Section 5 【 生徒総会は突然に 】
■2015年5月 5日 (火) 15:00 晴れ ■
□【放課後】 5階 生徒会室 □
5時間の授業が終わり、京也は生徒会室の中で日向ぼっこをして…
「桜~田!! 何をさぼっている、仕事は出来たのか!?」
日向ぼっこをして……
「何だ桜田?また、関節を2本ばかしやっとくのか…任しとけ!」
日向ぼっこをして………居られるはずもなく、すぐに現実へ引き戻される。
「今から取り掛かるところです…そして、監蘭さんノーサンキューで」
京也は生徒会の資料棚から必要な資料ファイルを数冊抜き出し、
自席へと座って生徒総会の準備をし始める。
「ところで桜田…生徒総会は何日だったかな?」
京也は頭の中を手繰り、1つの答えを導き出す。
「5月6日…ですよね」
「そうか、では今日は何日だろうか?」
京也は時計の日付表示に一度目を遣り、再び葉月を視界に捉える。
「5月5日……って、明日じゃないですか!?」
「何だ、気付いてなかったのか?」
「えぇ、もう少し先だと思ってました…」
京也に割り当てられた仕事は「行事紹介」で、生徒会が担当する、
この1年分の行事の内容を紹介する…というのが仕事である。
そして、京也の仕事の進捗具合は言うと……
「桜田からの総会資料の提出がないからおかしいとは思っていたが…」
葉月は指を1度「パチン!」と鳴らすと、監蘭が京也の背後に音もなく忍び寄る。
「あれ、監蘭さんあそこに居ませんでしたっけ…って、いつの間に!?」
気付いた時には既遅し、手を後ろに捻り上げられていた。
「さて、まずは反省しようか…」
監蘭の顔はニコリ、そして京也の顔は絶望に染まる。
ニコリとした顔のまま、京也は隣の部屋へと引きずられていく。
待つ事数分…。
副会長席に座る京也からは、ただひたすらパソコンを叩く音が響く。
「生まれて来てごめんなさい、生きていてごめんなさい…」
何か独り言をつぶやいているが、ここは無視といこう。
■ 15:30 生徒会室 ■
京也が自席に戻る頃には、役員が勢ぞろいしていた。
葉月は、テーブルを見回して話し始める。
「では早速ですが、明日の総会の準備を続けて下さい」
「「はい!」」
それぞれが作業に取り掛かり、生徒会室内が慌ただしく動き始める。
「茜音…この会計簿だと、監査OKは出せないね…やり直し!」
「はい、わかりました!」
会計簿に目を遣りながら、監蘭が笑いながら宜音に差し戻す。
律儀な返事を返しているのが宜音だ。
昨年まで監蘭が会計を担当していたので、不備のありそうな箇所は心得ている。
次々とミスを指摘され、手直しが進められていく。
その横では、岡井と氷野が揃って作業をしている。
「こんな感じでいいかな?」
「はい、完璧です!」
2人が作っているのは風紀強化週間のポスター。
生徒総会で全体へ通達し、翌日から強化週間に入る予定だ。
通常は行わない所持品検査に加え、登校時間も少し厳しくなる。
しかし、没収した所持品は反省文を提出すればその日の内に返却し、
登校時間も普通に登校すれば十分間に合う時間に設定している、
厳しすぎるばかりでは周囲の反感を買い、甘すぎれば風紀が乱れる。
「やっぱり…適度が1番ですね」
氷野が感慨深げに漏らすと、岡井がパソコンを叩きながら微笑んでいた。
その更に横では、自席に向かってただひたすら作業する人がいる。
葉月と京也の2人組である。
葉月は、今年度の生徒会目標とその達成計画の作成。
京也は、今年度の生徒会行事報告の作成。
2人に共通しているのは、共にカレンダーとにらめっこしていることだ。
京也の自席には山積みされた、昨年度までの行事資料。
葉月の自席には山積みされた、昨年度までの目標と年度報告書が置かれている。
カリカリとペンを走らせる音が響き、A4の紙が文字で埋まっていく。
それぞれが作業に向かい、時間だけが流れていく。
まだまだ、生徒総会の準備が終わらない…。
■2015年5月 5日 (火) 20:00 晴れ ■
□【帰宅後】 桜田家 □
「ただい…ま」
すっかり日も暮れて、身も心もくたくたになって帰宅した京也。
「あら~おかえり~」
独特の間延びした話し方をするのは、母の彩良である。
「あぁ…母さん…疲れた」
「それじゃあ~ ご飯~?お風呂~?それとも~」
お約束な言葉を連ねる母に一言言う。
「それは、父さんに言ったげなよ…」
「し~ご~と~?」
「あんたは鬼か!?」
「や~ねぇ、私は~鬼じゃ~なくて~母よ?」
「知ってるよ!? 何で、知らないみたいになってるの!?」
皆さんにも伝わったように、母はこんな感じの人です。
そして、父はこれについていける人です。
京也は母のボケを上手に受けつつ、リビングで夕食を済ませる。
そして、お風呂に入ってから自室で明日の準備をすることにした。
「それにしても…京也が生徒会役員か~」
「母さん、何が言いたいの…」
「いや~今年の紅桜は人材不足なのかな~って」
「どういうことだよ!?」
ご飯を食べながら気の休まるどころか、むしろメンタルを削られる始末。
「ごちそうさま!」
ご飯を食べ終わると、お風呂で少し疲れをとる事にした。
■ 21:15 京也自室 ■
「久しぶりに、ゆっくりとお湯に浸かったな…」
身も心もすっかりほぐれ、自分の机に生徒会の資料を広げる。
取り掛かろうとした時、部屋の扉が「コンコン」とノックされた。
父はまだ仕事なので、彩良だろうか。
「京也~コーヒー入れて来たわよ~」
「あぁ…母さんありがとう」
そして受け取ってコップを口に運ぶと、口の中で炭酸が弾けた。
「母さん!? これ、コーラじゃないの?」
口の中に広がるのは、某炭酸飲料メーカーの味である。
「あら~可笑しいわね…コーヒー入れたと思ったんだけど~」
コーヒーだと思ったら、コーラだった思いを感じてみて欲しい。
「まぁ、ありがとう。今から生徒会の仕事するから、また明日ね」
「あら~生徒会で~仕事を割り振られて~いるの?」
「うん、そうだけど?」
彩良は少し考える素振りを見せて、ゆっくりと口を開く。
「本当に~生徒会役員だったのね~」
「出て行け!!」
京也に促されるまま彩良は部屋を後にし、再び安寧が訪れた。
そして、京也は明日の原稿の最終確認をしていく。
生徒会室でまとめた行事予定を自分の頭に入れながら、口でも反復する。
こうして、京也の夜は少しずつ明けて行った。
■2015年5月 6日 (水) 12:50 晴れ ■
□【昼休み】 1階 体育館 □
京也を始めとする生徒会役員は、生徒総会のリハーサルに来ていた。
体育館に着くと、葉月の指示で体育館の窓とカーテンを開けていく。
窓を開けると、体育館に流れ込む風がとても心地よく感じられる。
「あっ、何かいい風が吹いてるな…」
全ての窓とカーテンを開け終ると、下に戻ってマイクの準備を始める。
照明設備と音響設備の調整は、岡井さんがテキパキとこなしてくれている。
マイクの準備を終えると、簡単に舞台上のチェックをする。
京也はあまり視力が良くないので、近づいて1か所ずつ見て回る。
「葉月会長、照明と音響の準備できました!」
岡井の声が体育館に響き、葉月が改めて声を掛ける。
「じゃあ、生徒総会のリハを始めます。司会は…茜音だったよね?」
「はい、頑張ります!」
元気な声が返ってくるが、京也は少し不安な気持ちがあった。
「(頼むから、本番でこけないでくれよ…)」
茜音が以前にこけた時の事を鮮明に思い出していた。
京也の気持ちを余所に、茜音が立ち位置へと移動する。
「じゃあ、茜音――よろしく」
「はい!」
では…と前置きをして、茜音が司会要項に従って話し始める。
「ではただいまより、第171回生徒総会を開会します。
開会に先立ちまして、校歌斉唱を行いますのでご起立下さい」
この様にして、リハーサルの時間は過ぎて行った。
■ 13:25 1階 体育館 ■
体育館はいつになくざわついた雰囲気に包まれていた。
生徒総会が開会して5分が経過しての出来事である。
いよいよ本題である生徒会報告が始まろうかという時に…
何の前触れもなく茜音が転んで脳震盪をおこし、そのまま退場。
そして、今のこの状況という訳である。
「やっぱり、ただでは済まないか…」
京也が呟くと、葉月の方からジェスチャーが送られている事に気付く。
手の動きを見ているとどうやら…。
「は・や・く・い・け」 (早く行け!)
京也が難色を表情で示そうとしたが、それは断念する事にした。
葉月の陰に監蘭が手をバキバキ鳴らす仕草を見せているから…ではない。
えぇ、決してそんなことはない…大事なことなので、2回言いました。
ゆっくり過ぎず早すぎず、そんな足取りで司会席のマイクを手に取る。
「では…場を引き継ぎまして、早速生徒会報告に移らせて頂きます」
京也が司会を交代してからは、大きな出来事もなくスムーズに進んでいった、
ように見えたのだが…。
いよいよ京也以外の役員が報告を終えて、京也自身の報告を始めようとした時だ。
舞台中央へとゆっくりと歩いて行って、1回お辞儀をして、話し始める。
何ら問題のない、ただの作業であるはずだったのだが…。
「!?」
京也は舞台中央に着く寸前で、視界が急に天井へと移った。
何が起こったのか一瞬理解できず、自分の今の状況を考える。
「(まず…舞台へと歩いていく。そして、着く寸前で視界が一回転…。何が起こった!?)」
そして、京也の視界にふと小さな突っ張りが入る。
あれは…電源用のコンセントだ。
そこで、京也は開始前のリハーサルの事を思い出した。
「(そうだ! 点検途中だったから気づかなかったのか…けど、何で俺だけ…)」
ゆっくりと立ち上がってお尻を軽く叩いて、改めてお辞儀をする。
「失礼しました、僕の方からは生徒会行事に関して報告します。では…」
それからどんな風に話したのか、京也はあまり覚えていなかったりするのだが、
何とか生徒総会を無事に終了する事が出来たようだ。
■ 15:30 5階 生徒会室 ■
「みんなご苦労だった!」
口々に「お疲れ様です」とお互いに労っている。
「さて、何とか生徒総会を終える事が出来て何よりなのだが、
あまり悠長なことも言ってられないな…」
葉月が憂慮しているのは、恐らくあの行事のことだろう。
まぁ、今はのんびりした気分で過ごしていてもいいか…。
そんな気持ちが顔に出ていたのか、急に監蘭が後ろに立った。
「監蘭さん? 何かご用でしょうか…」
「いや…さっき舞台で無様なことをした桜田に、少し礼儀を教えようかと」
「いやいや!? 宜音も転んでましたよ、僕より先に」
「何だ…人のことを兼ね合いに出すとは、やはり向こうで話し合おうか」
そう言いつつ、右手の抵抗もむなしくあっさり手を抑えられる。
向こうの部屋は漆黒の闇…。
光が差し込む教室を後にすることとなるのは、これからほんの、数秒後の出来事であった。
お久しぶりです、皆様お変わりございませんでしょうか?
作者のSHIRANEです。
実に10か月ぶりとなる「僕役」の更新は、久しぶりの実話です。
いや、全てが実話では…もちろんないですが。
最初の方で生徒総会の日を間違えていたシーン。
最後の方の京谷が転ぶシーンは紛れもなく、実体験ですw
このように、私の体験も作中に生かして参りたいと考えいます。
見て下さった方もいるかもしれませんが、活動報告を更新しています。
そちらに今後の更新予定も書いておりますので、
ご参考にしていただければと思います。
寒い日が続きますので、暖かくして過ごして下さいね!
それでは…。
2013/11/30 SHIRANE