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#1

「ごめん。僕、中学生以下の幼女にしか興味ないんだ」

 僕がそう答えると、目の前の少女の表情が見る見るうちに歪んでいった。表情が歪む、というのは、普通は泣くという表現の言い換えで使われるものなのだけれど、今回は特別この女の子が泣き始めたというわけではない。文字通り、歪んだだけだ。もっと的確に一言で今の彼女の表情を表すなら、『は?』である。我ながら実に分かりやすい例えだ。これなら、百人中九十七人ぐらいは正確にこの情景を思い浮かべられるだろう。

「え、えっと……え? それって、その」

「だから僕は君とは付き合えない。本当にごめん」

 簡潔に今の状況を話せば、今の会話からも分かってもらえるとは思うけれど、僕はこの女の子から告白されていたところだった。春もうらら。暖かく気持ちのいいこの気候の中、わざわざ春らしいピンク色の便箋で僕を校舎裏まで呼び出してくれた子がいたため、罠の可能性を疑いつつものこのことやってきた結果がこれである。

 自分で言うのもあれかもしれないが、僕はこれでも並程度にはモテる。学校で一学年を過ごせば一人か二人ぐらいは告白してきてくれるくらいにはモテる。それがモテると言って差し支えないのかどうかは知らないけれど、少なからず、僕の友人には彼女いない歴どころかとある一人の子を除いた女子がまともに目を合わせて話しをしてくれない歴イコール年齢の奴もいるぐらいだから、よっぽど贅沢を言わなければモテる方なのだろうとは思う。

 しかし、僕には彼女がいたことがない。

 理由は単純明快である。

 純粋に、僕は同い年の女子に対して恋愛感情を持つことがないからだった。

 ゆえに毎回、僕はこう言って告白を断り続けている。

 それにしても、全く、女子というものは面倒臭い。こう言うのもあまり良くないかもしれないけれど、自分の方から勝手に告白してきておいて、真実を言って断ったら機嫌を損ねるというのは大変理解し難いというか、理不尽ではないだろうか。そちらが一生懸命気持ちを伝えてくれたのだから、こちらも誠実に、失礼のないよう嘘偽りの無い言葉でお断りしているというのに、身勝手に不機嫌になられ、しまいには怒りだされたりするというのはどうも納得がいかないというものだ。

「あ、っと、えっと、なに、それ……? いや、もういいです……」

 そう言って、女の子はゆっくりと回れ右をして、僕の視界から消え去っていった。その背中からは、実に不満を隠し切れていない雰囲気が感じ取れる。やっぱりこの子もか。本当に女子とは面倒臭い。

「全く、またあんたはそうやって相手を傷つけるような断り方を……オブラートに包むってことを知らないの?」

「さっきの理由でオブラートに包んでも、僕は年下にしか興味がないから、で大して変わりないと思うけど?」

「それでもそっちの方がましでしょ」

「でも事実じゃないだろ。僕は年下でも中学生以下じゃないとダメなんだ。嘘をついて騙すように断るなんて、告白してくれた女の子に対して不誠実じゃないか」

「あんたのその誠実さが不誠実だって言ってんのよ」

「それにしたって嘘は良くないだろう」

「世の中には優しい嘘って言葉があるの」

「そんなのただの詭弁だよ」

 突然、草の影から姿を現して散々言ってくれているこいつは、幼馴染みの七瀬(ななせ)()()である。

 スレンダーな体型を爽やかと評判のうちの学校の制服に包んでおり、髪の毛は少しだけ自己主張の強い茶髪を後ろで縛っている。いわゆるポニーテールという髪型で、歩く度にぴょこぴょこと跳ねるので、前に陣取られるとうざったい。吊り気味の瞳と常に引き結ばれている口元が、強気な雰囲気を醸し出していた。見た目は可愛い、のかもしれないが、高校生などという十五歳を過ぎた年増の良さは僕には分からないのでなんとも言えない。

「ねえ。今ものすっごくアタシに対して失礼なこと考えてなかった? というか罵倒してなかった?」

「気のせいかな!」

 なるほど。これが優しい嘘というやつか。確かに優しい。これは大事なことだ。一つお勉強になりました。幼馴染みさんありがとうございます。年増だけど。

「絶対年増とか言って罵られてる……」

 なんで女子ってのはこうも勘が良いのだろうか。なにかそういう超能力でもあるのではないかと疑ってしまうのも無理ないような気がしてしまう。

「で? また美希は人のプライベートを覗き見してたわけ?」

「なっ!?  そ、そんなことするわけないでしょ! たまたま、偶然! 通りかかっただけなんだから!」

「いや、いくらなんでも年に一回しか発生しない僕の特別イベントに対してエンカウント率百パーセントはないだろ」

「去年は二回あったじゃない」

「それむしろ自分の首絞めてるからな?」

 エンカウントした回数増えてるぞ。

「……はぁ。まあ、僕は別に構わないけどさ、気づかれたら相手に失礼なんだからね?」

「だからたまたまだって言ってるでしょっ!」

「はいはい分かった分かった」

「それ絶対分かってない!!」

 と、こんな馬鹿馬鹿しい会話を普通にしているような僕だけれど。

 全くもって普通とは言えない、間違っても簡単には他人に話せないような。

 そんな、とある秘密が、僕にはあるのだ。

 ついでに言うが、僕は断じてロリコンではない。


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