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第二十二話:デートデートデート2

 王都セレスティアルの宿屋のベッドに座る一越祐樹は、真剣な表情で、対面のベッドに座るアオイへと質問する。

 その表情は真剣そのものだった。


「アオイ……聞き間違いか? もう一度言ってほしいんだが」


 祐樹は真剣な表情のまま、アオイへと言葉を紡ぐ。

 アオイは頭に疑問符を浮かべ、首を傾げながら言葉を返した。


「??? えっと、ではもう一度。師匠、私とデートして下さい」

「あー、はいはい。デートね。デートデート……はぁああああああああああああああ!?」



ただのゲーマーだった俺が異世界では無敵だった件



「待て、落ち着け俺。惑わされるな。きっとこれは幻覚だ」

「幻覚じゃないですよ!? 落ち着いて下さい師匠!」

「おだまりぃ! ただでさえ豆腐メンタルの俺に、複数の女子がそんなこと言うんじゃねー! 心臓爆発すんだろが!」

「どんな奇病ですか!? とにかく落ち着いて下さい!」


 アオイは心配そうな表情をしながら、祐樹の肩を掴み、ガクガクと前後に揺さぶる。

 祐樹は心を落ち着かせ、頭をフル回転させた。


『落ち着け。王都でのイベントの中には仲間とのデートイベントもあったはずだ。それは問題ない。ただ……相手が俺だってのが問題だ。確かあれ、勇者とニャッフルのイベントだろ。ていうかニャッフルの時もこの思考に陥らなかったか? 成長してねえな俺』


 祐樹は胸の鼓動を落ち着け、再びアオイへと向き直る。

 そしてゆっくりとした口調で言葉を紡いだ。


「あー、アオイさん? ニャッフルと行ってくればいいんじゃないかな?」

「どういうことですか!? それじゃデートにならないです!」


 アオイは祐樹の言葉を受けると、悲しそうな表情で言葉を返す。

 祐樹は「そんな顔すんなよ……」と呟き、頭を抱えた。


「で、では、明日の朝宿屋の前に集合ということで、よろしくお願いします。師匠!」


 アオイは早口で言葉を紡ぐと、そのまま部屋を飛び出していく。

 祐樹はそんなアオイに、咄嗟に手を伸ばした。


「ちょ、ちょっと待てあお……い……」


 しかし、伸ばした手は空を切り、アオイの肩を掴むことはできない。

 祐樹はだらんと両手から力を抜くと、天井を見上げながら言葉を紡いだ。


「ええええ……どうすりゃいいの。俺」


 ぼっちゲーマー、一越祐樹。

 乙女との連続デートなど経験したことはなく、ただ先ほどのアオイの言葉だけが頭の中で木霊する。


「明日の朝……か。それまでにデートコースくらい考えとかないと、か?」


 祐樹はうーんと唸りながら、相変わらず天井を見上げる。

 そんな祐樹が眠りについたのは、考え疲れた深夜になってからの事だった。





「おはようございます! 師匠!」

「お、おう。おはよ、う……!?」


 翌朝、宿屋の前で待っていた祐樹を出迎えたのは、全身を白のワンピースに身を包んだアオイだった。

 金色の髪が白の布地に映え、青い瞳は真っ直ぐにこちらを見つめている。

 幻想的とも言えるその美しさに、祐樹は完全に言葉を失った。


「師匠? どうかなさいましたか?」

「へっ!? あ、ああいや、なんでもない。なんでも」

「???」


 様子のおかしい祐樹に疑問符を浮かべながら、首を傾げるアオイ。

 その仕草は年頃の少女そのもので、普段の剣士アオイからは想像もつかない姿だった。

 祐樹はバクバクと脈打つ心臓を押さえつけ、自らの胸元を強く掴んだ。


『お、おおお、おちけつ、俺。アオイはアオイじゃないか。いつも通りに接すりゃいーんだよ』


 祐樹はアオイに背を向け、すーはーと深呼吸を繰り返し、乱れてしまった呼吸を整える。

 アオイはそんな祐樹の様子を見ると、悲しそうに顔を伏せた。


「あの……やはり、おかしかったでしょうか。私のようなものが、こんな格好など……」


 アオイは右手で体を隠すようにしながら、少しだけ頬を赤くし、言葉を紡ぐ。

 アオイはアオイなりに、決心をしてその服装を選んだのだろう。

 祐樹はすぐさま振り向くと、言葉を返した。


「い、いや、そんなことねえよ。似合ってると思う、ぜ」


 祐樹は噛みそうになるのを懸命にこらえながら、どうにか言葉を紡ぐ。

 その言葉を受けたアオイは、ぱぁぁと表情を明るくした。


「本当ですか!? よかったです!」

「―――っ!」


 満面の笑顔で祐樹の言葉に答えるアオイと、その笑顔にまた言葉を失う祐樹。

 しかし祐樹にはまだ、言わなければならないことがある。

 さらに深呼吸した祐樹は、改めて言葉を続けた。


「あー……ところでアオイ。その背中に背負ってる恐ろしく不釣り合いな木箱は……何?」


 アオイは白のワンピースという女の子らしい格好ながら、何故か大きな木箱をその背中に背負っている。

 実は祐樹は、会った瞬間からそれが気になって仕方なかったのだ。もっとも祐樹でなくとも、その状態なら誰でも中身が気になるだろうが。


「あ、こ、これですか!? これはえーっと……秘密です!」

「いや秘密にできる大きさじゃないよねそれ!? ニャッフルくらいのサイズじゃねーか!」


 アオイの言葉に対し、即座にツッコミを入れる祐樹。

 アオイはツッコミを受けると、頭を下げながら言葉を返した。


「うっ……と、とにかく後のお楽しみということで、よろしくお願いします!」

「えー……まあ、いいけどな」


 深々と頭を下げるアオイに対し、ポリポリと頬を掻きながら返答する祐樹。

 アオイはその言葉を受けると嬉しそうに顔を上げ。「ありがとうございます!」と返事を返した。


「で、とりあえずどこ行くかな。行くならデートスポットだよな、やっぱり……」

「で、でーとすぽっと、ですか。でーと……」


 アオイは今更今の状況に気付いたのか、火が付いたように赤面し、頭から湯気を立たせる。

 祐樹は頭の中で考えをまとめると、アオイの手を掴んだ。


「よし、とにかく行くぞ、アオイ! まずは王都の目玉デートスポットじゃあ!」

「あっ!? は、はい! 師匠!」


 アオイは祐樹に手を引かれ、王都の中を走っていく。

 ワンピースに木箱を背負った少女は思い切り目立ち、通行人たちの視線を釘付けにしたのは、言うまでもない。



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