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第三十七話:フランの変化

「まあともかく、中に入りましょう。じゃないと始まりませんわ。さあ、遺跡さん! わたくしが足を踏み入れる事に感謝なさって!」


 フランは執事にバラを撒かせながら、遺跡の中へと入っていこうとする。

 その瞬間、遺跡の入り口にあったガーゴイルの石造が、わずかな息吹を吐き始めた。


「!? まずい! 下がれ!」

「えっ?」


 遺跡入り口にあったガーゴイルの石造はやがて意思を持ち、持っていた槍をフランへと向ける。

 そしてその穂先が、フランへと振り下ろされた。


「ちっ! 俺じゃなきゃ間に合わねえ……か!」


 祐樹は一瞬にしてフランとの距離を詰め、呼吸の届きそうなほど近距離まで詰め寄ると、ガーゴイルの槍を掴み、その進撃を止める。

 ガーゴイルは槍を進めようと力を込めるが、ピクリとも動かなかった。


「え、あ……」


 フランはようやく自分の置かれた状況に気付いたのか、近距離にある祐樹をじっと見つめる。

 祐樹は片手で槍を掴みながら、言葉を続けた。


「この槍が刺さったらどうなるか……わかるよな? これが、お前の出した依頼なんだ。遊びじゃねーんだよ」

「―――っ!」


 祐樹は真剣な表情で、子どもに言い聞かせるように言葉を紡ぐ。

 フランはそんな祐樹の表情と助けてもらった事実をようやく理解し、その頬から耳に至るまで、全てを真っ赤に染めた。


「あ、あの、あり、ありが……」

「アオイ! ニャッフル! レオナ! 陣形組め! こいつら集団で来るぞ!」


 祐樹は槍を持っていたガーゴイルをぽいっと遺跡の奥まで投げ飛ばすと、アオイたちへと声をかける。

 アオイたちはその声を受け、フランを守るように陣形を組んだ。


「背後の敵は俺一人でいい! 前方は頼んだぞ、アオイ、ニャッフル!」

「了解です、師匠!」

「任せるにゃ!」


 アオイとニャッフルは祐樹の言葉を受けると、いつものようにアオイを先頭とした陣形を取り、いつのまにか集まってきたガーゴイル達と対峙する。

 レオナはそんなアオイ達に呼応するように、言葉を続けた。


「よぉし、ヒールは任せなさい!」

「いや、それは勘弁してください!」

「何で!?」


 レオナは祐樹からの返答を、ガーンという効果音と共に受け取る。

 そして祐樹は、さらに言葉を続けた。


「あ、それと、とどめの一撃はレオナに譲ってな! レオナはその杖でぶん殴ればいいから!」

「それヒーラーへの指示!? ちょっと斬新すぎるんじゃないの!?」

「大丈夫だよ! ちゃんと意味もあんだから! 今は俺の指示に従ってくれ!」


 反抗するレオナだったが、真剣な祐樹の瞳に押され、「わ、わかったわよ……」と呟く。

 アオイとニャッフルもその指示を不思議に思いながらも、了解の旨を祐樹へと返した。


「よーし、それじゃあ、戦闘開始だコラアアアアアアアアアア!」


 祐樹はバシンと拳を自らの手のひらにぶつけ、咆哮する。

 それを受けたパーティメンバーもまた咆哮し、戦闘が始まった―――





「はあっはあっ……な、なんとか倒しました、師匠」

「つ、つかれたにゃー」

「あ、あたしも、限界……」


 ガーゴイルを数十体相手にしたメンバーの体力は限界で、ヒットポイントもギリギリといった感じだ。

 一方祐樹は服についた土ぼこりを払いながら、元気に返事を返した。


「ん、みんなご苦労さん! これで任務完了だな!」


 いつのまにか遺跡入り口には夕日が差し、もうすぐ日も落ちるだろう。

 それを確認した祐樹は再びフランへと向き直った。


「とりあえずモンスターには会えた。で、守った。任務完了でいいか?」

「え、あ……」


 ずっとぼーっとしながら戦う祐樹を見つめていたフランは、声をかけられてもすぐに返答できない。

 祐樹はそんなフランの様子を不思議に思い、さらに一歩踏み出して言葉を紡いだ。


「??? なあ、聞いてるか? これで任務完了だろ?」

「へぁ!? あ、そ、そう、ですわね! よくやってくれましたわ!」

「???」


 フランは何故か大げさに祐樹から視線を外し、言葉を返す。

 そんなフランの様子に、祐樹は頭に疑問符を浮かべ、首を傾げた。


「こ、今回は、これでいいですわ。ですが―――」

「なんだよ、もう。まだ何かあんのか?」


 まだ言葉を紡ごうとするフランに対し、頭をボリボリと搔いて言葉を返す祐樹。

 フランは深呼吸を繰り返すと、祐樹から少しだけ視線を外し、言葉を続けた。


「わ、わたくしのことはフランと、そうお呼びなさい。これは大変、光栄なことですのよ?」

「へーそうかい。じゃあ遠慮なく。フラン、今日はもうお開きでいいよな?」

「―――っ!? そ、そうですわ、ね。それで結構ですわ」

「???」


 フランは名前を呼ばれた瞬間爆発したように顔を赤くし、顔を思い切り背けながら言葉を返す。

 祐樹はそんなフランの様子に、再び頭に疑問符を浮かべ、仲間達へと質問した。


「なあ、フラン、どうしたんだ? なんか変じゃね?」

「さあ? どうしてでしょう、ね!」

「いたひ!?」


 レオナは何故か祐樹の尻に蹴りを入れ、祐樹は変な断末魔を返す。

 祐樹は尻を摩りながら、レオナへと文句を返した。


「ちょ、どゆこと!? なんで蹴られたん俺!?」

「なんだかわかんないけど、ニャッフルもにゃ! にゃふ!」

「いたふ!?」


 ニャッフルは祐樹へと近づくと、尻に同じように蹴りを浴びせる。

 祐樹は「だから何でだよ!? 俺が何した!?」とニャッフルたちに抗議した。


「あ、あの、師匠……」

「ん? あ、アオイ。まさかお前も……?」


 祐樹はアオイからの蹴りを警戒し、自分の尻を両手で守る。

 その姿はお世辞にも、格好良いとは言えなかった。


「え、えい」

「おむ!?」


 アオイは人差し指を突き出し、真っ赤な顔で祐樹のほっぺを押す。

 ほっぺを押された祐樹は、ますます意味がわからず、頭に疑問符を浮かべた。


「お前らさっきから意味わかんねーぞ!? どゆこと!?」

「ユウキ……ユウキ、様」

「へあ!?」


 祐樹はいつのまにか背後に立っていたフランからの声に驚き、姿勢を正して対峙する。

 フランは両手で口元を隠し、頬を赤く染めながら、夕日の中で、言葉を紡いだ。


「ま、また、依頼を出しますわ。その時は是非、受けてくださいませ」

「へっ?」


 祐樹は予想外の言葉に驚き、ポカンと口を開ける。

 フランはその場の空気に耐えられなくなったのか、両手をもじもじとさせ始めた。


「な、なに? なんで? このイベントって複数だっけ? どゆこと? どゆことおおおおおおおおおおお!?」

「ユウキ、うるさいにゃ!」


 夕日に包まれる遺跡入り口に響く、祐樹の雄たけび。

 そんな咆哮はどこか優しく、シーサンセットの夕日の海に吸い込まれていった。


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