第十七話:買い物に行こう
「……と、いうわけで、今俺たちの手元には、28万ボルドもの大金があるわけだが」
ギルドから報酬を受け取った三人は今、ギルドの前で札束を目に、話し合いの真っ最中である。
祐樹は札束を片手に、ぴらぴらとしながら言葉を紡いでいた。
そんな祐樹に、はい! と元気よく片手を上げたニャッフルが、言葉を続けた。
「はい! さっそくおかしを買いに行くにゃ!」
「どういうこと!? 装備を整えに行くんだよ!」
アオイ、ニャッフル共に初期装備で、とてもこれからの戦いに対応できるとは思えない。
大金を手にした今、真っ先に行うべきは装備の充実だろう。
「まずは格好から、というわけですね師匠! 勉強になります!」
アオイは興奮した様子でふんすと鼻息を荒くし、祐樹へと言葉を紡ぐ。
もはや出会った頃の凛々しい勇者様像はどこにもなかった。
「いや、そういう理由じゃないんだけど……俺の格好見て、お前らどう思う?」
祐樹は両手を広げ、自分の服装について二人に質問する。
二人は声を合わせ、祐樹に返答した。
「「みすぼらしいです(にゃ)」」
「やだこの子達素直! でも反論できない!」
祐樹は血の涙を流しながら、うっと右手を口に当てる。
確かにこれまでの冒険のせいで、ただでさえボロボロだった祐樹の制服は、かろうじて原型を留めているだけにすぎない。
このまま道端にでも座り込めば、物乞いとして生活が成り立ってしまうだろう。
「とにかく、俺の制服も合わせて、三人の装備を揃えに行くぞ!」
「はい! わかりました師匠!」
アオイはぐっと両手を握りしめ、キラキラとした瞳で祐樹を見つめる。
その瞳には一点の曇りも無く、祐樹を尊敬している事がありありと見て取れた。
「えー……ニャッフルはおかしの方がいいのにゃ」
ニャッフルはぶーぶー言いながら、祐樹へと反論する。
しかし祐樹も、ここは引くわけにはいかなかった。
「えーじゃありません! 装備整えたら新技教えてやるから、我慢しなさい!」
祐樹は心を鬼にして、ニャッフルへと言葉を紡ぐ。
その言葉を聞いたニャッフルは耳をぴくっと動かし、しっぽをぶんぶんと横に振った。
「ほんとにゃ!? やったー! 祐樹大好きにゃ!」
ニャッフルは思い切りジャンプし、正面から祐樹へと抱きつく。
控えめで柔らかな感触が、祐樹の胸に当たり、無意識に祐樹は全神経をそこに集中させた。
しかし悲しいかな。所詮はぼっちゲーマー。女の子に耐性があるわけがない。
「ほわぁ!? だ、だだだだ大好きとか言うんじゃねーよバカヤローコノヤロー!」
祐樹は顔を真っ赤にしながら、ニャッフルを引き剥がそうとその肩を掴み、力を込める。
するとニャッフルは意外とあっさり引き剥がされ、やがて言葉を紡いだ。
「じゃ、さっそくお店に行くにゃ! レッツゴー! にゃー!」
「あ、ちょ、おい!? そっちは王城だバカヤロー!」
走り出したニャッフルを追いかけようと、駆け出す祐樹。
しかしアオイが付いてきていないことに気付くと、振り返って声をかけた。
「アオイ! 行くぞ! ニャッフルの馬鹿、マジで、迷子になる!」
「えっ!? あ、は、はい!」
アオイはどこかぼーっとした様子で、先ほど二人がくっついていた空間を見つめている。
やがて祐樹の声に気付くと、慌てた様子で言葉を紡いだ。
「アオイ? どうかしたのか?」
そんなアオイの様子を不思議に感じた祐樹は、アオイへと言葉を紡ぐ。
アオイは少し頬を赤くすると、ぶんぶんと両手と顔を横に振った。
「い、いえ、羨ましいとかそんな、そういうのじゃないですじゃ!」
「??? 何言ってんだお前」
素っ頓狂な発言をするアオイに対し、頭に疑問符を浮かべる祐樹。
アオイはぷしゅーと頭から煙を出し、顔を真っ赤にしていた。
「!? そうだ。それよりニャッフル……を……」
祐樹は走り去ったニャッフルを追いかけようと、再び振り返るが……そこには、人っ子一人見当たらない。
いや、正確には通行人は腐るほどいるのだが、肝心のニャッフルがどこにもいないのだ。
「どこ行ったあのバカ猫おおおおおおおおおおおお!!」
王都セレスティアに木霊する。祐樹の絶叫。
通行人たちは頭に疑問符を浮かべ、そんな祐樹を訝しげに見つめていた。