第三十三話:決意を新たに
「にゃははは! 波が! 波がこっちくるにゃ!」
「いやー……ニャッフルはいつも元気だなぁ」
浜辺で遊ぶニャッフルの姿を、パラソルの下から見守る祐樹。
そんな祐樹に、何故か不機嫌なレオナは、言葉を返した。
「あんたねえ、じいさんみたいなこと言ってんじゃないわよ。一緒に遊んできたら?」
「やだ! 暑い!」
「即答!? どんだけ虚弱なのよ!」
水着にまで着替えた祐樹のまさかの答えに、ショックを受けながら言葉を返すレオナ。
元々インドア派の祐樹だ。浜辺で遊ぶなんてこと、ぶっちゃけ想定外だ。しかも相手が女子となれば、何をすればいいのかさっぱりわからない。祐樹にとってそれは、どんなゲームよりも難易度が高かった。
「ま、いいわ。あたしは適当にジュースでも買ってくるから」
「お、おう。悪いな」
レオナは座っていた席を立つと、出店の出ているエリアへと歩いていく。
祐樹たちはそんなレオナを見送ると、いつのまにか二人きりになっていた。
「……なんだか、久しぶりですね、師匠。こうして二人きりになるのは」
「ふぇ!? あ、そ、そうだね! 久しぶりですね!」
「???」
何故かあたふたとする祐樹の様子に、疑問符を浮かべるアオイ。
祐樹は意識的にアオイから視線を外し、言葉を続けた。
「まあ、その……いろいろあったけどよ。頑張ろうな、魔王討伐」
「! は、はい、師匠! 一緒に頑張りましょう!」
アオイは祐樹の言葉を受けると、嬉しそうに両手をぐっと握りこむ。
その拍子に、二つの胸が大きく上下に揺れた。
「っぶ!? お、おふ。俺に任せておきたまへ」
「???」
一瞬こちらを向いたかと思うと、再び視線を逸らしてしまった祐樹に対し、頭に疑問符を浮かべて首を傾げるアオイ。
祐樹は視線を逸らしてしまったことを誤魔化すため、慌てて言葉を続けた。
「そ、それより、アオイも遊んできたらどうだ? ニャッフルも一人じゃ可哀想だし」
「え、あ、そうですか? ですが、師匠は……あ、もしかして太陽が苦手とか?」
祐樹の言葉に対し、更に言葉を返すアオイ。
祐樹は視線を逸らしたまま、コクコクと頷いた。
「あ、そ、そう! そうなんだよ! だから、ニャッフルの相手を頼めねーかな?」
本当は水着女子の傍にいるだけでもヒットポイントを削られている気分なだけなのだが、祐樹はせっかくなのでアオイの勘違いに乗っかる。
アオイは合点がいったように両手を合わせると、言葉を返した。
「そうですか。わかりました、師匠! 私、行ってきます!」
アオイは立ち上がると、ニャッフルの元へと駆け出していく。
その白いお尻に目を奪われそうになった祐樹は首が痛くなるまで顔を背け、やがてため息を落とした。
「……ふう。どうにか落ち着いたぜ」
祐樹はため息を落としながら、遠くで砂の城を作っているニャッフル達を見守る。
まあ万が一何かあっても、拳法家のニャッフルがいるのだ。心配はいらないだろう。
「あれ? そういえば、レオナ遅くね?」
祐樹はふと、飲み物を買いに行ったレオナを思い出す。
そしてその瞬間、攻略本内の情報が祐樹の頭の中を駆け巡った。
「!? やばい。まさか、あのイベントが起きてんのか!?」
祐樹は慌ててその場から立ち上がり、全速力でレオナの元へと駆け出す。
その時巻き上げられた砂の量はハンパではなく、周囲の観光客達は、もろに砂を浴びることになったのだった。