第二十八話:薬草収集戦
「と、いうわけで到着ね。この洞窟の奥に、薬草が生えているはずだわ……たぶん」
「なんか最後に引っかかる一言があったが、まあいい。じゃあいつも通りアオイを先頭、ニャッフル、レオナ、俺の隊列で進むぞ!」
祐樹はえいやっと洞窟の奥へと指を差し、隊列を指示する。
ニャッフルは頭に疑問符を浮かべ、祐樹へと質問した。
「ユウキ、なんでレオにゃが三番目にゃ? 危ないから一番後ろの方がいいにゃ」
ニャッフルはレオナが戦闘職でないと考えているのか、隊列の一番後ろを提案する。
祐樹は少し疲れた瞳で、言葉を返した。
「ああ、この人な、ヒーラーなんだよ。……一応」
「あ、にゃるほど。それなら納得にゃ」
ニャッフルはぽんっと両手を合わせ、こくこくと頷く。
しかしレオナはすっと片手を上げると、祐樹へと質問した。
「ねえ、あたしあんたに、ヒーラーだって言ったっけ? 言ってないわよね?」
レオナは怪訝な表情をしながら、頭に疑問符を浮かべ、首を横に傾げる。
祐樹はギクッと肩をいからせると、慌てた様子で言葉を返した。
「え!? や、やだなぁ。見ればわかりますよ! マジヒーラー感ハンパないっすから!」
祐樹はばたばたと両手を振り回し、なんとか誤魔化そうとレオナへと返事を返す。
この動揺具合で噛まなかったのは、ある意味奇跡である。
「え、そ、そう? ……えへへ」
レオナは褒められたと感じたのか、相当嬉しかったらしく、頭を掻きながら頬を赤く染める。
祐樹は内心『ちょろい』と感じていた。
「にゃ。ていうか今のは、褒めてるのかにゃ?」
祐樹の言葉を受け、顔を赤く染め、嬉しそうに身悶えするレオナ。
ニャッフルは頭の上に疑問符を浮かべながら、言葉を紡いでいた。
「みなさん! それよりこの洞窟、モンスターが出るようです! 気を付けて進みましょう!」
アオイは鞘から剣を抜くと、剣を構えた状態で後方のメンバーへと言葉を紡ぐ。
後方のメンバーはその声を受けると、即座に戦闘モードに入った。
「おおよ! やってやるにゃ!」
「回復は、まかせなさい!」
「…………」
祐樹はなんとも言えない表情で、真剣に杖を構えるレオナを見つめる。
その表情の真意がわかるのに、そう時間はかからなかった。
『ブヒイイイイイ!』
「!? みなさん、オークです! 気を付けて!」
アオイは目の前に出現したオークに対し、剣を構える。
指示を出そうとした祐樹の言葉の前に、ニャッフルは前へと飛び出した。
「ニャッフルにまかせるにゃそげぷ!」
「ニャッフルうううううう! 先行すんなっていつも言ってんだろ!」
無防備に先行したニャッフルは、オークの振るった斧に当たり、壁に激突する。
洞窟は当然岩石で出来ているため、そこそこのダメージがあったようだ。
「うう……ダメージくらったにゃ。レオにゃ、ヒールおねがいにゃ!」
ニャッフルは傷ついた腕をかばいながら、レオナへと回復魔法を要望する。
レオナは「わかったわ!」と真剣な表情で返事を返し、呪文詠唱に入った。
「!? ニャッフル! ちょっと待て!」
祐樹はその様子を見ると、顔色を変え、声を荒げる。
その間に、レオナの呪文詠唱は完了していた。
「いくわよ! ヒール!」
レオナの杖の先端が赤く輝き、その光がニャッフルを包み込んでいく。
そして次第に、ニャッフルの体を締め付け始めた。
「にゃあああああああ!? からだがしびれるにゃ!」
「ああ、もう、言わんこっちゃない……」
レオナのヒールを受けたニャッフルは、全身が痺れる状態異常へと陥る。
祐樹は片手で頭を抱え、フラッと立ちくらみを感じた。
「どうしたんですかニャッフルちゃん! 敵襲ですか!?」
アオイはオークから振り下された斧を弾き返した隙に、ニャッフルの方へと振り返って言葉を紡ぐ。
祐樹はポリポリと頬を掻きながら、ニャッフルの代わりに言葉を返した。
「いや、まあ敵ではないんだけど、それより厄介ではあるかな」
「!?!?!?!? よくわかりません、師匠!」
アオイはオークと交戦しながら、器用に祐樹と会話する。
しかし困惑の色は濃く、後方の状況が全く理解出来ていないようだ。
一方のレオナはニャッフルに対し「ご、ごめん! 失敗した!」と、その体を優しく摩っていた。
しかし、摩ったくらいではニャッフルの痺れは取れそうにない。
「あーもう、仕方ねえ! ヒール!」
祐樹はニャッフルへと右手を伸ばし、回復魔法を放つ。
瞬間、ニャッフルの痺れは解消され、体力が回復した。
「治った!? 治ったにゃ!」
ニャッフルは己の体が軽くなったことを感じると、嬉しそうにぴょんぴょんと飛び跳ねる。
アオイはその様子を横目で見ると、尊敬の眼差しで祐樹を見つめた。
「さすがです、師匠! 回復呪文も使えたのですね!?」
「ああ、うん。どうでもいいけどアオイ、お前結構器用だよな」
アオイはオークと交戦しながら、ニャッフルを回復した祐樹を賛美する。
祐樹はそんなアオイに対し、ツッコミを入れた。
「ていうか、一体どういうことにゃ!? ヒールかと思ったら痺れたにゃ!」
ニャッフルは困惑した様子で、祐樹とレオナに対して言葉を紡ぐ。
その言葉を受け、祐樹は返事を返した。
「ああ、うん。レオナの回復魔法は終始ああだから。あてにしないようにな」
「どういうヒーラーにゃ!? 斬新にもほどがあるにゃ!」
ニャッフルはガーンという効果音と共に、祐樹へとツッコミを入れる。
レオナは申し訳なさそうに、言葉を返した。
「悪いわね。あたしまだ修行中なのよ」
「にゃ。修行中なら仕方ないにゃ」
「仕方ないの!? ニャッフル心広いなおい! いやむしろ、ニャッフルさん!?」
祐樹はまさかのニャッフルの反応に驚き、声を荒げる。
ニャッフルは腕を組むと、うんうんと頷いて言葉を続けた。
「ニャッフルも修行中の身。気持ちは良くわかるにゃ」
「いや、まあレオナの場合、それ以前の問題なんだけどね?」
上述した通り、これが、グラディスプレイヤー達がレオナを仲間にしない最大の理由である。
レオナはヒーラーだが、味方を回復できないヒーラーなのだ。正確には、レオナの潜在的な魔力量が大きすぎて、レオナ自身がそれを上手く扱えておらず、ヒールがとんでもない効果をもたらしている、と言った方が良いのだが。
「はあっはあっ……し、師匠。オーク倒しました」
「お、アオイ、お疲れ。本当に凄いなお前」
祐樹はいつのまにかオークを倒していたアオイの成長ぶりにうんうんと頷き、嬉しそうに微笑む。
アオイは嬉しそうに「いやいや~」と声を発しながら、頭を掻いていた。
「ただ、師匠。大変申し上げにくいのですが……」
「うん? どうした、アオイ」
もじもじと人差し指を合わせるアオイに対し、笑顔で言葉を返す祐樹。
アオイはそんな祐樹に対し、言葉を続けた。
「あれはさすがに……私一人では無理かな、なんて」
『ブヒイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!』
勇者様ご一行の目の前には、洞窟の天井に届きそうなほどの巨体を携えたマザーオークが、激しい鼻息と共に大斧を担いでいた。
その表情には怒りが滲み出ており、とても生きて帰してくれそうにはなかった。