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#3

 さて、世界最強とも言われる『超能力者』の物語を語る前に、もうこれだけは絶対に外せない、紹介しておかなければならない人物というのが二人ほどいる。いや何も、その人物らが、僕が『超能力者』として目覚めるにあたってのキッカケになっただとか、その人物らが僕の宿敵であるだとか、その人物らが幼女誘拐を企む何よりも憎むべき悪であるだとかするわけではなく。

 そもそもババアなぞ僕の物語にはいらない――

 とまでは言わないにしても、必ず欠かせない人物として語ることはありえないだろう。

 男こそ言わずもがな。

 それが例え絶体絶命のピンチを共にくぐり抜けた仲間であったとしても、僕の物語にとってはオプションだ。選択の範囲で、追加項目でしかない。

 と言うと、僕がかなり薄情な人間に思われてしまうかもしれないので一応釈明しておくと、僕は別段、友情を軽んじる人間でもなければ見知らぬ人間をそのカテゴリだけで忌み嫌い偏見の目で見るような人間でもない。むしろ、友情に厚く、正義感の強い人間と言えよう。

 ……こういうのって、自分で言うと説得力皆無なんだよね。

 まあ、兎にも角にもライオンにも行き止まりにも、僕が目の前で死にかけている友人を見捨てるどころかむしろ息の根っこを引っこ抜いたりそこらのババア全て死ねばいいのにと思っていたりする人間ではないということだけは、分かってもらえれば幸いだ。

 僕は決してそんな風には思っていない。

 ただ、優先順位が違うだけだ。

 そう、友情よりも、ババアよりも、世界よりも。

 単純に、幼女の方が重要だというだけである。

 待て。待とう。そうだ、待とう。

 君達はおそらく重大な勘違いをしている。そう、勘違いだ。勘の違いだ。

 まったく、勘で人を判断するというのはまるでよろしくない。そんなの、見た目だけで料理を不味いと決めつけているようなものではないか。道端に茶色い液体が落ちていたからといって(落ちているという表現が正しいのかどうかはよく分からない)、それが排泄物とは限らないだろう。もしかしたら、本場インドの想像を絶するほど美味しいカレーのルーなのかもしれないじゃないか。もしそうだとしたら、君は随分と損をした気にならないかい?

 ああ、あの時にうんこだなんて決めつけてないで試しに舐めてみれば良かった――

 あ、ならない?

 うん。それもそうだ。現地の味は日本人の舌には合わないって言うし。そういうことじゃねえ。

 勘違いがもたらすかもしれない後悔について上手い例えも交えながら語ってみたところで、いや、どう考えても的外れな例えだったことは否めないのだけれど、それは棚の上にぽんと放り投げておくとして。

 君達は何かを勘違いしているだろう。

 断じて言う。

 僕はロリコンなどではない。

「どの口が言うかどの口が」

 そう話に割り込んできたのが、僕とはくだらない腐れ縁でどういうわけか親友をやることになっている、薄汚いメガネを掛けた猿人類だった。

「おいこら。お前、仮にも親友に対して、冗談とはいえどんな表現方法使ってんだ」

「冗談?」

「事実を述べたつもりだったのかよ!」

 というやり取りからこの男のキャラクターは察せられると思うのでこれ以上は触れないでおく。正直なところ、さっきの馬鹿な大学生よりもよっぽど噛ませ犬らしい。名前も(かま)()大一(たいち)だし。一を縮めて上に持ってくれば噛ませ犬じゃん。

「お前そうやって親友を噛ませ犬呼ばわりするのやめろ」

「そもそもなんで僕とお前が親友なんだよ」

「そっから疑問を呈すんじゃねえ!」

 いや、まあ、単純に馬が合ったからなんだろうけれども。

「なんで俺はこんなロリコンに馬鹿にされているんだろう……?」

「お前を馬鹿にする奴がいるだと? それは親友として放っておけないな!」

「てめえだよロリコン野郎!」

「?」

「いい加減すっとぼけるの厳しいだろお前……限界きてるぞ……」

「何を。僕のどこがロリコンだって言うのさ。ここまで健全で純然たる男子高校生というのも中々見かけられるもんじゃないぞ?」

「好みの女子の身体の部位は?」

「ぷっくりとしてすべすべしてそうな頬と包んであげたくなるような可愛らしい手足及びそれに適した全身のサイズ」

「好みの胸のサイズは?」

「無い程良い」

「良く行くお気に入りの場所は?」

「近所の小中学校が一望できる丘」

「守備範囲の年齢は?」

「十五までなら下限はない」

「ロリコンの鏡みたいな返答しておいてよくも否定できるよなお前……」

 いやいや。え、普通じゃないの?

「お前そろそろ都条例にでも引っ掛かるんじゃないの?」

「僕自身はただの男キャラだから大丈夫だろ」

 言論の自由! 思想の自由!

 あくまでも僕の女性に対する趣味が一般的であるだけでなんら都条例に引っ掛かる要素などないだろう。

「一般的でないから言ってるんだけど」

「一般的かどうかって、結局は主観でしかないだろ?」

「は?」

 何を言い出すのかこいつは。そんな親友の目を無視して僕は続ける。

「いや、だからさ、世の中には客観的とかいう言葉があるだろ? でもさ、結局一人一人の人間が見て聞いて感じている世界ってのはさ、その個人の認識でしかない。たとえば、そこに『林檎』が一つあるとして、それが何か問われた時、僕も小学生の女の子も『林檎』って答えたとするだろう?」

「そこで例えに出てくるのが俺じゃなくて小学生の女の子なのか……」

 親友が何か言ったような気がするけど。聞こえない。無視。無死。虫。

「でもさ、もしかしたら、僕と幼女が見ている光景は違うかもしれないじゃん」

「幼女って言いやがった……」

「確かにそこに『林檎』があって、僕も幼女もそれを『林檎』として認識して、それは『林檎』だと答えたけれども。でも、見ている光景は違うかもしれない。僕とその幼女の間に、もっと根本的な認識のズレが無いと、どうして言い切れる?」

「はぁ? 林檎は林檎だろ?」

「そう。林檎は『林檎』だ」

 そうであることに違いはない。そこに『林檎』があるという事実に間違いはない。

 でも。

「じゃあ、第三者の、たとえば中学生の少女が、」

「そこも俺じゃなくて少女なのかよ」

「少女がそれを見て、『ミカン』だって言ったらどうだ?」

「え、はあ?」

「しかも、それは間違っていないとしたら? その少女は、確かに『林檎』を見ていて、でも、それを『ミカン』だと言って、認識して、でもそれは間違っていないとしたら?」

 単純に問題文とするならば。

『林檎』を見て、一人の少年と幼女はそれを『林檎』と、一人の少女はそれを『ミカン』だと言いました。しかし、三人とも嘘をついてはいません。一体全体、これはどういうことでしょう?

「どういう、ことだよ」

「簡単だよ。だから、認識が根本的に違うんだ」

 認識。

 僕には確かにそれが赤い物に見えるし、丸く見えるし、食べ物に見えるし、それを『林檎』だと知っているけれど。

 少女にはそれが、オレンジ色の物に見えていて、緑のヘタがあるように見えていて、分厚い皮に覆われているように見えていて、それを『ミカン』だと知っているのかもしれない。

 あるいは、幼女にも、それはオレンジ色で丸くて食べ物で緑色のヘタが付いているように見えていて、だけどそれを、『林檎』だと知っているのかもしれない。

 僕にはそれが、赤くて丸い『林檎』に見えているけれど、周りの人間にも同じように見えているとは限らない。

「結局、それが僕の知っている『林檎』であると認識しているのは僕しかいなくて、人間というのは、自分の認識でしか世界が成り立っていないんだよ」

「はぁ。いや、なんとなく言いたいことは分かるけどさ」

「客観的なんて言葉もさ、結局のところ、大多数の主観でしかないわけ。自分は客観的に物事を考えているだなんて思っていても、しかしそれはそいつが客観的に考えていると主観的に思っているわけでしかないのさ」

「いや、だから、それがなんなんだよ」

「つまり幼女が好きであっても問題ない」

「真面目そうな話かと思ってたのに発想が飛躍しすぎだよ!」

 え、そうか?

 幼女好きが一般的でないというのはあくまでも客観的に見たと思い込んでいる主観であって、そもそも一般的という言葉自体がそういうことであって、すなわちそれはただの主観にしか過ぎないのだから、初潮も迎えていない幼女を性的な目で見ていることは別段社会的に問われることではないと「お前そろそろ警察に突き出すぞ」うるせえなモブ親友キャラ。

「モブ!? 俺ってお前の中でそういう扱いだったの!?」

「いやだって、一般的世界にいる『超能力者』の親友って大概そうじゃん?」

「今一般的って言いやがったぞこいつ」

「え? やっぱり一般常識って大事だろ?」

「親友だけどこいつほどぶっ殺したいと思った奴はいない……」

 と、『超能力者』という単語が出てきたところで僕は思い出す。

 このくだらない親友によって邪魔されてしまった語りを再開することを。

 僕という『超能力者』を語る上で、絶対に欠かすことのできない、二人の存在を。



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