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第二十四話:アオイの輝き

「と、いう訳で市場だ! この間は武具屋にしか行ってねーからな。装飾品屋でも回ってみるか?」

「装飾品……。はい、師匠! 私もそれがいいと思います!」


 アオイは祐樹の言葉を受けると、うんうんと頷き、嬉しそうに言葉を返す。

 祐樹はそんなアオイの様子を確かめると、同じように頷き、装飾品屋へと歩みを進めた。


「あ、そういやまだ聞いてなかったけど……なんでいきなり、俺をデートに誘ったんだ?」


 祐樹は不思議そうに首を傾げ、アオイへと質問する。

 アオイは祐樹の言葉を受けると、困ったように笑いながら、言葉を返した。


「あ、えっと、それは……私にもわからないんです。ただ、ニャッフルちゃんと―――」

「あー! わかった! ギルドのおっさんに言われたんだろ!? デートの練習しとけとかなんとか!」


 ニャッフルと同じ理由であると踏んだ祐樹は、アオイの言葉を遮って言葉を紡ぐ。

 アオイはその言葉を受けると、しばしの沈黙の後、こくこくと頷いた。


「あ、そ、そうなんです! ギルドの受付さんに言われたんですよ!」

「やっぱそーかぁ。あのおっさん本当どうしようもねえな」


 祐樹は頭をボリボリと掻きながら、ギルドの受付の顔を憎らしげに思い出す。

 アオイはそんな祐樹の顔を、どこか困ったように笑って見つめていた。


「っと、そうこうしてるうちに着いちまったな。ここが、この市場で一番でかい装飾品屋だぜ」

「ほわぁ……本当に、大きいですね」


 二人の眼前に堂々と佇む、石作りの建築物。“装飾品屋:セレスティード”と書かれた大きな看板が、建物のドアの上にかけられていた。


「じゃ、さっそく入るか。俺はこういうの縁遠いんだけどさ、アオイはどうなんだ?」

「あ、それは私も同じです。幼い頃から剣の修行ばかりだったもので……」


 アオイはどこか自嘲するように、祐樹の言葉に答える。

 祐樹はうんうんと頷くと、「まあまあ、俺もゲーム漬けだったし、浮いた話なんて欠片も無かったからなぁ」と言葉を返した。正確には浮いた話どころか、友達すら一人もいない始末だったのだが、それを言葉にはしなかった。泣きそうになるから。


「さて中は……おお! 豪華絢爛って感じだな」

「すごい……」


 店内に一歩足を踏み出すと、そこにはネックレスからイヤリングに至るまで、ありとあらゆる装飾品で溢れかえっていた。

 奥の方にはジュエリーコーナーもあるらしく、その辺りに目を向けるだけで眩しくなる。


「奥の方は俺らには無縁だな……この辺のを見てみるか」

「はいっ」


 祐樹とアオイは二人で、店内を見て回る。

 いつのまにかアオイは楽しそうに、鼻歌を歌っていた。


『ほっ。アオイのやつ、楽しそうだ。とりあえず成功って思っていいんだよな……』


 実は内心ドキドキしていた祐樹は、楽しそうなアオイの様子を見て、ほっと胸を撫で下ろす。

 しかし次の瞬間、アオイの動きが止まったことを、祐樹は見逃さなかった。


『ん? アオイのやつ、あのネックレス見てから動かないな……もしかして、欲しいのか?』

「アオイ」

「ひゃい!? な、なんでしょうか!?」


 アオイは背後から声をかけられたことに驚き、変な声を出しながら祐樹へと返答する。

 祐樹はポリポリと頬を掻きながら、言葉を続けた。


「あのさ、そのネックレス、欲しいのか?」

「えっ!? い、いえいえ、めっそうもない! こんなネックレス、私には似合いません!」


 アオイはぶんぶんと両手を横に振り、祐樹の言葉を否定する。

 祐樹はアオイ越しにネックレスを見つめると、それを付けているアオイを想像した。


「いや、似合わないってことはねーと思うけどなぁ」

「えっ……?」


 アオイは祐樹の言葉が意外だったのか、両目を見開いて声を漏らす。

 祐樹はピンと何かを思いついたように両手を合わせると、さらに言葉を続けた。


「そうだ、アオイ。ちょっと先に店出ててくれ、とりあえず一通り見回ったろ?」

「あ、は、はい、了解しました」


 アオイは突然の祐樹からの要望に少し驚きながらも、素直にその言葉に従い、外に出る。

 そして祐樹は……アオイの見つめていたネックレスを手に取り、その値段を見て、小さくため息を落とした。





「あっ、師匠。お待ちしていました。何か御用時ですか?」

「ん? ああ、まあ、ヤボ用だよ」

「???」


 挙動不審な祐樹の様子に、頭に疑問符を浮かべるアオイ。

 しかし祐樹はそんなアオイの様子を見ると、たたみかけるように言葉を続けた。


「それよりアオイ! 店はここだけじゃねえぞ! 気合入れてくから付いてこいよな!」

「あっ、は、はい師匠! お供します!」


 アオイは祐樹の言葉に従い、駆け出した祐樹の後を追いかける。

 そうしていくつもの装飾品店を回っているうちに、すっかり陽の光は山の間に落ちていた。





「いやー、さすがに今日は、ちょっと疲れたな」


 祐樹は宿屋の前に戻ってくると、ゴキゴキと首を鳴らして言葉を紡ぐ。

 アオイはその言葉を受けると、深々と頭を下げた。


「はい、師匠。今日は本当にありがとうございました」

「おっ、アオイ。ちょっとそのままでな」

「??? は、はい……」


 祐樹は頭を下げたアオイを見ると、そのままの姿勢でいるよう指示を出す。

 アオイは素直にその言葉に従い、頭を下げたまま待機した。


「ほいっ。俺からのプレゼント……ってやつかな」


 祐樹は最初に訪れた装飾品屋でアオイが見つめていたネックレスを、アオイの首へとかける。

 アオイは顔を上げると、両目を見開いてそのネックレスを見つめた。


「えっ!? そんな、師匠、頂けません! 高かったんじゃ……」

「だーいじょうぶだって。モンスター討伐で金も稼いだんだし、それをやったのはアオイだ。だろ?」


 祐樹はおどけた様子で、あわあわと慌てるアオイへと言葉を紡ぐ。

 アオイはやがて両手でネックレスを握り締めると、こくんと頷いた。


「はい……ありがとうございます。師匠。一生大事にします」

「はははっ。大げさな奴だなぁ」


 アオイは目を瞑り、何かを確かめるように、愛おしそうにそのネックレスを抱きしめる。

 祐樹はそんなアオイを見ると、悪戯に笑ってみせた。


「ま、それじゃ休もうぜ。さすがに俺も疲れちまった」

「ふふっ……はい、私もです」


 アオイは祐樹の言葉に合意し、宿屋の中へと入っていく。

 やがて二人は、一日中ほっとかれたニャッフルに質問攻めにされるのだが……それはまた、別のお話。



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