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第二十五話:新たなる旅立ち

「はあっはあっ……仲間を呼ぶなんて、卑怯だにゃ!」

『プギィィィィィ!』


 ニャッフルは豚型モンスターであるピッグベア6匹に囲まれ、その呼吸を大きく乱す。

 ピッグベアは集団でジリジリとニャッフルとの距離差を縮めている。


「くっ……こうなったら、やってやるにゃ! かかってくるにゃ!」


 ニャッフルは己を鼓舞し、くいくいとピッグベアを挑発する。

 ピッグベアの集団は、互いに合図を交わすことも無く―――


『『『『『『プギィィィィィィィ!』』』』』』


 一斉にニャッフルへと、襲いかかった。





ただのゲーマーだった俺が異世界では無敵だった件





「いやー、やっと新しい制服ができたぜ。どうよ? 俺の制服姿は」


 朝の宿屋の前で、祐樹は特注した学生服に腕を通すと、胸を張って格好つけて見せる。

 アオイとニャッフルは、ほぼ同時に返事を返した。


「「学生です(にゃ)」」

「うっわ当然の反応! まあなー、モブキャラから脱するのは簡単じゃねえわな」


 二人の反応にガックリと肩を落とし、返事を返す祐樹。

 そんな祐樹に対し、アオイはおずおずと手を上げた。


「あのぅ、師匠。“もぶきゃら”というのはよくわかりませんが、学生が嫌ならやはり私がおすすめした鎧を着られてはいかがでしょうか?」

「お前のおすすめってあの金ピカのやつだろ!? ただの学生にあんなん似合う訳ねえよ!」


 たとえ祐樹が着たとしても、“着られている”感がハンパないのは間違いないだろう。

 やはりアオイのように端正な顔立ちか、筋骨隆々の男が着ることで、金ピカの鎧も映えるというものだろう。

 もっとも、どちらにせよ似合う人間は限られてくるのだが。


「じゃあやっぱりニャッフルとおそろいにするにゃ? 通気性抜群にゃ」

「気持ち悪さも抜群だよ! この歳でその短パンは無理があるだろ!」


 短パンを履くのは個人の自由だが、ぼっちゲーマーかつ目付きの悪い祐樹が、そんなスポーティな格好が似合う訳がない。

 散々悩んだあげく、祐樹は学生服を着続けることに決めたのだ。


「まあとにかく、これからも俺はこれでいくから。たとえモブでもな」

「「???」」


 祐樹の言葉の意味がわからず、同時に同じ方向へ首を傾げるアオイとニャッフル。

 しかし祐樹は二人の様子に構わず、言葉を続けた。


「それより、そろそろ次の目的地に向かうべきじゃないか? 確か次の目的地は―――」

「はい! 海の玄関こと“シーシャイン”です!」


 アオイはまるで授業を受ける生徒のように手を上げ、祐樹の言葉に答える。

 祐樹は満足そうに頷くと、言葉を続けた。


「その通り。まずはシーシャインに行って、そこから次の大陸へと移動する。もちろん、修行をしながらな」

「えー……修行面倒くさいにゃ」


 ニャッフルはあからさまに嫌そうな顔をして、祐樹へと言葉を返す。

 祐樹は喝を入れるように、強い口調で言葉を返した。


「だまらっしゃい! お前らのレベル……もとい強さも向上させとかないと、魔王討伐なんぞ夢のまた夢だぞ!」

「さすが師匠! 立派な志です!」


 祐樹の言葉に反応したアオイは、キラキラとした瞳で祐樹を見つめる。

 その吸い込まれそうな瞳に一瞬魅入られる祐樹だったが、ぶんぶんと頭を振り、何かを振り払って言葉を続けた。


「と、とにかく、修行は続けるぞ! 戦闘は極力お前らでなんとかするんだ!」

「それはいいけどにゃー……祐樹の修行って同じモンスター倒すばっかりで、なんかつまんないにゃ。本当に強くなれるのか疑問にゃ」


 ニャッフルはぶーぶー言いながら、なおも祐樹に文句を言い続ける。

 祐樹は腕を組むと、しみじみと何かを考えながら、言葉を紡いだ。


「それが強くなるから不思議なんだよなぁ……さすがゲーム」

「???」


 ニャッフルは祐樹の言葉の意味がわからず、再び首を傾げる。

 祐樹はこほんと一度咳払いをすると、改めて言葉を続けた。


「ともかく、旅に必要な道具もそろったし、出発だ! 王都ともおさらばだぜ!」


 祐樹はぶんぶんと片腕を回しながら、王都の出口へと歩いていく。

 二人はそんな祐樹の後ろを、慌てて追いかけた。





「と、意気揚々と飛び出したものの……遠いな」

「遠いにゃ」

「遠い……ですね」


 三人はどこまでも続くかのような森の中で、同時にがっくりと肩を落とす。

 王都を出てから半日以上歩きっぱなしだった足には疲労が蓄積し、当然陽も傾いてきている。

 ここで祐樹は、一つの決断をした。


「よし! 今日はここで野営するぞ! で、明日の朝出発だ!」


 祐樹は腕を組みながら、うんうんと頷く。

 このまま疲労を抱えて歩きまわって、モンスターにでも出くわしたら最悪だ。判断としては妥当なところだろう。


「さ、賛成にゃ。ニャッフルもう足が動かないにゃ」

「っと、ニャッフルちゃん、大丈夫ですか?」


 ふらっと倒れたニャッフルの背中を、受け止めるアオイ。

 ニャッフルはすんすんと鼻を鳴らすと、アオイの髪の匂いを嗅いだ。


「にゃー、やっぱりアオイはいい匂いするにゃあ。落ち着くにゃ」

「にゃ、ニャッフルちゃん、匂い嗅がないで! 恥ずかしいですよ!」


 ニャッフルはゴロゴロと喉を鳴らしながら、そのままアオイへと甘える。

 アオイは恥ずかしそうに顔を赤らめながら、ニャッフルへと言葉を返した。

 一方その様子を見ていた祐樹は、言いようのない孤独感に苛まれていた。


「え、何この孤独感。こわい。なんかお前ら姉妹みたいだよな。全く似てないけど」


 祐樹は二人の姿を冷静に分析し、言葉を紡ぐ。

 アオイはどこか困ったように笑うと、言葉を返した。


「私には妹が沢山いましたので……そのせいかもしれません。ニャッフルちゃん、可愛いですし」

「おふ……テクニシャンヌ」


 アオイはニャッフルの喉を撫で、撫でられたニャッフルは、気持ちよさそうに目を細め、ゴロゴロと喉を鳴らす。

 祐樹はその様子を見ると、小さな声で言葉を紡いだ。


「……前言撤回。ペットと飼い主だわ、これ」

「「???」」


 小さく独り言を言う祐樹を不思議に思い、頭に疑問符を浮かべる二人。

 やがて祐樹は、ポケットの中から一枚の袋を取り出した。


「それより、野営の準備しようぜ! テレレレッテレー♪ キャンプセットー♪」

「あ、あの師匠。野営は良いのですが、そのBGMは一体?」


 アオイはおずおずと片手を上げ、申し訳なさそうに祐樹へと質問する。

 祐樹はアオイの言葉を聞くと、頭をボリボリと掻きながら返答した。


「あ、このネタわかんねーか……まあいいや、それよりアオイはテント組むの手伝ってくれ」

「あ、はい! 喜んで!」


 アオイはニャッフルをその場に寝かせると、そのまま祐樹の元へと走っていく。

 ニャッフルは道端に寝転がり、だるそうにゴロゴロと転がっていた。


「ニャッフル! お前は食料調達! その辺で“ピッグベア”を2匹ほど狩ってきてくれ!」

「えー……面倒臭いにゃ。ていうかもう疲れたにゃ」


 ニャッフルはごろごろと転がりながら、祐樹へと足を向けて返答する。

 祐樹はしばし考えた後、ピンと何かを思いつき、言葉を紡いだ。


「そうなると夕飯は水とサラダだけってことになるが……それでもいいか?」

「100匹は狩ってくるにゃ。任せておくにゃ」


 ニャッフルは急に立ち上がり、どんと自分の胸を叩く。

 その後「肉にゃー!」と騒ぎながら、森の中へと消えていった。


「さーてと、それよりテントだ、テント」


 平和なテント設営組は、ほんわかした雰囲気で作業を進めていく。

祐樹はポケットから取り出した小袋から、次々とテント用品を取り出していった。

 アオイは驚きに両目を見開き、言葉を紡ぐ。


「すごい!? そんな小さな袋の中に一体どうして!?」

「お、アオイは“アイテム袋”見るの初めてか? まあ、王都くらい大きな街じゃなきゃ売ってないからな」


 祐樹はポイポイとテント用品を取り出しながら、とりあえず目の前に並べていく。

 アオイはポカンとしながら、その様子を見守っていた。


「このアイテム袋には次元魔法がかかっててな、異次元の中にアイテムを収納できる優れものなんだ。ま、それだけに値も張ったけどな」


 祐樹は取り出したキャンプ用品を確認しながら、アオイへとアイテム袋の説明をする。

 アオイはそんな祐樹に、恐る恐る質問を返した。


「……ち、ちなみに、おいくらだったのでしょう?」

「100万ボルド」

「高っ!?」


 アオイはまさかの祐樹の言葉に驚き、声を荒げる。

 祐樹は「ははは」と笑いながら、言葉を続けた。


「悪い。冗談だよ。20万ボルドだ」

「それでも結構なお値段ですね……でも、次元魔法は貴重ですし、納得はできます」


 祐樹の言葉に納得し、頷くアオイ。

 祐樹はテント用品が全て揃っている事を確認すると、改めてアオイへと向き直った。


「うっし、テントは組めそうだ。じゃ、始めるか」

「あ、はい! 師匠!」


 その後アオイと祐樹は2人で協力し、テントを設営する。


「それにしてもニャッフルちゃん……一人で大丈夫でしょうか?」

「ま、この辺のモンスターのレベルなら問題ねえよ」


祐樹はケラケラと笑いながら、ニャッフルなら大丈夫だと太鼓判を押す。

しかしその頃、ニャッフルは―――



「くっ……こうなったら、やってやるにゃ! かかってくるにゃ!」

 

思いっきりピンチに陥っていた。

 ニャッフルは己を鼓舞するように拳同士を打ち鳴らすと、くいくいとピッグベアを挑発する。

 ピッグベアの集団は、互いに合図を交わすことも無く―――


『『『『『『プギィィィィィィィ!』』』』』』

 

一斉にニャッフルへと、襲いかかった。


「裂衝撃! 裂衝撃! れっしょうげぇぇぇぇき!」


 ニャッフルは連続で裂衝撃を放ち、空気の塊が最初に飛び込んで来た三匹を吹き飛ばす。

 その後飛び込んで来た二匹を体捌きでかわしつつ、カウンターを打ち込んだ。


『プギィィィィィィ!!』

「!? しまったにゃ!」


 ニャッフルの背後から、最後のピッグベアが襲い掛かる。

 しかしニャッフルは一瞬早く、回し蹴りを叩き込んだ。


『ブギィ!』


 ピッグベアは木に叩きつけられ、息絶える。

 ニャッフルはバクバクと波打つ心臓を、必死で抑え込んだ。


「はあっはあっはあっ……なんとか、たおした、にゃ」


 ニャッフルはがっくりと膝を落とし、呼吸を整える。

 その周りでは、ピッグベア6匹が倒されていた。



 しばらくして森の奥から、ニャッフルが6匹のピッグベアを引きずって、ボロボロになりながら帰ってきた。

 祐樹はそんなニャッフルに気付き、一番に声をかける。


「お、帰って来たかニャッフル! どーよ、修行の成果で楽勝だったろ?」

「にゃ!」

「ぽむぅ!?」


 ニャッフルはヘラヘラとした祐樹に対し、溜め無しのビンタを叩き込む。

 祐樹は変な声を出して、そのビンタをくらった。


「アオイぃ、疲れたにゃ~」

「っと、よしよし、頑張りましたね、ニャッフルちゃん」


 アオイは寄り掛かってきたニャッフルを抱きかかえ、よしよしとその頭を撫でる。

 その姿は、慈愛に満ちていた。


「え、何で!? 何で俺今殴られたの!?」


 ニャッフルへと荒々しく質問する祐樹だったが、ニャッフルはぐったりしていて答えてくれない。

 やがてニャッフルから事情を聴いた祐樹が納得し、お互いに和解するのは、ここから少しだけ先のお話。



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