冒険者、卵を語る
そうだ。俺は真夜中に鳴くニワトリ。
だけど、昼飯時でも鳴けるのさ。
そうだ。俺は真夜中に鳴くニワトリ。
見てな、朝飯前だよ鳴くなんざ。
クックドゥードゥルドゥー!
卵とニワトリ、どちらが先か?
どこまで続く? 因果の業!
卵! ヒヨコ! ニワトリ!
そうして産まれる、卵が一つ!
パカンと割れて、ヒヨコが出てきた! ピィヨ、ピヨ!
クックドゥードゥルドゥー!
卵とニワトリ、どちらが先か?
ドロドロ続く! 因果の業!
卵! ヒヨコ! ニワトリ!
そうして産まれる、卵が一つ!
パカンと割れて、かき混ぜオムレツ! トォロ、トロ!
クックドゥードゥルドゥー!
卵とニワトリ、どちらが先か?
果てなく続く? 因果の業!
卵! ヒヨコ! ニワトリ!
そうして産まれる、卵が一つ!
パカンと割れて、湯水に落とせば! プゥル、プル!
クックドゥードゥルドゥー!
卵とニワトリ、どちらが先か?
グルグル続く! 因果の業!
卵! ヒヨコ! ニワトリ!
そうして産まれる、卵が一つ!
パカンと割れて、黄色い目玉だ! ギィロ、ギロ!
親父さん! 真っ赤なケチャップ、かけてくれ!
『記録者による注釈』
とある街の酒場にて。冒険者の一人が歌った詩を書きとめたもの。
普通の飲食店だと思い、入った店が、なんと冒険者のたまり場であった。仕方がなく、武骨な連中を避け、できるだけ大人しそうな者の近くに陣取る。
ウワサ話に耳を傾けてわかったことだが、なんでも、街で有名な冒険者ギルドの一つで、大きなトラブルがあったようだ。ギルド長の娘が独断で団員の一部を指揮し、ゴブリンの洞窟にむかったところ、双方全滅。という事件があってか、酒場の空気はピリピリしていた。
突然、場に殺気が走る。おそるおそる見れば、一人の冒険者が複数名に囲まれ、何やら因縁をつけられていた。白髪と赤目が、印象的な冒険者だ。誰かが侮蔑的なニュアンスで「真夜中に鳴くニワトリ」と口にした。ウソつきとか、ホラ吹きといった意味合いだ。また、からまれている冒険者の二つ名でもあるらしい。
白髪赤目の冒険者はピョンとイスの上に飛び乗る。乱闘が始まるものかと思いきや、彼は声高らかに歌い出したのである! ゆたかな声量。それでいて、少しも耳障りではない。精緻な音程。広い音域。音に乗せられた感情。それは歌であり、芝居であり、芸術であり、エンターテイメントであった。歌が終わった時、彼をむかえたのは歓声とおひねり。
「真夜中に鳴くニワトリ」は何食わぬ顔で食事をはじめた。酒場の親父さんに焼いてもらったばかりの目玉焼き。
こちらの視線に気づき、彼が顔を上げた。弁解の言葉を探しているうちに、「真夜中に鳴くニワトリ」がしゃべる。
「おっかさんは、立派なニワトリになるよう、卵に英才教育をほどこした。だけど思いどおりにはいかないもんだ。ニワトリになるはずの卵は、哀れ、目玉焼きになっちまった」
彼は半熟の黄身を破った。ドロリとヒヨコ色があふれる。ケチャップの赤が、別のものに見えた。
「ま、俺がこれをペロリとたいらげりゃあ、『真夜中に鳴くニワトリ』の血肉になるわけだ」