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第百四話:一太刀への道

「いや……確かに倒したが、まだだ。魔王には……第二形態が存在する」

「えっ!? で、ですが、魔王はもう……」


 目の前にいた魔王は、黒の炎に燃やし尽くされ、もはや灰すらも残っていない。

 そんな様子を見たアオイは祐樹の言葉を信じられず、祐樹へと振り返りながら言葉を返した。


「油断すんな、アオイ! 来るぞ!」

「!?」


 祐樹の声に反応し、咄嗟に剣を構えるアオイ。

 しかしやはり目の前に、敵らしき存在は確認できなかった。


「し、師匠! 魔王はどこですか!? 一体、どこに―――」

『オロカナル、ユウシャドモヨ……ココデ、メッスルガヨイ』

「!?」


 突如部屋の中に響く、魔王の声。

 アオイを初めとした一同はキョロキョロと辺りを見回すが、魔王の姿はどこにもない。

 アオイは警戒を解かぬよう心を強く保ちながら、再度祐樹へと声をかけた。


「師匠! 魔王は一体どこです!? どこから来るのですか!?」

「魔王は……魔王はもう、目の前にいるさ。いや……」


 祐樹は道端に落ちていた小石を拾うと、部屋の壁へと突然投擲する。

 小石は壁にめり込み、その刹那―――


『グッオ……!?』


 魔王の苦しそうな声が、部屋に響いた。

 そしてその瞬間、アオイを初めとしたパーティの全員が、自分達の置かれている立場を知った。


「師匠、まさか……!?」

「ああ。この部屋。それ自体が……魔王、そのものなんだ」


 祐樹のこの言葉を皮切りに、部屋が強く振動し、まるでメッキが剥がれるように、黒い壁が崩れていく。

 そうして次第に現れてきた部屋は、あまりにも禍々しく、またグロテスクなものだった。

 肌色の凹凸と血管のような黒い管が無数に張り巡らされ、ドクン、ドクンと脈打つ音が部屋全体に響く。

 ニャッフルはぶよぶよとした地面の感触に、思わず飛び上がった。


「ひっ!? き、気持ち悪いにゃ!」

「ああ……俺も、悪趣味だと思ったよ。だが俺たちが叩くべき対象は決まってるから、心配すんな」


 祐樹はそんな状況にあっても、なお冷静に、言葉を紡ぐ。

 そんな祐樹の言葉を受けたアオイは、目の前に顔のような文様がある壁があることに気がついた。


「!? 師匠、これは……!」

「ああ。そいつが、魔王の弱点だ。しかしまあ、事はそう単純じゃねえんだな、これが……」


 祐樹はいつのまにかファイティングポーズを取り、アオイとはまた別の壁に対して拳を構える。

 そして次の瞬間、レオナが叫んだ。


「アオイ! 左右の壁! 良く見て!」

「!?」


 レオナの声に反応したアオイは、左右の壁を一瞬にして確認する。

 するとそこには、禍々しい形をした腕が数本、壁から生えていた。


「厄介なことにこの腕を全部破壊しねえと、魔王の頭は出てこない。つまり“同時に”複数あるこの腕を全部破壊しないと、アオイは魔王に一太刀も入れられないってわけだ」

「そ、そんな……」


 アオイが確認した限りでは、腕は左右から合計4本生えてきている。

 これらがただ、攻撃されるだけとは到底思えない。ということはつまり、これまでのようなフォーメーションは使えないということだ。


「ちょっと待って。ユウキ、あんたなんでそんなに魔王に詳しいの? まるで知っていたみたいに話すけど……」

「えっ!?」


 祐樹は突然のレオナのツッコミに、大量の汗を額に流す。

 その後ヤケクソ気味に、言葉を返した。


「い、今は生か死かの戦いの最中だぞレオナ! んな細かい事は後にしろ!」

「はぁ!? いや、細かいって……」

「そうですレオナさん! 師匠を信じましょう!」

「そうにゃ! ユウキはアホだけど、間違った事は今まで言ったことないにゃ!」

「オイ」


 ニャッフルの一言に、思わずツッコミを入れる祐樹。

 その気の抜けた様子に、レオナはため息を吐きながら言葉を続けた。


「はぁ……もう、わかったわよ。別にあたしも、あんたを信じてないわけじゃないしね」

「レオナ……」

 祐樹は少し恥ずかしそうに話すレオナに対し、思わず笑顔で名前を呼ぶ。

 しかし次の瞬間には、頭を切り替え、アオイへと言葉を紡いだ。


「とにかく安心しろ、アオイ。お前はただ、魔王を切る一太刀の力を限界まで溜めるんだ。後ろは俺が……いや、俺たちがなんとかする」

「そんな!? そんなこと……」

「それしかねえんだ! アオイ! 腹ぁくくれ!」

「!?」


 祐樹に一括され、両目を見開くアオイ。

 やがて奥歯を噛み締め、アオイは魔王の顔が描かれた壁に対峙すると、力を溜め始めた。


「わかり、ました……皆さんを、信じます!」

「任せとくにゃ! 魔王の腕ごとき、よゆーにゃ!」

「あんたはただ、目の前に集中しなさい!」

「おうよ! こっちの心配はいらねえぜ!」

「皆さん……!」


 アオイは何故か溢れそうになる涙を懸命に堪え、剣を肩に担ぐようにして構える。

 そしてこれまで出したことのないような咆哮をあげ、力を溜め始めた。



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