表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/111

第十八話:迷子の迷子の

「ふんふふーん♪ あ! あの鎧なんか良さそうだにゃアオイ! ……アオイ?」


 ニャッフルは商店街を歩きながら、鎧専門店に飾られていた銀の鎧を見つけ、背後にいるはずのアオイへと声をかける。

 しかしその声に返事はなく、また姿も見当たらなかった。


「ユウキ? アオイ?」


 ニャッフルは不安に駆られ、二人の名前を呼びながらきょろきょろとしてみる。

 しかしその視線に入ってくるのは、無機質な通行人たちだけだった。


「大変にゃ! 二人が迷子にゃあああああああああああ!」


 ニャッフルは頭を抱え、王都の空へと声を響かせる。

 しかしその声が祐樹たちに届くことは無く、ただ虚しく木霊していた。


「うーん、参ったにゃ。あの二人にも困ったもんだにゃ」


 ニャッフルは腕を組むと、うんうんと頷いてひとりごちる。

 やがてぱっと顔を上げると、そのまま商店街を歩き始めた。


「まっ、気にしても仕方ないにゃ! ニャッフルはニャッフルで買い物を楽しむにゃ! お金にゃいけど!」


 ニャッフルはふんふんと鼻歌を歌いながら、呑気に商店街を歩く。

 すると通りかかった商店のテントの屋根に、何か足のようなものが飛び出ている事に気付いた。


「にゃっ!? か、変わったデザインのお店にゃ。斬新だにゃ~……」


 ニャッフルは興味をそそられたのか、恐る恐るその店へと近づく。

 するとその店の店主らしき男が、すがりつくようにニャッフルへと近づいてきた。


「おお! 旅の方ですか!? どうか助けて下さい! 突然空から大男が降ってきて、うちの店の天井に突き刺さったんです!」


 店主らしき男はニャッフルにすがりつくと、泣きながら助けを求める。

 ニャッフルはポリポリと頬を掻くと、面倒臭そうに突き刺さった男の足を見つめた。


「にゃ~……でもにゃあ、ちょっと面倒くさいのにゃ」

「お願いします! あの男を引き抜いてくれたら、うちの商品全品半額にしますから!」

「困った人は放っておけないのがニャッフルにゃ! 任せておくにゃ!」


 ニャッフルは店主の一言に態度を変え、自らの胸をどんと叩く。

 やがて器用に屋根に上ると、突き刺さった男の足を掴んだ。


「んにゃ~……むぐぐぐぐ……」

「フレー! フレー! 旅の方!」


 ニャッフルはほっぺたを思い切り膨らませ、男の足を懸命に引っ張る。

 すると徐々に、男の体が見えてきた。


「むぐ……もう……ちょっと……!」


 ニャッフルはさらに両手に力を込め、両目を瞑って最後の力を込める。

 すると“すぽーん”という効果音と共に男が引き抜かれ、地面へと転がった。


「や、やったにゃ! 全品半額ゲットにゃ!」

「ありがとうございます! ありがとうございます!」


 ニャッフルは満面の笑顔でガッツポーズをし、店主はそんなニャッフルに、涙ながらにお礼の言葉を告げる。

 しかし次の瞬間、倒れていた男が、ゆっくりと立ち上がった。


「いつつ……くっそあの野郎。絶対に許さねえ……」

「…………」


 立ち上がった男の姿を見たニャッフルはその場に固まり、声すらも出せない。

 やがて男は、自分を引き抜いた者のいる方向へと顔を向けた。


「おう。てめえが引き抜いたのか。ご苦労だった……な……」


 ニャッフルの顔を見たその男は、ニャッフルの顔を見た瞬間、驚愕の表情で固まる。

 しばしの沈黙の後、お互いは同時に、その沈黙を破った。


「ああああああああ!? てめえはあの時の猫野郎!」

「にゃああああああ!? ぐ、ぐぐぐ、グリードにゃああああああああああ!!」


 王都に木霊する、二人の絶叫。

 店の店主は不思議そうに、そんな二人を交互に見つめていた。





「うーん……いねえなぁ、ニャッフルの奴」

「そうですねぇ……」


 一方ニャッフルとはぐれてしまった祐樹とアオイは、ニャッフルを探して王都の中を歩き回る。

 その一方で祐樹の頭の中では、超高速で攻略本のページがめくられていた。


『落ち着け。この王都ではイベントが多い。その中でニャッフルが関連するイベントを考えれば、おのずと居場所がわかるはずだ』


 祐樹は頭の中をフル回転させ、王都でのイベント一覧を思い出す。

 どうでも良いイベントから重要なイベントまで、全て網羅している祐樹は、二つのイベントを思い出した。


『ま、まま、待てよ。まさかあのイベントを発生させたわけじゃねえだろな。いやいくらこの二人が不運でも、さすがにそれはないだろう』


 祐樹は激ムズのイベントがこの王都に存在していた事を思い出し、その顔はみるみるうちに青ざめていく。

 アオイはそんな祐樹を不思議に思い、声をかけた。


「師匠? どうかなさいましたか?」

「あ、ああいや、なんでもない。ちょっとした老婆心ってやつさ」

「???」


 アオイはイマイチはっきりしない祐樹の返答に小首を傾げ、頭に疑問符を浮かべる。

 祐樹はどうかあの声が聞こえませんようにと神に祈りながら、王都を歩き続けていた。

 しかし、運命というやつは、いつだって非情なもので―――


『ああああああああ!? てめえはあの時の猫野郎!』

『にゃああああああ!? ぐ、ぐぐぐ、グリードにゃああああああああああ!!』

「…………ぴっ」


 祐樹は耳に響いてきた絶望の声を聞き、思わず変な声を出す。

 人間本当に驚いたときは、こんなものである。


「!? し、師匠! あの声、ニャッフルちゃんですよね!?」

「あ、ああー、うん。そうだね。でも、他人の空似じゃないかなぁ?」

「師匠!? いくらなんでも似すぎですよ!」


 イベントをスルーしようとする祐樹に対し、ツッコミを入れるアオイ。

 やがてアオイは、声のした方向へと走り出していた。


「とにかく、急ぎましょう! ニャッフルちゃんが心配です!」

「あ、ちょ、待てアオイ! ……ちくしょー!」


 走り出したアオイの後ろを、泣きながら追いかけていく祐樹。

 やがて叫び声のした場所にたどり着くまでに、そう時間はかからなかった。





「な、なんでお前がこんなとこにいるのにゃ!? アオイに吹っ飛ばされたはずにゃ!」


 ニャッフルは引き抜かれたグリードに対し、びしっと指を差して言葉を紡ぐ。

 グリードは首をグキグキと鳴らしながら、言葉を返した。


「お前こそなんでこんなとこにいやがる! ぐっ……いてえ!? まだいてえぞこの野郎!」

「にゃあああ!? ニャッフルはその件とは無関係なのにゃ!」


 当然襲ってきたグリードに対し、その攻撃を回避するニャッフル。

 しかしグリードは、やがて店の店主を人質にとった。


「へっ、正義の味方さんよぉ。こういうのはどーよ?」

「ぐっ……ひ、卑怯だにゃ!」


 グリードは店の店主を片腕で持ち上げ、その首に大斧を突き当てる。

 店主は恐怖のあまり声も出ないのか、カタカタと震えていた。


「へっ。大人しくしてろよ……おう、てめえら、そいつを捕まえろ!」

「へい、兄貴!」

「まってました!」

「にゃああああ!? お前ら、どっからわいて来たのにゃ!?」


 ニャッフルはいつのまにかグリードの子分たちに周りを囲まれ、やがてロープでその自由を奪われる。

 グリードは勝利を確信し、高笑いを始めた。


「わはははは! いくらすばしっこくても、縛られちゃどうしようもねえよなぁ!?」

「くっ……」


 店主を片腕に持ち、笑うグリードを、睨み付けるニャッフル。

 その両腕と両足はしっかりとロープで固定され、もはや逃げることもできないだろう。

 そしてその瞬間―――ニャッフルの背後から、声が響いた。


「ニャッフルちゃん! 大丈夫ですか!?」

「ニャッフル! てめー勝手にイベント発生させんなよ!」

「アオイ!? 祐樹!?」


 背後から聞こえてきた声に驚き、思わず振り返るニャッフル。

 その視線の先では、息を切らせた二人が、ニャッフルを見つめていた。


「こいつは好都合だぜ! てめえらもほれ、これを見な!」


 グリードは嬉しそうに二人を見つめると、右腕に抱えた店主を見せる。

 すぐに剣に手をかけるアオイだったが、その手を祐樹が制した。


「やめとけ、アオイ。お前の裂衝斬じゃ店のおっちゃんまで怪我すっぞ」

「師匠!? ですが……!」


 自分の動きを止めた祐樹に対し、顔を向けるアオイ。

 しかし次の瞬間祐樹は、真剣な表情で言葉を紡いだ。


「いいから聞け。ていうか耳貸してくれ」

「えっ!? あ、は、はい……」


 祐樹の“耳を貸せ”という言葉に反応し、祐樹の顔に耳を近付けるアオイ。

 少し赤くなった耳を不思議に思いながらも、祐樹は言葉を続けた。


「いいか? 俺がグリードの攻撃を受け続けるから、隙を見てアオイはニャッフルを助けるんだ。いいな?」

「!? そんな、師匠! いくら師匠でも、無茶です!」


 アオイは祐樹の言葉を受けると、当然大反対し、言葉を返す。

 祐樹はため息を一つ落とすと、さらに言葉を続けた。


「いいから……アオイ。俺のヒットポイントの高さを信じろ」

「ひ、ひっとぽいんと……? えっと……」


 祐樹の意味不明な言葉に反応できず、頭に疑問符を浮かべるアオイ。

 祐樹はそんなアオイを見ると、あちゃーと天を仰いだ。


「いかん。悪い癖だ、忘れてくれ。とにかく……俺を信じてくれ、頼む。アオイ」

「ひゃ。は、はひ……」


 祐樹はずいっと顔をアオイに近付けると、信じてくれと言葉を紡ぐ。

 アオイはその距離の近さに真っ赤に顔を赤く染め、噛みながら言葉を返した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ