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第二十三話:お弁当タイム

「と、いうわけでここがデートスポットその一。“女神の噴水”だ!」

「わぁぁ。綺麗な噴水ですね」


 二人の眼前には、端正な顔立ちをした女神の銅像を中心に置いた噴水が鎮座している。

 その広場では、恋人たちが相変わらず、互いに愛を語り合っているようだ。


「ふっ。甘いぞアオイ。この噴水には伝説があってな。コインを二人同時に投げて、女神像に当たると二人は永遠に結ばれるって伝説だ」

「え、永遠……ですか。それは凄いですね」


 アオイはちょっと赤面しながら、ごくりと息を飲む。

 祐樹はそんなアオイの様子を見ると、小さく笑った。


「ははっ。まあ、単なるおまじないみたいなもんさ。それより、やってみるか?」

「あ、はい! でも、師匠。あの銅像、顔のところが少し壊れているような」

「気のせいだ」


 祐樹はアオイの言葉の途中で、遮るように言葉を挟む。

 アオイは頭に疑問符を浮かべ、さらに言葉を続けた。


「えっ? いやでも、確かに顔の所が少し……」

「アオイ。世の中にはな、知らない方がいいこともあるんだ」


 祐樹はアオイの肩を掴むと、ぐっと顔を近付け、真剣な表情で言葉を紡ぐ。

 アオイは近くなった祐樹の顔に驚き、顔を真っ赤にして返答した。


「は、はひ……わかりまひた」

「うむ。わかればよろしい」


 祐樹はアオイの肩から手を離すと、ポケットからコインを一枚取り出す。

 アオイはその行動の意図を察し、自分もコインを取り出した。


「じゃ、いくぞ。せーの!」

「せああああああああああああああああああああああ!!」

「ちょ、アオイさん!? そんな本気で投げ―――ああ!」


 アオイは思い切り振りかぶってコインを投げ、女神像の顔面へとヒットさせる。

 その威力は凄まじく、かろうじて保たれていた女神の顔が、完全に崩れ落ちてしまった。


「あれ、師匠。投げないんですか?」

「さじを投げたいよ俺は! しっかりしろ女神像―! 傷は深いぞ!」


 祐樹は血の涙を流しながら、女神像に向かって声を張り上げる。

 女神像はその声に呼応するように、ボロボロと崩れていった。


「…………」

「…………」


 その場を支配する、沈黙の空間。

 やがて祐樹は沈黙を破るべく、アオイに向かって顔を向けた。


「あー……とりあえず、アオイさん? 王様に修繕頼んどいてくれな」

「あっ、はい。わかりました、師匠」


 結局何がしたかったのかよくわからないイベントは終了し、祐樹の言葉に頷くアオイ。

 女神像もいずれは修繕され、以前の美しい顔を取り戻すだろう。


「よし! じゃあ気を取り直して腹ごしらえだ! 朝メシ食いそびれたから腹減っちまったよ」

「あ、し、師匠。それなんですが。実は私、お弁当を作って来たんです」

「なん……だと……」


 祐樹は驚愕の表情でアオイを見つめ、言葉を紡ぐ。

 アオイはキョトンとしながら、祐樹へと言葉を返した。


「あの、師匠? どうかなさいましたか?」

「い、いや、なんでもねえ。まさかこの俺が女の子の弁当を食える日が来るなんてなぁ……」


 ぼっちゲーマー、一越祐樹。女の子の弁当などとは無縁の世界を生きてきた男である。

 彼は今まさに、幸福の絶頂にいた。


「喜んでもらえて、私も嬉しいです。持ってくるのに苦労しました」

「……えっ? ちょ、待って。まさか木箱の中身って……」


 最後の一言が引っかかった祐樹は、思わずアオイへと聞き返す。

 しかしアオイはそんな祐樹に構わず、背中の木箱をドスン! と地面に置くと、その中身を広げ始めた。


「どうぞ、師匠! 沢山作ってきました♪」

「沢山すぎるだろ! 俺はおすもうさんか何かなの!? 前頭何枚目!?」


 山盛りに置かれた弁当箱の山に、思わずツッコミを入れる祐樹。

 アオイはその言葉を受けると、悲しそうに顔を伏せた。


「あ、そ、そうですよね、ごめんなさい。これは処分しま」

「食うよ! 全部食ってやるよちくしょう!」


 祐樹はフォークを片手に、血の涙を流しながら弁当を胃袋の中に入れていく。

 味は確かに美味い。美味いのだが、いかんせん量が多すぎる。

 ぶっちゃけ祐樹は三口目くらいで、後悔し始めていた。


「本当ですか師匠!? ありがとうございます! 私の分もどうぞ!」

「あ、あははは……かかってきなさーい……」


 祐樹は“もうどうにでもなーれ”といった表情で、アオイへと返事を返す。

 アオイは弁当をかっ食らう祐樹の横顔を、いつまでも嬉しそうに見つめていた。





「うっぷ。も、もう何も食えねえ……」


 祐樹は山のようにあった弁当箱を全て空っぽにし、自らの胃袋の中に収める。

 寝っころがってしまった祐樹をアオイは嬉しそうに微笑み、やがて言葉を紡いだ。


「ありがとうございます、師匠。お味はいかがでしたか?」

「もちろん、美味かったぜ。ありがとな、アオイ」

「―――っ!」


 祐樹は悪戯な笑みを浮かべながら、アオイへと言葉を紡ぐ。

 その表情を見たアオイは両目を見開き、頬を赤く染めた。


「??? アオイ、どうかしたか?」


 祐樹はそんなアオイの様子を不思議に思い、頭に疑問符を浮かべて質問する。

 アオイは両手をばたばたと横に振りながら、慌てて言葉を返した。


「あっ、いや、なんでもないですじゃ!」

「???」


 明らかにおかしいアオイの様子を不思議に思い、首を傾げる祐樹。

 しかしやがて「ま、いっか」と呟くと、その場から立ち上がった。


「よし、じゃあアオイ! 次は市場行くぞ、市場! デートといえば買い物だろ!」


 祐樹は少し膨らんだ腹を抱えながら、市場に向かって駆け出していく。これも高ステータスのたまものなのかわからないが、思ったより腹は苦しくなかった。


「あっ、は、はい師匠! お供します!」


 アオイは駆け出した祐樹の後を、嬉しそうに追いかけていく。

 そして噴水広場には、ポカンと口を開けたままのカップル達だけが残されるのだった。



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