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第二十一話:ニャッフルの輝き

「はあっはあっ……どこまで強引なんだ。しかしまあ、好都合だぜ」


 祐樹は引っ張られていた手を振り解くと、肩で息をしながら言葉を紡ぐ。

 その言葉を聞いたニャッフルは、首を傾げながら返事を返した。


「好都合って、何のことにゃ? 祐樹は連れ回されるのが好きなのかにゃ?」

「どういう特殊性癖!? ちげーよ! 今この場所がデートスポットその二なの!」


 祐樹は地面を指差すと、荒々しく言葉を返す。

 ニャッフルは「あー、そういうことかにゃ」と納得し、ぽんと両手を合わせた。


「で、この殺風景な遺跡のどこがデートスポットなのにゃ?」

「意外と容赦なく罵倒するなお前……。いいか? あそこの銅像の口が空いているだろ?」

「にゃ。ずいぶんとでかい口だにゃ」


 祐樹は遺跡の中心にある顔の大きな銅像を指差し、言葉を紡ぐ。

 ニャッフルは祐樹の言葉に同意し、こくこくと頷いた。


「ふむ。この銅像には伝説があってな。うそつきがこの口に手を入れると、手を食われてしまうらしいんだ」

「こわっ!? どこがデートスポットなのにゃ!」


 ニャッフルはしっぽをピンッと立たせ、祐樹へと言葉を紡ぐ。

 祐樹はニャッフルの反応を見ると、大口を開けて笑った。


「はっはっはっ。本気にすんなよ。そのスリルを味わうのがデートの醍醐味ってやつらしいぞ。多分。きっと」

「なんでだんだん自信が無くなってるにゃ!?」

「デートしたことねえからだよ畜生! 言わせんな!」


 ニャッフルの心無い一言に傷つき、言葉を返す祐樹。

 ニャッフルはその言葉を受けると、少し頬を膨らませた。


「いま、ニャッフルとデートしてるにゃ……」


 小さく、まるで消え入りそうな声で、ニャッフルは独り言を呟く。

 祐樹はどこか不満そうなニャッフルの態度に疑問符を浮かべながらも、言葉を続けた。


「ま、とりあえずしっぽでも入れてみろよ。ほい」

「あ!? か、勝手に入れるにゃ!」


 祐樹はニャッフルのしっぽを掴むと、銅像の口の中に放り込む。

 しかし当然ながら、銅像は何の反応も示さなかった。


「にゃ、にゃはははは! ニャッフルは正直者だから、食われるわけないのにゃ!」


 ニャッフルは滝のような汗をかきながらも、どうにか言葉を紡ぐ。

 その様子にニヤリとした祐樹は、大きく息を吸い込んだ。


「ガブッ!!」

「にゃあああああああああああああ!? 食われたにゃ!! いただかれたにゃ!! おかーさんごめんなさい! しっぽが短くても生きていくにゃ!!」

「お、落ち着けニャッフル。俺だよ、俺の声だ」


 予想以上のニャッフルのビビり様に逆にビビってしまった祐樹は、観念してタネ明かしをする。

 ニャッフルはそんな祐樹の言葉を聞くと、ポカンと口を開けた後、ぽかぽかと殴ってきた。


「ば、ばかにゃ! ばかユウキ! おまえはばかにゃ!」

「いてっ! ははは、ごめんごめん」


 ちょっとからかっただけのつもりだったのだが、ニャッフルは涙目になりながら、祐樹を殴る。

 しばらく殴り続けた後、ニャッフルは両手を祐樹の胸に置くと、頬を赤く染め、祐樹を上目使いに見つめながら言葉を紡いだ。


「本当に……ばかだにゃ」

「―――っ!」


 その庇護欲をそそられる姿に一瞬目を奪われ、顔を真っ赤にする祐樹。

 胸の奥がむずがゆく、自分でも今自分がどんな心境かわからない。こんなのは初めての経験だった。


「??? ユウキ? どうしたにゃ?」


 ニャッフルは赤くなっていく祐樹の顔を不思議に思い、頭に疑問符を浮かべて首を傾げる。

 祐樹はとっさに体を後ろ向きにすると、慌てて言葉を返した。


「さ、さあて、次行くぞ次! モタモタしてると置いてくからな!」

「あっ!? 待つにゃユウキ! 話はまだ終わってないのにゃー!」


 走り出す祐樹と、それを追いかけるニャッフル。

 結局二人の珍道中は、陽の光が傾くまで続いていった。


「にゃー。良い眺め、だにゃあ」

「……おう」


 二人は町全体を見下ろせる広場のベンチに座り、セレスティアルの街並みと、山の間に落ちていく陽の光を見つめている。

 オレンジ色の陽の光に照らされたニャッフルの横顔は、いつもの元気一杯、天真爛漫な姿とは、また違っていて……


「なーんか、いつものニャッフルと違うんだよなぁ」


 思わず祐樹は、それを口に出していた。

 ニャッフルは当然反応し、祐樹へと顔を向ける。


「にゃ? ユウキ、それどういう意味にゃ?」


 ニャッフルは頭に疑問符を浮かべ、祐樹へと首を傾げる。

 祐樹は慌てて両手を横にぶんぶんと振ると、言葉を返した。


「!? い、いいいいや、なんでもねえんだ。なんでも! ははははは……」

「???」


 はっきりしない祐樹の言葉を受け、更に首を傾げるニャッフル。

 祐樹はそんなニャッフルの手を掴むと、いつのまにか駆け出していた。


「そ、それより最後はディナーだ! 肉食おうぜ、肉!」

「お肉にゃ!? やったにゃー!」


 ニャッフルは祐樹の言葉を聞くと、いつもの天真爛漫な笑顔で一緒に駆け出す。

 それを見た祐樹は、ほっとしたように笑い、その足を進めた。


「…………ありがとにゃ、ユウキ」


 ニャッフルは走っている祐樹に手を引かれながら、小さな声で言葉を紡ぐ。

 その笑顔はまるで女神像のそれのように慈愛に満ちており、普段のニャッフルからは、想像もつかない。

 もっともその表情を向けられている本人は、全く気付いていないのだが。


「よぉし、じゃあ競争だニャッフル。よーいどん!」

「あっ!? ずるいにゃユウキ! ちょっと待つにゃー!」


 突然街の中を走っていく祐樹を、追いかけるニャッフル。

 その笑顔はいつもの通り元気いっぱいで、これからも勇者一行の旅路を、明るく照らしてくれるだろう。



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