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#8

        ☆


 というわけで、デート。

 美希の水着の買い出し、である。

「高校生の水着選びとか誰得だよ……」

「現役女子高生のアタシがこんな風に言うのは嫌だけど、一般的にはそれが他のどの世代よりも価値ある物なんじゃないかしら」

「小学生には敵わない」

「それはあんたみたいな一部の変態にとってだけ」

 僕と美希の家から自転車で三十分、今回は歩いたので、およそ一時間程度の所にあるショッピングモール。そこに出店している水着ショップの一つに、僕と美希は来ていた。春になってからある程度の時間も経ち、女子的にはもうそろそろ夏の準備を始めていく時期のようで、ショップの中は思いの外多くの人で賑わっていた。

 もちろん、その多くは女性である。というか、見える範囲ではほぼ全員女性である。

 要するに、ここ、ただの水着ショップではなく、『女性物の』水着ショップなのだ。

 考えてもみてほしい。そこに、男子高校生がいるという場違い感を。

「なあ。なんで僕もいなきゃダメなの? いくら僕が基本的には恥を知らない人間であると美希に誤解されているといっても、さすがにここにいるのが辛いことぐらいは分かるよね?」

「え、誤解?」

「この際その誤解に関しては解かなくていいから僕を解放してもらいたい」

「ダメよ。あんたがいなきゃ意味ないじゃない」

 大量の水着の山から自分に似合いそうな一着を懸命に探しながら、実にあっさりと僕の要求を棄却する鬼畜裁判官美希様であった。

「って、僕がいる意味?」

「あんたぐらいしか試着したときに感想を聞ける男子がいないのよ察しろバカ!」

「その前に見せる男子がいないだろ」

「あ、あんた、とか……?」

「誰がババアの水着なんて見たがるのか」

「へぇ……アタシの水着姿を見るってことは、一緒に未来がいる可能性も高いのになぁ……」

「いつ海行く? それともプールか? なんなら両方でも構わないよ?」

「人間、こんなに殺意が湧く事があるとは思わなかったわ……」

 なんだろう。とても寒気がするのだけれど。人間百面相を見てたからかな。

 そうこうしながら、美希は何着か気に入った水着を見つけたらしく、それらを持って試着室の方へ行ってしまった。おいおい。こんなところに男を一人で放置するんじゃない。

 他の客からの視線や手持無沙汰具合に耐えかねなくなった僕は、どうせなら、普段はまず入れないように場所にいるのだからと、店の中を見て回ることにした。そうして適当に、あくまでも適当に、言い訳ではなく適当に、何度も言うようだが決して意識的ではなく適当に、店内をぶらついていると、先程までの美希と同じようにおびただしい量の水着を前にして頭を悩ませている知り合いの顔を見つけた。

 うーんううんと唸り身体をくゆらせながら水着と真剣に睨めっこしていた可愛らしい後ろ姿に声を掛ける。

「未来ちゃん?」

「ふぇ? ……お、お兄さん!?」

 声を掛けられた幼女が、ゆっくりとこちらに振り返り、僕の姿を認めて驚愕の声を上げた。

 そんな姿も可愛らしい。

「未来ちゃん、こんなところで何してるの?」

「そ、それはこっちの台詞です。お兄さんこそ、こんなところで何してるんですか……? ここ、女児物の水着売り場ですけど……?」

「あぁ……」

 そうだった。僕は女性物の水着売り場に来ていて、そこで未来ちゃん(小学五年生)の姿を発見するということは、すなわち、僕が女児物の水着売り場にいるということなわけだ。

 それはどうなのだろう。周りから見たら、だいぶやばい?

「まあ、気にしない気にしない。ほら、美希の付き添いなんだ」

「あ、お姉ちゃんの……」

 美希の名前を出すと、どうやら未来ちゃんは納得してくれたようだった。実際には、美希(高校二年生)の付き添いでなぜ女児物の売り場にいたのか、という疑問は残るのだが、幸いにも未来ちゃんはその事実までは辿り着かなかったようで助かった限りである。

「それで? 未来ちゃんは何してるの? 未来ちゃんも水着選び?」

「はい、そうです」

「こんなところまで一人で? 凄いなぁ」

「あ、いえ、一人ではなくて――」

 そう未来ちゃんが言ったところで、その言葉を遮るようにすぐ側の試着室のカーテンが開いて、これまた可愛らしい甲高い声が響いた。

「どうよみく! これならおにいちゃんものーさつできるよね! って、おにいちゃん!? なんでここにいるの!?」

 祭ちゃんうぃず水着の登場である。

 祭ちゃんが着ていたのは、夏っぽさのある爽やかな黄緑色のビキニのような水着で、しかしそこは子どもらしく、胸と腰の部分をふわふわのフリルで覆われていた。

 元気いっぱいに見える明るい感じ、幼さの残る可愛らしさ、そして適度な露出。

 子ども水着の神髄を見せつけるようだった。

 普段の私服のときから思ってたけど、この子ファッションセンスあるなぁ。

 実に自分の見せ方をよく分かっている。

 そのあまりの可愛らしさに、つい、僕は見惚れてしまっていた。

「お、おにいちゃん? なんで、ここに……?」

「え、あ、あぁ、うん。美希の付き添いでね」

「みき……? あ、みくのお姉さん!」

「そうそう」

「も、もしかして、デート!?」

 小学五年生がよくそんな言葉をすぐに思い出すものである。それとも、小学五年生ならそれぐらいは普通なのだろうか。僕が小学生の頃はひたすら未来ちゃんと遊んでいたからよく分からないや。それ今もか。

「いや、そんなんじゃない、と思うよ?」

「思う……?」

「少なくとも、僕にそんなつもりは無いかな」

 美希の方は……自分でデートとか言ってたし、なんとも言えない。

 そんな僕の返答を聞いて、どことなく不機嫌な雰囲気を醸し出していた祭ちゃんに、彼女の必殺武器である笑顔が戻る。やばい。超可愛い。僕のパソコンのデスクトップ画面に使われているとは絶対にバレるわけにはいかないだろう。

「良かったぁ……てっきり、おにいちゃんとみくのお姉さんがこいびとなのかと思っちゃった」

「ん? なんで、僕と美希が恋人じゃないと祭ちゃんは良いの?」

「ふにゃ!? え、えっと、それは、そのぅ……そ、そんなことより! みくも水着のしちゃくしてみようよ!」

 話を逸らされた感がとんでもないが、まあ、祭ちゃんがそうしたいのならそれでいいだろう。

 そんな話題替えのために突如話を振られた未来ちゃんが、若干困惑しながらも祭ちゃんの言葉に頷いた。

「じゃあ、おにいちゃん、ちょっと待っててね!」

 と言い残し、祭ちゃんが未来ちゃんを連れて試着室の中に消えていく。ということは多分、未来ちゃんの水着を祭ちゃんが選んであげたのだろう。

 数分程待っていると、「おまたせしましたよー!」というよく分からない声と共に、試着室のカーテンが開いて未来ちゃんの姿が見えるようになる。

「――」

 声に詰まった。

 未来ちゃんが着ていた水着は、白色でワンピースタイプの物だ。腰回りに控えめなフリルが付いているもので、至極一般的な物と言えよう。

 しかし、だ。如何に一般的な水着であっても、着ているモデル次第でいくらでも化けるというものだ。

 まず、小学生らしい、幼い可愛らしさをきちんと残したワンピースタイプ。個人的には、このタイプの水着が最もよく似合うのは小学生までだと思うのだが、その理由は、まだまだ控えめな胸をすっぽり覆い、また股の部分も同様にフリルで隠していること。そうすることで、露出度を極力控えめに抑えているところにある。

 いいだろうか。幼女に肌の露出は求められていない。もちろん、需要が無いわけではないし、むしろその需要も大きいのではあろう。事実、先程の祭ちゃんは露出が少し多めの物であったし、実際、それはとても可愛らしく、こう言うと少々犯罪的になってしまうのかもしれないのだけれど、興奮した。魚雷がうずうずした。なんのことでしょう?

 兎にも角にも、幼女の肌には需要があるのだ。

 だが。そう、逆説だ。ここで僕は逆説の接続詞を使う。

 幼女の肌には需要がある。

 だがしかし、幼女の魅力を引き出す、という面において言えば、肌の露出は関係ないのだ。

 むしろ、肌の露出をなるべく控えている方が、より子どもらしいのである。

 そうして、ぐっと露出を控えめにしておきながら、しかしそこは惜しげもなく見せてくれる脚。フリルからすらっと伸びる、瑞々しい太もも。

 これが良い。凄く良い。可愛い。かつ、可愛さだけでなく、水着というアイテムによって引き出されるべきエロチックな魅力も兼ね備えている。

 以上のようであるからして、小学生にはワンピースタイプの水着が良く似合うのだ。

 その上、モデルはあの未来ちゃんである。

 まずそもそもの素材が超可愛い。めちゃくちゃ可愛い。宇宙一タイ可愛い。タイとしたのは、祭ちゃんも宇宙一可愛いからだ。まあそれはいい。

 さらに、未来ちゃんは、小学五年生らしく、まだあまり胸の方は成長していない。ぺったんこだ。

 だからこそ。だからこそ、ワンピースの水着が尚更よく似合う。

 そして、未来ちゃんはとにかく脚が綺麗だ。身長のわりには全体的にスレンダーな印象を受けることの多いこの子は、つまり、脚によってその恩恵を受けていると言ってもいい。

 故に、ワンピースの水着がなんにせよ超似合う。

 最後に色。

 清純そうな真っ白の水着は、長い黒髪とうまい具合に対比され、より良く映えている。未来ちゃんのイメージにもぴったりな色だ。

 結論。断言しよう。この水着が未来ちゃんよりも似合う子は存在しない。

 その未来ちゃんが、恥ずかしそうに、顔を真っ赤にして身体を縮こまらせながら、それでもなんとか頑張って、僕に水着姿を見せようとしてくれているのである。

 この可愛さはもはや言葉にできないだろう。筆舌に尽くし難い。数学的単位において最大である無量大数の言葉を用いても説明できない。そんなところ。

「うぅ……あんまりジロジロ見ないでくださいぃ……」

「祭ちゃん」

 ハッと我に返った僕は、隣で自慢げな表情を浮かべている祭ちゃんに声を掛けた。そうして親指を突き出して、言う。

「グッジョブ」

「えへへー。これぐらい祭には簡単だもんー」

 さあ、どうだろう。宇宙一可愛い未来ちゃんと祭ちゃんの二人が、それぞれ自身の魅力を最大限引き出す水着に身を包んで、あまつさえ楽しそうな笑顔(片方は恥ずかしさもあるのかどちらかと言えばはにかむ感じだが)を浮かべながら、じゃれあっているのである。

 どうしよう。僕、今、凄い幸せ。この光景が見れたならもう悔いは無いよ。今すぐ死んでもいい。

 こんな場面が見られるだなんて、連れ出してきてくれた美希に感謝せねばなるまい。

「へぇ……感謝、ねぇ。それはそれは、どういたしまして」

「おう! 本当にありがとう美希!」

「ところで、こんなところで何をしているのかしら……?」

「え? 未来ちゃんと祭ちゃんの買い物に付き添ってるんだけど」

「あら……? だったら、アタシはなんでこんなところにいるのかしらねぇ……?」

「いやぁ、僕に聞かれても」

「じゃあ、なんでアタシに感謝したのかしら?」

「……あっ。美希の付き添いでここにいるんだったわ」

「どうしてそこを忘れていられんのよこのど変態ロリコン野郎!!」

 突如ヒステリックに叫び出した美希が僕の鳩尾に見事な正拳突きをかます。若干、胃の中身が逆流してきたような気がした。

「ぐふぉ……あの、な、美希……いくら僕が頑丈な超能力者でも、油断してるときは攻撃食らうんだからな……?」

「自業自得よバカ」

 あくまでも、僕の力は『超能力』であり体質ではない。要するに、常に戦闘能力が高いわけではないのだ。ありきたりではあるかもしれないけれど、当然『超能力』の使用には多少なりとも負担があるわけで、そんな事情から普段の僕は普通の人間となんら変わりないのである。

 たとえ女子高校生の攻撃でも死ぬときは死ぬ。

「ねえ。そ、そんなことより! な、なにかないのかしら……」

「なにかって?」

「だから、ほら……こう、見て、どうかなぁ、って」

 やたらもじもじとして顔を赤らめながら水着を着ている美希が言うので、僕も真剣になって彼女の言わんとすることを読み取ろうとする。

 うーん……なんだろうか。なにか言う事とか?

 ……あ。

「置いてきてごめんね」

「それもそうだけども!」

 え、違うの? 試着し出したタイミングを狙って逃げ出したことに対して怒ってて、それを謝ってほしかったわけじゃないの?

「あんた、やっぱり逃げ出したわけ?」

「なんでもないです」

 それじゃあなんだろう。なにか? 見て、って言ってたよね?

 何かを見て、なにかはないか、と。

「まさか、水着を着ていることは関係ないだろうし……それならそれで水着の感想を直接聞いてくるだろうし、それが僕のよく知る幼馴染みの七瀬美希であって、そんなわざわざ遠回りするような聞き方をしてくることはないから、きっとそのことではないんだろうな……となると、なんだ……?」

「水着の感想を聞かせなさいこれでいいかバカァァァ!」

「うぉっ!? い、いきなり大きな声出すなよ……」

 水着の感想、ねぇ。

 そう言われたので改めて全身を見てみる。

 美希は、これもまた夏らしい、水色の爽やかなビキニで身を包んでいた。

「……」

「……って、えっ!? アタシの水着の描写はそれでお終いなの!?」

「はぁ? 描写も何も、事実はそれで十分だろ?」

「そうだけども! さっき未来に対しては見開き一ページぐらい使ってたじゃない!」

「ページ? 美希、何言ってんの?」

 描写とかページとか、なんのことだろうね!

 まあ、そんなことは置いておいて、とりあえず感想である。聞かれたからには答えてやらなくてはなるまい。

「ねえおにいちゃん」

「ん? どうしたの祭ちゃん?」

「祭のおっぱいね、今はまだまだ小さいけどね、みくのお姉さんぐらいまで大きくなったら、みくのお姉さんよりも大きくなれると思うの!」

「そうだね。祭ちゃんならきっとあのぺったんこよりは大きくなるよ。でもね、できればそのままでいてほしいかな」

「うん! わかった! 祭、がんばってみくのお姉さんより大きくならないようにする! ……でも、ちょっとむずかしいかも……」

「あんたら殺されたいわけ!?」

 件のぺったんこ七瀬美希が、耐えきれなくなったようで会話に参加しました。

「おいおい美希。年下の女の子に対してなんてこと言うんだ」

「じゃあ分かった。その代わりにあんたを二回殺すわ」

 うん、まあ、今のはいくら僕でもやばいなぁとは思った。

 幼いというのは恐ろしい。

「それで、どうなのよ」

「どうって?」

「だから感想だって言ってんでしょうが!! なに? あんた脳みそ無いわけ!?」

 美希が、さっきとは別の意味で顔を真っ赤にしながら叫んだ。心なしか、右手にナイフのようなものが握られている気もする。そろそろ真面目に答えないと、ここらで「怪奇! 鋭利な刃物で刺されても無傷の少年!」とかいう怪談が流行ることとなってしまいそうだ。

 いや、だって、仕方ないじゃないか。感想を言おうとしたところで祭ちゃんがあんなこと言い出すんだもの。仕方ない仕方ない。

「えっと、それで、感想ね……うん、まあ、似合ってると思うよ」

「ふぇっ!? え、えと、ほ、本当……?」

「……まあ、僕なんかの意見じゃ信憑性無いのは分かるけど」

「いやいやいや! そ、そんなんじゃないから!」

 両手を前に突き出して目一杯バタバタさせながら美希が弁明をする。よく聞くと、「だ、だって、まさか素直に褒められるなんて思ってなかったし……」とか呟いていた。失礼な。僕だってちゃんと褒めるときは褒めるぞ。特に未来ちゃんや祭ちゃんに対しては。

 今さら、面倒だったから適当に褒めたとは言えそうにないのでそれについては墓まで持っていこうと思う。

「じゃ、じゃあ、アタシはこれ買ってくるから。……未来、あんたこのあとは?」

「ふぇ? 何も無いよ……?」

 姉に声を掛けられた妹が、首を傾げながら返事をする。可愛い。じゃなくて、こういった姉妹の会話は、見ていて微笑ましいところがあった。

「そう。じゃあ、未来も早いところ水着決めて買ってきちゃいなさい。アタシ達と帰りましょ」

「……うん!」

 そう未来ちゃんと約束して、美希は試着していた水着をレジへと持って行った。


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