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第十話:アオイVSグリード

 アオイはポカンとした表情で、グリード越しに祐樹を見つめる。

 祐樹はその瞬間から、さらに頭をフル回転させた。


『どうする? アオイが戻って来たなら、とりあえず“グリードと戦う”ってストーリーは守れる。今のあいつの実力なら、負けることもないだろう』


 祐樹は頭の中で結論付け、真剣な表情でアオイを見返す。

 そしてそのまま、大声で言葉を紡いだ。


「修行だ! アオイ! この“猟犬”グリードを倒して見せろ!」

「ええっ!?」


 祐樹の言葉に反応し、ざわつく周囲の人間達。

 ニャッフルは状況についていけないのか、アオイとグリードと祐樹をそれぞれ見つめていた。


「はい! 師匠! と、言いたいところなのですが……」

「ん? ど、どした?」


 様子のおかしいアオイに、疑問符を浮かべる祐樹。

 アオイは頬を赤く染め、もじもじと指先を合わせながら、言葉を返した。


「剣……王様のところに忘れてきちゃいました」

「バカン!? 何してんのお前剣士でしょうが!」


 アオイのまさかの行動に、即座にツッコミを入れる祐樹。

 確かに、剣士が剣を忘れるなんて聞いたことが無い。


「申し訳ありません! 謁見の間の前に剣立てがあったので、そこに差し込んでおいたのですが、うっかりそのまま出てきてしまって……」

「んな傘みたいな忘れ方したの!? 剣士の魂どこいったんだよ!」


 剣士の魂は現在、謁見の間の扉横である。

 しかしこれで完全に、アオイが戦うという選択肢は消えた。


「てめえら、俺を無視してんじゃねえ! ふざけてんのか!?」

「うるさいなもう! ちょっと黙っててくれる!?」


 叫ぶグリードに対し、声を荒げる祐樹。

 再び思考をフル回転させるが、良い考えが浮かばない。というか剣士が剣を失っている時点で詰んでいた。


「ふ、ざ、け、ん、なぁあああああああああああ!」

「おおっ!?」

「師匠! 危ない!」


 再び振り下される、グリードの大斧。

 さすがは中ボスといったところか。先ほどのダメージが色濃く残っているものの、その手元は全く狂わず、祐樹の頭部を狙っている。

 しかし祐樹は再び、思考をフル回転させていた。


『どうする? どうするどうするどうするよ。アオイは戦闘不能だしニャッフルは馬鹿だから事態についてこれてないしグリードは激おこぷんぷん丸だし、ああもうわけわからなくなってきた』


 祐樹は考え込むように折り曲げた人差し指を顎に当て、ぶつぶつと独り言を呟く。ぼっちの悪い癖である。

 そしてグリードの斧はゆっくりだが確実に、祐樹の頭めがけて振り下されていった。


「馬鹿め! あいつ考え事なんかしてやがる! アニキの勝ちだ!」

「おおよ! さっきのは何かの間違いだ! きっとアニキが滑って転んだのさ!」

「斧を持ったアニキに勝てる奴なんざいねえんだ!」


 グリードの部下たちは勝利を確信し、声を荒げる。

 その部下たちの最後の言葉に、祐樹はひらめきを覚えた。


『斧を、持った……? そうだ! これしかねえ!』


 祐樹は振り下されてくる斧の軌道を再び指先でちょっと変えると、そのまま両足に力を込める。

 そしてそのまま、城下町を駆け抜けていった。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお、りゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


 祐樹は驚異的なダッシュで謁見の間までたどり着くと、その横にある剣を取り、そのままダッシュで戻ってアオイの腰に装着する。

 次の瞬間、グリードの斧は振り下され、再び人のいない民家が真っ二つとなった。


「はあっはあっはあっ……せ、世界新、狙えるだろこのタイム……はあっはあっ」

「え!? し、師匠!? いつのまに横に!?」


 アオイはいつのまにか横に立っていた祐樹に驚き、目を見開いて言葉を紡ぐ。

 祐樹は乱れた呼吸を整えると、アオイに向かって笑顔で親指を立てた。


「アオイ! お前剣持ってるじゃん! 剣を持ったお前に勝てる奴なんざいねえぜ!」

「えっ!? あ、ほんとだ!」


 アオイはいつのまにか腰に装着されていた剣に気付き、またも驚愕の表情を浮かべる。

 祐樹は満足そうにその顔を見つめると、アオイと目を合わせて言葉を紡いだ。


「さあ、行くんだアオイ! 修行の成果を見せてやれ!」

「は、はい! 師匠!」


 アオイは鞘から剣を抜き、両手で剣を持ってグリードに相対する。

 いつのまにか背後に周られていたグリードは、鬼の形相で振り返った。


「ガキィ……どこまでも舐めくさりやがってええええええええええええええええ!!」


 グリードの咆哮と共に、その体を赤いオーラが包み込む。

 それを見た祐樹は、両目を見開いた。


「そんな……バーサーク状態!? ダメージ与えてねえぞ!?」


 バーサーク状態とは、“グラディス”戦闘システムの一部であり、いわゆる覚醒状態の事である。本来であれば一定のダメージを受けたキャラクターが陥る状態なのだが、どうやら今回はグリードの怒りが頂点に達し、発動してしまったようだ。


「うおおおおおおおおお、らああああああああああああああああああああああああ!!」


 グリードは赤いオーラを纏った斧を、今度は見境なく、アオイへと振り下す。

 己の失策を悟った祐樹は、咄嗟にアオイを庇い、グリードとの間に立った。


「師匠!? 危ない!!」

「っ!!」


祐樹は振り下された斧を人差し指と中指の間に挟み、その勢いを寸断する。

しかし、斧の衝撃は凄まじく、祐樹の足元の地面が、衝撃によって大きく抉れた。


「し、白刃取りって、こんな感じだっけ……か」


 祐樹は震えそうな指先を必死に抑え、グリードの斧を受け止める。

 いくらステータスが高いとはいえ、精神はぼっちゲーマー。怖いものは怖い。

 しかし……何より、己の失策でアオイがやられてしまうのは、もっと怖かった。


「な、に……!? 指、二本で!?」

「すごい、にゃ……」


 グリードは信じられないものを見る目で、祐樹を見つめる。

 カウンターの上に立っていたニャッフルも、思わず言葉をこぼした。


「と、りゃあああああああああああああ!!」

「ぐうっ!?」


 祐樹はそのまま指に力を込め、グリードの斧を弾き返す。

 そしてそのまま、アオイへと声を荒げた。


「アオイ! あの技だ! 新技を出せ! 大きく溜めるんだぞ!」

「!? は、はい! 師匠!」


 アオイは祐樹の声に頷くと、剣を肩に担ぐようにして構え、力を溜める。

 しかし、グリードは再び、斧を振り下していた。


「ふざけんなあああああああああああああああああ!!」

「いや、お前の相手は俺じゃないよ」


 祐樹は振り下された斧を避け、その後ろには、力を溜めているアオイの姿があった。

 振り下ろされた斧から生まれた衝撃波がアオイに襲い掛かり、思わずニャッフルは叫ぶ。


「!? おねーさん、あぶないにゃ!!」

「っ! はあああああ!! 裂衝斬!!」


 ニャッフルの声と同時に両目を見開いたアオイは、グリードと同じように剣を振り下し、衝撃波を発生させる。

 やがて二つの衝撃波がぶつかり、一瞬力が拮抗するも、アオイの衝撃波がグリードのそれを打ち破り、グリードへと衝撃波が飛んでいった。


「ば、馬鹿な。そんな馬鹿なああああああああああああああああああああああ!!」


 グリードは衝撃波によって吹き飛ばされ、彼方へと飛んでいく。

 力を溜めた時間が長かったせいもあってか、アオイの斬撃の威力は修行時の倍以上となっていた。

 加えて、バーサーク状態は防御力が極端に低くなる欠点も持っている。その二点の原因から、その巨体は市場の方角へと吹き飛ばされていった。


「あ、アニキいいいいいいいいいいいい!!」

「畜生! 覚えてやがれぇ!!」


 グリードの部下たちは吹っ飛んだグリードを追いかけ、その場を後にする。

 残されたのは、壊れた民家と、呆然とした人々だけだった。


「…………」

「…………」


 しばしの沈黙の後、ニャッフルが、その沈黙を破る。


「すごいにゃすごいにゃ!! 二人ともすごいにゃ!! ニャッフル、絶対二人についていくにゃ!!」


 ニャッフルは二人の間に駆け寄ると、二人の首を両手で掴んで飛びつく。

 結果的に二人はお互いに引き寄せられ、三人でくっつく形となった。

 突然の事態にアオイは驚いた声を上げ、祐樹へと言葉を紡いだ。


「きゃっ!? 師匠、この子誰ですか!?」

「あー……まあ、説明すると長くなるんだけども……」


 祐樹はポリポリと頬をかき、苦笑いをしながら、大粒の汗を額に流す。

 ニャッフルは呑気に笑いながら、二人の間にぶら下がっていた。


「まあ、その……アオイ。とりあえずさ」

「は、はい! 何でしょうか師匠!」


 祐樹はどこかバツが悪そうな顔をしながら、小さな声で言葉を紡ぐ。

 アオイは反対に元気よく、言葉を返した。


「壊れた民家の修繕……王様にお願いできねーかな」

「……はい?」


 苦笑いを浮かべながら言葉を紡ぐ祐樹と、頭に疑問符を浮かべるアオイ。

 そして、そんな二人の間でニコニコと笑っているニャッフル。

 重なり合うように出会った三つの運命は、また新たな物語を紡ぎ出すのだった。


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