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第三十話:レオナ=ウィンロード

「改めて、お礼を言わせて。みんなの病気が治ったのも、あんたたちのおかげよ」

 

レオナはかしこまった様子で、祐樹達へと朗らかな笑顔を向ける。

 祐樹は頭をボリボリと掻きながら、恥ずかしそうに言葉を返した。


「あ、いやまあ、一件落着したんなら何より? みたいな」

「そうだにゃ! みんな助かって、本当によかったにゃ!」


 レオナ達が持ち帰った薬草から作った治療薬により、シーシャインに蔓延していた流行り病はすっかり治癒された。

 街の人々は祐樹達に感謝し、そして―――


「ちゃんとした自己紹介がまだだったわね。あたしの名前はレオナ=ウィンロード。見た通りダークエルフで、“ヒーラー”をやっているわ」

「……あ、はい」


 堂々と自分自身を“ヒーラー”と言い切ったレオナに対し、何も言えずに返事だけを返す祐樹。

 味方にダメージを与えるヒーラーなど前代未聞だが、今はそんなことを言っている場合ではない。祐樹には目下、どうにかしなければならない問題があった。


『それより、このままではレオナが仲間になっちまうぞ。それはダメだ。辛すぎる。ゲーム難易度がイージーから一気にベリーハードになっちまうよ』


 攻略本にすら“このキャラは使っちゃ駄目だよ!”と堂々と書かれているほどのキャラである。祐樹のこの、敬遠したい気持ちもわかる。

 しかし運命とは、いつも残酷なもので。


「そうにゃ! れおにゃも一緒に来るといいにゃ! 旅は道連れってやつだにゃ!」

「あ、そうですね! ニャッフルちゃん、名案です!」

「スタァァァァァップ!! 何さらっと爆弾発言してんの君たち!?」


 とんでもないことを言い出したニャッフルとアオイに対し、ツッコミを入れる祐樹。

 アオイは首を傾げながら、言葉を返した。


「??? ですが師匠。ヒーラーが一人いた方がパーティバランスは整うのでは?」

「うん! 正論! それは正論だけどね!? あ、そっか! アオイはレオナのヒール見てないんだ!」

「???」


 ぽんっと両手を合わせて納得した祐樹に対し、さらに首を傾げて頭に疑問符を浮かべるアオイ。

 レオナはアオイとニャッフルの言葉を受けると、サイドテールを指先でクルクルしながら、返事を返した。


「え!? ま、まあ、あんたたちがどうしてもって言うなら、仲間になってあげなくもないわ」

「はい出ましたテンプレートの“YES”発言! それもう仲間にしてくれって言ってるからね!?」


 祐樹はレオナを指差し、言葉をぶつける。

 しかしやがて何かに気付いたように両手を合わせ、ニャッフルへと向き直った。


「そ、そうだニャッフル! お前、レオナのヒール見てたろ!? 危険だと思わんの!?」

「修行中の失敗はよくあることにゃ。それくらい大目に見るにゃ」

「ええっ!? にゃ、ニャッフルさん!?」


 ニャッフルのあまりに大人な対応に、思わず敬称を使ってしまう祐樹。

 レオナはそんな祐樹の反応を見ると、少し涙目で言葉を返した。


「な、何よ。あたしじゃ力不足だって言いたいわけ……?」

「え!? あ、いやその……」


 ぷるぷると震えるレオナの姿を見た祐樹は明らかに狼狽え、言葉に詰まる。

 ぼっち学生に、泣きそうな女の子の対応など出来ようはずもなく、祐樹はヤケクソ気味に言葉を紡いだ。


「ええい! わかった! 俺も男だ! 全員一緒に旅立とうぜ!」


 祐樹はがっしりとレオナの手を握り、キラリと光る歯と共に言葉を紡ぐ。

 レオナはそんな祐樹の行動に少し驚きながらも、指で涙を拭い、「う、うん」と頷いた。


「いやー、あっはっは! これからの旅が楽しみですなぁ! まったくもう!」

「ユウキ、なんかヤケクソになってないかにゃ?」


 両手を腰に当て、豪快に笑う祐樹。

 ニャッフルはそんな祐樹を見ると、不思議そうに首を傾げながら言葉を紡いだ。


「ところでレオナさんは、旅の方なのですか? このシーシャインに住んでいるようにも見えませんが……」


 アオイは頭の上に疑問符を浮かべ、レオナへと言葉を紡ぐ。

 レオナはアオイへと向き直ると、言葉を返した。


「ああ、あたしは故郷の森を出て、魔法修行をしてるのよ。だから、あんた達と一緒に旅をしても問題ないってわけ」

「なるほど。モンスターとの戦いは避けられませんし、これは頼りになりますね、師匠!」

「ソウダネー。アハハハ」

「???」


 変な祐樹の反応に対し、頭に疑問符を浮かべるアオイ。

 しかしレオナはそんな祐樹に構うことなく、言葉を続けた。


「それより、あんた達の次の目的地はどこなの? そもそも、旅の目的って何よ?」

「そ、それは……」


 レオナからの質問に対し、答えていいものか迷うアオイ。

 助けを求めるように祐樹を見つめ、その視線を受けた祐樹は、言葉をレオナへと返した。


「ああ、俺たちは魔王討伐の旅をしてるんだよ。で、アオイが魔王を倒す勇者様だ」

「ええ!? 魔王討ばむぐっ!?」

「しーっ! これ内緒なんだから! デカい声で言うなって!」


 祐樹は咄嗟にレオナの口を、右手で塞ぐ。

 レオナは両手で、祐樹の手を払いのけた。


「ちょっと! わかったから触んないでくれる!? キモッ!」

「キモッ!?」


 ガーンと言う効果音と共に、女子に言われたくないワードベスト5に入るであろう単語をぶつけられ、四つん這いに倒れ込む祐樹。

 ニャッフルは何故祐樹が倒れたのか理解できないまま、不思議そうにぽんぽんとその頭を撫でた。


「えっと、私たちの目的地……ですか。どこなんでしょう?」

「あたしに聞かないでよ! 目的地もなしに旅してるわけ!?」


 予想外なアオイの回答に対し、ショックを受けながら言葉を返すレオナ。

 言っていることもショックを受けることも、至極当然だった。


「あー、こほん。次の目的地は、このシーシャインからの定期便で行ける別大陸にある街“シーサンセット”だな。観光なんかを主産業とする、いわゆるリゾート地だ」

「そうだったんですか!? さすが師匠です!」

「勇者行先把握してないの!? 何このパーティ!」


 レオナはガーンという効果音と共にショックを受け、ちょっぴり仲間になったことを後悔する。

 ニャッフルもまたうんうんと頷き、レオナに同調した。


「うんうん。れおにゃの言うとおりにゃ。勇者たるもの、目的地くらい把握するものにゃ」

「ご、ごめんなさい……」


 ニャッフルの言葉を受けたアオイは、しょんぼりしながら肩を窄める。

 しかしレオナは今度はアオイではなく、ニャッフルへと言葉を紡いだ。


「ねえ、さっきから気になってたんだけど、あたしの名前間違ってるわよ。“れおにゃ”じゃなくて、“レオナ”」

「ええー? さっきからそういってるにゃ。れおにゃ」

「違うってば! れ・お・な!」

「れ・お・にゃ!」

「あーもう、それでいいわよもう!」

「意外と折れるの早いなレオナ!? いや、レオナさん!?」


 祐樹はなんだか自分以外みんな大人なんじゃないかという錯覚に陥り、思わずレオナにも敬称を使う。

 レオナは少しくすぐったそうにしながら、頬を赤く染め、言葉を返した。


「ち、ちょっと、やめてよさん付けとか。レオナでいいから」

『『『かわいい(にゃ)』』』


 いつのまにか顔を真っ赤にしたレオナに対し、同じ感想を抱く三人。

 そしてその瞬間、定期便出航の汽笛が鳴らされた。


「!? まずい、定期便が出ちまう! 乗るぞ、三人とも!」

「あ、はい! 師匠! 二人とも、行きましょう!」


 祐樹とアオイの声に反応し、定期便へと駆け出す三人。

 こうして新たな仲間を乗せた定期便は、大海原へと旅立っていった。





 旅立っていった、のだが、ものの数十分で問題が発生してしまった。


「う、う、うおえー。何この船。ジェットコースターより揺れるんですけど」


 祐樹は真っ青な顔をしながら、船の手すりに寄り掛かり、遠くを見つめる療法を試している。

 他のアオイやニャッフルも同様に、青い顔をしていた。


「これが、船酔いですか……思ったよりきついですね。うっぷ」

「うう。ニャッフルも、船は苦手にゃ……」


 アオイとニャッフルは互いに互いの背中を預け、船の床に腰を落とす。

 レオナは仁王立ちしながら、そんなメンバーに言葉を紡いだ。


「まったく、情けないわねえ。仕方ない、私がヒールを……」

「スタァァァァァップ!! それだけは勘弁してください!!」


 背中に背負った杖を取り出し、みんなにヒールをかけようとするレオナに対し、懇願するような瞳を向ける祐樹。

 レオナは「な、何よぅ……」と呟き、杖を仕舞った。




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