第百五話:魔王との激戦。そして……
「さぁて、じゃあこっちはこっちでやりますか! まずフレイ! レオナのガードをしてくれ! レオナはその間に大魔法を詠唱! 右側の腕二本を消し炭にしてやれ!」
「オーケー! 灰も残さないわよ!」
レオナは杖を構え、そんなレオナの前に、槍を構えたフレイが呼吸を整える。
やがて魔王の腕はレオナを標的に襲ってきたが、フレイは巧みにそれらの攻撃を弾き、レオナを守った。
「ニャッフル! 俺達はレオナの大魔法と合わせて、魔王の腕を一撃で仕留めなきゃならねえ! 今の内に攻撃を当てて、ダメージを蓄積させておけ!」
「りょーかいにゃ!」
ニャッフルは魔王の腕の攻撃を巧みに避けながら、器用に攻撃を当てていく。
祐樹はダメージを受けた仲間がいないかを逐一確認しながら、デコピンを放ち、適度に魔王の腕にダメージを与えた。
「準備オーケーよ、みんな! 大丈夫!?」
「はあっはあっ……だ、大丈夫にゃ! いけるにゃ!」
「こっちもオーケーだ! いけ、レオナ!」
祐樹とニャッフルの言葉を受け、レオナは一層、集中力を高める。
フレイは二本の魔王の腕を大きく槍で弾くと、やがてレオナの後ろに下がった。
「全てを塵に帰す紅蓮の炎。眼前の敵を焼き尽くせ。”アース・フレイム”!」
レオナの声に呼応し、杖の先端のリングが回転し、巨大な炎の塊が、魔王の腕に向かって落ちていく。
そしてそれと同時に、ニャッフルの声が響いた。
「にゃあああああ! 豪・裂衝連撃!」
ニャッフルは魔王の腕に対し、蹴り上げからの六連撃を叩き込む。
そしてそれと同時に、祐樹は渾身の力を込めたデコピンを、魔王の腕に叩き込んだ。
『『『『グギャアアアアアアアアアアアアアアア!?』』』』
魔王の四本の腕は同時に破壊され、その瞬間、痛みに悶える魔王の顔がアオイの目の前へと飛び出してくる。
ずっと目を瞑って力を溜め込んでいたアオイはその瞬間、その両目を見開いた。
「「「「いっけええええええええええええええええ!(にゃ)」」」」
ユウキ、ニャッフル、レオナ、フレイの四人は、アオイに向かって渾身の気持ちを乗せて叫ぶ。
その言葉がアオイの背中を強く押し……やがてアオイは、その剣を思い切り振り下ろした。
「はあああああああああああ! 豪波・裂衝斬!」
『ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?』
振り下ろされたアオイの一撃は凄まじく、その衝撃は部屋全体を大きく揺らす。
当然その剣の直撃を受けた魔王は断末魔を更に大きくし、やがてピクピクと、痙攣を始めた。
『ナゼ、ダ。ワレハ、マオウダ。マケルハズガ、ナイ……』
魔王は虫の息になりながら、アオイへと言葉を紡ぐ。
アオイはそんな魔王を見下ろしながら、両手で剣を振り上げ……その言葉に、応えた。
「簡単……です。あなたが魔王だから。たった一人だったから、負けた。それだけ、です」
『!? ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?』
アオイはとどめの突きを魔王の頭に突き刺し、魔王は再び黒の炎に包まれると、部屋全体が炎に包まれる。
やがて部屋全体が燃え盛ると、残されたのはただ灰色の石に包まれただけの、簡素な部屋だけだった。
「や、やっ……た?」
アオイはぺたん、と尻餅を着き、小さく呟く。
しばらくの沈黙の後……その沈黙を、ニャッフルが破った。
「やったにゃ! やったにゃ! ついに魔王を倒したにゃああああ!」
「きゃっ!? ふふっ、ニャッフルちゃん……」
ニャッフルは涙を流しながら、アオイへと飛びつく。
そしてそんなアオイの元に、レオナとフレイも駆け寄った。
「やったわね、アオイ!」
「やるじゃねーか! さっすが勇者様だなぁ、おい!」
「あはっ、フレイさん、ちょっと痛いです」
レオナもニャッフルと同じように涙ぐみ、アオイへと抱きつく。
フレイも同じように涙ぐみ、アオイの頭を乱暴に撫でた。
「アオイ……やったな」
「師匠! はい……私、やりました! 皆さんのおかげです!」
祐樹はゆっくりとした足取りで、アオイへと近づく。
アオイはそんな祐樹へと、満面の笑顔で返事を返した。
しかし……その刹那。
パチ、パチと、小さな拍手が、部屋の中へと響いてきた。
「!?」
「??? 師匠……?」
その拍手の音を聞いた祐樹は、一瞬にしてその表情を強張らせ、上を見上げる。
アオイは不思議そうに首を傾げ、そんな祐樹を見つめた。
「くっ……全員、くっついてんな!? クリティカルジャンプ!」
「「「「えっ!?」」」」
祐樹は一瞬にしてアオイたちとの距離を詰めると、空間魔法で後方へと瞬間移動する。
そして先ほどまでアオイたちがいた場所には、レオナの放つアース・フレイムの数倍の大きさの火球が落下してきていた。
「!? し、師匠、これは一体……!?」
アオイは状況が理解できず、ただ混乱した様子で祐樹へと言葉を紡ぐ。
祐樹は額に冷たい汗を流しながら笑い、ただ上空を見つめて、言葉を紡いだ。
「シナリオの狂いに気付いた時から、こうなる予感がしてたぜ。グラディスの裏ボス…………ルシファー!」
「!?」
アオイはただ事ではない祐樹の表情から、慌てて祐樹の視線を追いかけ、その方角へと顔を向ける。
そこには黒の羽を携え、白い衣に身を包んだ男が、ゆっくりと浮遊しながら、地面へと降り立っていた。
『あの一撃を避けるとはね……ふふ。褒めてあげよう』
黒翼の天使は貼り付けられたような笑顔を浮かべ、愉快そうに、楽しそうに、笑う。
祐樹は震え始めた両足を押さえ……奥歯を強く、噛み締めた。




