またかにゃ!? もうこの数週間討伐任務ばっかりやってるにゃ!」
ニャッフルはふしゃーとユウキを威嚇し、その手に持たれている討伐任務書を親の敵のように睨み付ける。
レオナは小さくため息を吐きながら、ニャッフルに続いて言葉を紡いだ。
「まあ、ニャッフルの言うことももっともよね。あたしの杖なんかもうこれ、ヒーラーの杖じゃないわよ?」
モンスターへのとどめの一撃は必ずレオナの杖によって行うこと、という祐樹の意味不明な命令によって、レオナの杖はモンスターの返り血でカオスな状態になってしまっている。
木製で年季を感じさせるごく普通の杖だったそれは、今では禍々しく、ヒーラーの持っているそれとは似ても似つかない。
「あの、師匠。私は修行には賛成なのですが、そろそろ目的を教えていただけませんか?」
アオイはおずおずと片手を上げ、祐樹へと言葉を紡ぐ。
祐樹はアオイの言葉を受けると、うーんとしばらく唸った後、言葉を返した。
「ま、そうだな。次の目的地はズバリ、“商業都市トライロード”だ」
「トライロードって……大陸が違うじゃない。それじゃ、今から出発するってこと?」
レオナは祐樹の言葉を受け、当然の疑問をぶつける。
そう、トライロードのある大陸とシーサンセットのある大陸は、思い切り別大陸だ。そこが目的地というなら、この街を出る他無いだろう。
「ま、そうだな。そろそろいいか。……どうせ行けないけど」
「???」
レオナは祐樹のぽつりと呟いた一言の意味がわからず、頭に疑問符を浮かべて首を傾げる。
祐樹はそんなレオナの様子に気付きながらも、さらに言葉を続けた。
「よし、じゃあ出発するか! 新大陸に続く道、“ビッグブリッジ”へ!」
「びっぐぶりっじ? なんにゃそれ」
今度はニャッフルが頭に疑問符を浮かべ、首を傾げる。
祐樹はどこか得意げに、説明を始めた。
「あのな。この大陸に来るためには船を使ったけど、トライロードのある大陸に行くには、大陸と大陸の間にかかった橋を渡れば問題ないんだ。それが“ビッグブリッジ”ってわけだな」
「はにゃー……大陸を繋ぐ橋かにゃ。おっきいんだろうにゃあ」
ニャッフルは感嘆の声と共に、祐樹へと言葉を返す。
祐樹は「ま、そりゃ大きいさ。きっと驚くぜ」と、ニャッフルの頭を撫でた。
「それにしても……さすが師匠! こんな遠くの大陸の地理にも明るいなんて、さすがです!」
「お、おう。さっき地図見たからさ、地図のおかげだって」
アオイの思いがけない賞賛の声に動揺し、どもりながら返事を返す祐樹。
あまり詳しく情報を話しすぎると、祐樹の正体について言及されかねない。よって祐樹は、それ以上の情報を話す事を止めた。
「ま、とにかくビッグブリッジに出発だ! みんな、行くぞー! おー!」
「「「おー!」」」
勇者一行は気合を入れ、いざビッグブリッジへと旅立つ。
しかし、いざビッグブリッジにたどり着くと、非情な現実が彼らを待っているのだった。
「ダメだな。お前達にビッグブリッジを渡らせるわけにはいかない」
「にゃんで!?」
ビッグブリッジに到着した一行は、さっそく入り口を守っている番兵へと声をかける。
その番兵からの第一声に、ニャッフルはガーンという効果音と共に言葉を返した。
「なんでって……通行証を持っていないからだ。もしかして知らなかったのか?」
「そんなん知らないにゃ! いいから通すにゃ!」
ニャッフルは自慢の脚力を使って、番兵を飛び越えようと両足に力を込める。
その動きを察知した祐樹は、ニャッフルの両肩を掴んだ。
「こらニャッフル! 逮捕されんぞ! やめろ!」
「だってユウキぃ! こいつケチにゃ!」
ニャッフルはいつのまにか涙目になりながら、ばたばたと暴れる。
祐樹はため息を吐きながら、そんなニャッフルをレオナへと放り投げた。
「レオナ、悪い。ニャッフルを慰めてやってくれ」
「えっ!? えーっと……よ、よしよし?」
「おふ、意外とテクニシャンヌ……」
レオナはニャッフルの喉元を撫で、ニャッフルはゴロゴロと気持ちよさそうな鳴き声を響かせる。
アオイはおずおずと右手を上げると、祐樹へと声をかけた。
「えっと、師匠。これからどうしましょう? 私たち、通行証なんて持ってませんし……」
「ああ、そんなら大丈夫。アオイ、さっきの番兵になんとかならないか、聞いてみてよ」
祐樹はアオイの言葉を受けると、淡々とした様子で言葉を返す。
意外なその回答に驚きながらも、アオイは返事を返した。
「えっ? あ、はい。わかりました。行って参ります」
アオイはタタタと走り、番兵の元へと近づいていく。
やがてしばらく話したかと思うと、驚いたような表情で祐樹の元へと戻ってきた。
「し、師匠! この先にある“ロックフォード”という鉱山にいるゴーレムを倒せば、通行証を下さるようです!」
「やっぱりな。まあそりゃ、主人公様が話しかけなきゃイベントは進まないわなぁ」
「???」
アオイは祐樹の言葉の意味がわからず、頭に疑問符を浮かべて首を傾げる。
祐樹は右手をメガホンのように使うと、レオナ達に声をかけた。
「おーい! 次の目的地はロックフォードだ! ゴーレム倒すぞー!」
「いつからそんな話に!? ちょっと、私聞いてないんだけど!」
「ゴーレムにゃ!? よぉし、腕がなるにゃ!」
祐樹の言葉に対し、それぞれの反応を返すレオナとニャッフル。
レオナは怒りながら祐樹へと近づいていき、ニャッフルはしゅしゅしゅっとシャドーボクシングを始めた。
「ちょっと! なんでそんな話になってるのよ!? 何があったの!?」
「まあまあ、落ち着けって。あの親切な番兵さんが、ゴーレムを倒せば通してくれるってんだから、仕方ないだろ?」
祐樹は両手を盾のようにレオナとの間に立て、言葉を返す。
そんな祐樹の言葉を受けたレオナはしばらく考えるような仕草をした後、ため息混じりに言葉を続けた。
「……はぁ。ま、それがビッグブリッジを渡る条件じゃ仕方ないわね。行くしかないか」
「そゆこと。じゃ、ロックフォードに向かってしゅっぱーつ! おー!」
「「「おー!」」」
祐樹の言葉に反応し、再び雄たけびを上げる三人。
こうして勇者様ご一行は、ロックフォードへの道を歩き始めた。