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新装開店

れは、ある日のことであった。

「あれ……?」

いつもの、七日に一度のドヨウの日。

異世界食堂……ヨーショクのネコヤに繋がる扉の前に立ったアレッタは、扉の様子がちょっとだけ違うことに気づき、首をかしげた。

「えっと、これ……多分わたしたちの世界の文字、だよね?」

良く磨かれた黒い扉にかけられた、猫の絵の看板には文字が書かれていた。

それは文字を読めるような教育を受けていないアレッタには読めないが、あの『ヨーショクのネコヤ』と書かれているという店主の世界の文字では無い。

王都で暮らしていれば読めないだけで見覚えくらいはある、東大陸語であることは間違いなかった。

「いったい、どうしたんだろう?」

これまでとは違う看板に首をかしげながら、扉をくぐる。

チリンチリンと軽やかな音を立てて扉が開く。

「おう、おはようさん」

アレッタが訪れる時間は大体分かっていた店主が笑顔で出迎える。

「おはようございます……あの、扉の看板なんですけど……」

その店主に挨拶を返したあと、アレッタは店主に気になっていたことを尋ねる。

「ああ、ちょっと思うところがあってな」

アレッタは教育を受けていないだけで決して頭が悪い娘ではない。扉に掛けた、土曜日専用の特注品について、聞かれることは分かっていたのだろう。

店主は一つ頷いて答えを返した。

「ほれ、いつもいる常連のじいさんがいるだろ? あの人に簡単に文字教えてもらって、アレッタの世界の言葉で書いてみた。あれには『異世界料理のねこや』って書いてある」

それから店主は金色の鍵が入ったポケットに目をやる。

店主の婆さんから託されたその鍵はこの店を異世界につなぐベルと対になったマスターキーで、

店主がその気になれば異世界との繋がりを絶つことができる『異世界食堂を終わらせる』ことができる代物、らしい。

受け取った当初はこの店を継いだときにスペアとして貰った鍵でも普通に開け閉めできることもあって実感はなかったが、時間が経つに連れて、実感がわいた。


先代が始めて、六十年以上守り続けてきたねこやは、完全に自分に譲られて、自分の店になったのだ。

それから、姪っ子に言われた言葉を思い出す。


―――このお店ってさ、洋食屋って言うより、何でも屋だよね。


その言葉に店主は反論できなかった。

確かに今にして思えば『日本以外から来たもんは大体洋食ってこったろ?』というのが持論で、

生まれ育ちは日本ではなく大陸の方だったらしいじいさんは自分が美味いと思ったものは平気でメニューに載せる人だったし、

ばあさんはじいさんが言ってた話からすると元々は『向こうの世界の人』らしい。

そして、そんなじいさんとばあさんに育てられた自分もまた、美味い料理なら何でも好きで、作るのも好きな洋食屋というより何でも屋だった。

「向こうの人らにとって分けの分からん言葉で書かれた看板よりはまだ読める言葉で書いてあったほうが入りやすいだろ? ただでさえ向こうじゃ割りと怪しい扉に見えるわけだし」

かたくなに向こうは向こう、自分のところは自分と言う区切りを持ち続けた先代のやり方を否定するつもりは無いが、

こうして異世界からの従業員を雇い、曲がりなりにも交流しているのだ。

ならば少しくらいは、こっちから歩み寄ってもいいはずだ。

「まあ、そんなわけで、これからは土曜限定だが『異世界料理のねこや』になるから、よろしくな」

「はい! 分かりました」

店主の言葉にアレッタははっきりと返事をして、異世界料理のねこやが始まった。

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