第三十一話:リゾートの街、シーサンセットへ
「うっぷ……どうにか着いたな。みんな、ここがシーサンセットだ」
祐樹は船酔いで今にもリバースしそうなのを右手で押さえながら、パーティメンバーへと声をかける。
三人は三様の答えを祐樹に返す。
「ここがシーサンセット……なんだか暖かくてのんびりしたところですね」
「あったかいにゃ! ひなたぼっこするにゃ!」
「典型的なリゾート地ね。いかにも金持ちって連中ばっかりだわ」
三人の答えを受けた祐樹は、次第に元気を取り戻し、言葉を続けた。
「そう! シーサンセットはリゾート地だ! と、いうわけで…………海だー! わーい!」
祐樹は両手を上げ、速攻でビーチへと駆け出す。
それを見たアオイは、すぐに言葉を紡いだ。
「あっ!? ずるいです師匠! 私も遊びたいです!」
アオイは駆け出した祐樹を追いかけ、自らも走り出す。
それを見たニャッフルも「ニャッフルも続くにゃ!」と叫びながら、走り出していった。
「あっ、ちょっとあんた達! その格好で行くわけ!?」
レオナは駆け出したみんなの背中を、遅れながら追いかける。
シーサンセットの日差しは強く、そんなメンバー達を照らし続けていた。
「暑い」
「暑いです」
「暑いにゃ」
「当たり前でしょ!? 周りみんな水着じゃない!」
シーサンセットのリゾートビーチに立つ、鎧やらローブやらを着た四人組。
周囲の観光客からは、クスクスと笑い声すら聞こえるような気がする。
「誰だよビーチに行こうとか言ったの! 俺か!」
「お前にゃ! とにかく水着がないと話にならないにゃ!」
祐樹とニャッフルは互いに言葉をぶつけ、言い争いを始める。
鎧を着ているアオイはフラフラになりながらも、なんとか言葉を紡いだ。
「み、水着……ですか。師匠の前であんな布一枚なんて、ちょっと恥ずかしいですね」
「以前君タオル一枚にまでなってたよね!? お前の中の羞恥心はどうなってんだ!」
アオイの的外れな発言に対し、過去を思い出してツッコミを入れる祐樹。
その時の情景を思い出しそうになってしまう思考を振り払うため、祐樹はぶんぶんと顔を横に振った。
「とにかく、あそこで水着をレンタルしてるみたいだから、遊ぶならあそこで借りればいいんじゃない?」
「採用! 冴えてるな、レオナ!」
「さっすがれおにゃ!」
「誰がれおにゃよ!」
相変わらず名前を上手く呼べないニャッフルに対し、ツッコミを入れるレオナ。
しかしまあとりあえず、水着を入手しないことには始まらないだろう。
「よし、じゃあ各自水着を調達して、ここにもう一度集合!」
「はい! わかりました師匠! 恥ずかしいですが……頑張ります!」
「いや、頑張ることじゃないんだけどね? お前も鎧のままだとマジ死ぬぞ?」
的外れな回答をするアオイに対し、ツッコミを入れる祐樹。
確かに灼熱の太陽が照りつけるここシーサンセットで、重装備の鎧は自殺行為である。
「あたしも暑いし、まあ賛成だわ。じゃ、またあとで」
「ユウキ! またあとでにゃー!」
ニャッフルはぶんぶんと手を振り、レンタル屋へと駆け出していく。
レオナはそんなニャッフルを、「ちょっと、あんたお金持ってないでしょ!?」と声をかけながら、追いかけた。
その後ろを、アオイがフラフラになりながら追いかけていく。
そしてビーチには、祐樹だけが残された。
「……あれ? てことは俺、水着の女子三人に囲まれんの? マジで?」
これまでの一越祐樹の人生においてそんな機会、一度だってあったことはない。
祐樹は事の重大さに、今更気付き始めていた。
「あれ、やばい。やばいよこれ。俺どうすりゃいいの!?」
水着女子に耐性のない祐樹は、頭を抱えてぶんぶんと横に振る。
しかしやがて思考をまとめると、自身もレンタル屋に向かって歩き始めた。
「と、とにかく、俺も水着にならなきゃだよな、うん」
祐樹はうんうんと自らに言い聞かせるように頷き、レンタル屋へと歩き始める。
こうして思考を放り投げて目の前の事に取りかかる行為を逃避と言うのだが、祐樹自身それに気づいてはいない。
灼熱の太陽が降り注ぐ街、シーサンセット。
この街で起きる騒動はまだ、その影すら見せていない。