第百一話:魔王城へ
嵐のような大宴会の翌日。セレスティアル王城前の広場には、各部隊の精鋭たちが祐樹達を見送るべく集まっていた。
参謀は心配そうな表情でアオイへと歩みを進めると、言葉を紡いだ。
「アオイ様……本当にもう、魔王城に行かれるのですか? もう少し準備をしてからでも……」
「いえ、参謀さん。ご心配はありがたいのですが……モンスターの活発化は先の大戦で嫌というほど味わいました。もはや、一刻の猶予も許されません」
アオイは決意を込めた瞳で参謀を見返し、真剣な表情で言葉を返す。
参謀は「そうですか……確かに、おっしゃるとおりですね」と、力になれないのが悔しいのか、奥歯を噛みしめながら返事を返した。
「皆さん、見送りありがとうございます。では、行ってまいります!」
「みんなー! またにゃー!」
「ギャレット! ちゃんと皆をまとめるのよ!」
「あばよ、てめえら! 酒はほどほどにな!」
竜変化したレオナに乗り込むと、アオイを初めとしたパーティのメンバー達が口々に別れの言葉を送る。
各部隊の精鋭達は、それぞれの司令官に返事を返した。
「はっ! アオイ様、どうかご無事で!」
「ニャッフルー! みんなの足を引っ張るんじゃないにゃよー!」
「レオナ! 主席のこの僕に全て任せておきたまえ! あっはっは!」
「姐さああああん! どうぞおたっしゃで!」
勇者様ご一行はそれぞれ片手を振りながら、王城の上空へと上昇していく。
そんなパーティの中で一人、祐樹だけは、腕を組みながら険しい表情を崩せないでいた。
「あの、師匠……どうかなさいましたか?」
アオイは険しい表情を解かない祐樹に対し、心配そうな表情で言葉を紡ぐ。
祐樹はハッとして顔を上げると、ぶんぶんと顔を横に振って言葉を返した。
「あ、ああ、いやな。この現状を考えると……マジで負けられねえんだって、実感しちまってな」
「あ……」
上空から見たセレスティアルの街並みは相変わらず美しいが、その周辺にはモンスターの死体や折れた槍などが散乱し、先の大戦の凄惨さを物語っている。
その大戦の原因が魔王である以上、気持ちが引き締まるのも無理は無かった。
「大丈夫です、師匠。みんなで頑張ればきっと、勝てますよ!」
「そうにゃ! 魔王なんかニャッフルが、ワンパンでぶっとばしてやるにゃ!」
「ま、今更心配しても仕方ないじゃない。なるようにしかならないんじゃない?」
「魔王だろうがなんだろうが、ぶっとばしゃいいんだろ? 簡単じゃねーか! あっはっはっは!」
「お前ら……」
口々に祐樹を元気付けるパーティの面々を、見つめ返す祐樹。
気付けば祐樹も口角を上に上げ、悪戯に笑っていた。
「だな! 全員でぶっとばしてやろうぜ!」
「「「「おー!」」」」
右手を上げた祐樹に対し、同じく右手を上げて答える面々。
こうして勇者様ご一行は、いよいよ最終決戦の舞台、魔王城へと進路を取るのだった。
「ここが、魔王城……」
「改めて見るとまあ、禍々しいことこの上ねえな……」
呟かれたアオイの一言に反応し、魔王城への率直な感想を述べる祐樹。
魔王城は黒一色でところどころにドクロや苦しむ悪魔のオブジェで壁面や柱が飾り立てられ、確かに禍々しさという意味ではこれまで通ったどのダンジョンより上だろう。さすがは最終ダンジョンといったところか。
「とりあえず、入り口前に着陸するぜ。それでいいか?」
「ああ、フレイ。ありがとう。それで問題ないぜ」
着陸場所を尋ねてきたフレイに対し、慌てて返事を返す祐樹。
フレイはこくりと頷くと、そのまま魔王城入り口前の広場へと着陸した。
「これが、魔王城の門ね……」
「でっかいにゃ~……」
レオナとニャッフルはフレイから降りると、魔王城の扉を見つめて小さく言葉を紡ぐ。
驚きはあるもののそこに恐れは無く、祐樹は少しほっとした様子で声をかけた。
「まあ、城っていうくらいだからな。門構えくらいはしっかりしてるだろうさ。でも肝心なのは、最奥にいる魔王だ」
祐樹は腕を組みながら、魔王城の扉を見上げながら歯を見せて笑う。
アオイはそんな祐樹の言葉に同調し、頷きながら言葉を続けた。
「師匠のおっしゃる通りです。私達はなんとしても、魔王を倒さなければ……」
アオイはぐっと右手を握り締め、祐樹と同じく魔王城の扉を見上げる。
そんなアオイの肩に、竜変化を解除したフレイの腕が回された。
「ま、だーいじょうぶだろ。こんだけのメンツが揃ってんだ。よゆーよゆー! あっはっはっはっ!」
フレイはアオイの肩に腕を回しながら、いつものように豪快に笑ってみせる。
アオイはいつも通り豪快なフレイの様子に安心したのか、クスッと笑いながら「そうですね。その通りです」と返事を返した。
「じゃ、ま……行きますか。お前ら、準備はいいか?」
祐樹は魔王城の扉に両手を当て、パーティメンバーへと声をかける。
アオイ、ニャッフル、レオナ、フレイの四人はそれぞれ、自信に満ちた表情で、ゆっくりと頷いた。
「っしゃあ! いくぜおらああ!」
祐樹は両手に力を込め、巨大な扉を開く。
そして開かれた扉の奥から、茶色の塊が飛び出してきた。
「ユウキ様あああ! 待ち焦がれておりましたわー!」
「おわぁぁ!? ふ、ふふ……」
祐樹は突然飛びつかれた事に動揺し、うまく言葉が出てこない。
そんな祐樹の代わりに、アオイは驚きながらも言葉を紡いだ。
「フランさん!? どうしてこんなところに!?」




