第三十六話:護衛任務
「あなたたちがこのフランシス=シャルル=ド=レスポワール=プレネンシスの依頼を受けた光栄な者達ですのね!? わたくし、感動ですわ!」
おーっほっほっほ! と相変わらずの高笑いをしながら、言葉を紡ぐフラン(以下略)。
ニャッフルはそんなフランを見ると、率直な意見を述べた。
「ふにゃー……おねーさんすごいにゃ。キラッキラしてるにゃ」
ニャッフルはすんすんと鼻を鳴らして香水の匂いを嗅ぎながら、フランへと言葉を紡ぐ。
フランはニャッフルの存在に気付くと、速攻で抱きしめた。
「まあ、かわいい! セバスチャン! わたくしこの子をペットにしますわ! 今決めました!」
「承知致しました、お嬢様」
フランの声に反応し、いつのまにかタキシードに身を包んだ白髪初老の男性が、うやうやしく頭を下げる。
祐樹はがっくりと落としていた肩を上げると、フランからニャッフルを取り上げた。
「スタァァァップ! うちの仲間を勝手にペットにしないでくれる!? アオイ! ちょっとニャッフル持ってろ!」
祐樹の言葉に反応し、「あ、はい!」と返事を返し、ニャッフルを抱きかかえるアオイ。
ニャッフルは状況の変化に付いて来れていないのか、ぽかんと口を開けていた。
「まあ、ダメですの? では、条件を与えましょう。わたくしの名前を全て言えれば、勘弁して差し上げますわ」
フランは「まあ一度聞いただけでは無理でしょうけど」と言葉を続け、再び高笑いをする。
祐樹はため息を吐きながら、間髪入れず言葉を返した。
「フランシス=シャルル=ド=レスポワール=プレネンシスだろ」
「即答!? あ、あなた、何者ですの!?」
まさか答えられると思っていなかったフランは、ぽかんと口を開けて驚く。
祐樹は再びため息を落とすと、言葉を続けた。
「全モンスターのステータス覚えてんだぞ? 名前くらい余裕だっつの」
祐樹は腕を組むと、フランと真っ向から対峙し、言葉を紡ぐ。
フランは悔しそうに頬を膨らませると、言葉を続けた。
「むぅぅ……まあ、いいですわ! 記憶力の良い男として、覚えておいて差し上げます! 感謝なさって! さあ!」
フランは当然のようにくるりと一回転すると、意味不明なポーズをとってみせる。
どうやら自分に対して感謝しろという意味らしい。
「あー、はいはい。ありがとうござーい」
「てきとう!? こ、こんな無礼初めてですわ!」
フランはてきとうな感謝をする祐樹に対し、頬をぷくーっと膨らませる。
しかしそんなフランに、執事がなにやら耳打ちすると、表情を変え、さらに言葉を続けた。
「そうですわ! あなた達はわたくしの護衛任務を受けた。そうでしたわね!?」
「ああ、そうだよ。不本意ながらな」
祐樹は既に疲れた様子で、フランへと返事を返す。
フランはそんな祐樹の様子など気にもせず、「うんうん、そう喜ばずとも良いですわ。当然ですもの」と言葉を紡いだ。
そんなフランの様子を見ていたレオナは、不思議そうに首を傾げ、言葉を返した。
「ねえ。護衛任務って事は、あなた誰かに狙われてるの?」
「あ、馬鹿! レオナ! その質問は―――」
「よくぞ聞いてくれましたわ! 今回の依頼の内容、それを説明しますわね!」
フランは再び一回転して別のポーズを決めると、レオナへと言葉を返す。
祐樹はまだ依頼放棄するチャンスを伺っていただけに、あちゃーと頭を抱えた。
「わたくし、一度でいいからモンスターというものに出会ってみたいんですの! それも、超強い者に限りますわ!」
「……は?」
フランの言葉を受けたレオナは、訝しげな視線を送り、首を傾げる。
祐樹はそんな二人の様子を気にもせず、片手を目の上に当て、あちゃーと天井を仰いだ。
「と、いうわけで、早速モンスターの住処に乗り込みますわよ! 付いて来なさい、皆の者!」
フランは踵を返すと、そのまま早足でギルドを飛び出していく。
祐樹はそんなフランの様子を見ると、全員へ声をかけた。
「!? やばい、あいつが先行したら速攻で死ぬぞ! みんな、追いかけよう!」
「あ、は、はい! 師匠!」
「なんだかわかんないけど、わかったにゃ!」
「あーもう、何がなんだか……」
祐樹の言葉に反応した三人は、三様の反応を返しつつ、祐樹の後ろを追いかけた。
「と、いうわけで、到着ですわね! ここがモンスターの巣窟ですわ!」
フランはシーサンセット近くの古代遺跡の入り口で、腰に両手を当てて言葉を紡ぐ。
追いかけてきた祐樹たちは、それぞれ息を切らせながら言葉を返した。
「ぜえっぜえっ……そ、それはいいけど、あんた本気? モンスターは危険なのよ?」
レオナは両手で膝に手を当て、屈んだ状態で言葉を紡ぐ。
フランはそんなレオナに対し、頭に疑問符を浮かべて返事を返した。
「あら、このわたくしに会えるんですのよ? モンスターさんも光栄なのではなくって?」
「うわあ、だめにゃこの人。だめな人にゃ」
「ニャッフルにまで言われるとは……あのお嬢さん、ある意味恐るべし」
祐樹はニャッフルにまで見放されるフランの姿を見て、率直な意見を述べる。
アオイはあわあわとしながら、フランへと声をかけた。
「み、皆さん、依頼人さんに失礼ですよ! でも、モンスターは本当に危険なんです。できればこのまま、街に戻りませんか?」
アオイは一歩前に出ると、フランと対峙し、意見を述べる。
フランはアオイの言葉を受けると、アオイの姿をじろじろと観察し始めた。
「んー……」
「あ、あの、何か?」
急にじろじろと見られたアオイは、動揺した様子でフランへと返事を返す。
フランはアオイの言葉を受けると、返事を返した。
「決めましたわ! あなた騎士っぽいですし、わたくしの護衛隊長に任命しますわ!」
「全然聞いてない!? いえですから、危険なので帰りましょう!」
アオイは全く話を聞いていない様子のフランに対し、さらに言葉を続ける。
フランは無表情でアオイへと対峙し、言葉を返した。
「嫌ですわ」
「四文字!?」
簡潔に断られたアオイは、ガーンという効果音と共に、地面に四つんばいにガクリと倒れる。
祐樹は仕方なく、フランとアオイの間に割って入った。
「まあまあ、アオイの言う通りだぜ。どうせこの遺跡に入って、一番奥まで行こうってんだろ?」
祐樹は遺跡の入り口の前に立つと、親指で入り口を指差し、フランへと言葉を紡ぐ。
その言葉を受けたフランは、嬉しそうに顔を綻ばせた。
「まあ! 察しが良いですわね! さすがは記憶力の良い男ですわ!」
「記憶力関係なくね!? いやだから、それをやめようって言ってんの!」
「やだ」
「二文字―!?」
アオイよりも簡潔に片付けられた祐樹は、アオイと同じように四つんばいになる。
どうやらどんな説得も、フランには無駄のようである。