Section 4 【 風紀委員長の憂鬱 】
■ 2015年4月27日 (月) 16:00 くもり ■
□【放課後】 5階 生徒会室 □
「生徒総会についての話だが……」
ここ紅桜学園生徒会室では、珍しく静かに会議が行われて…
「おい、桜田。まだ反省が足りなかったか?」
静かに会議が行われて……
「うにゃ!?」
いれば、こんな状況にはなっていないはずなのだが。
ちなみに、桜田に詰め寄っているのは毎度お馴染みの監蘭。
変な叫び声は、宜音が椅子から落ちた時の声である。
それを微笑ましく眺めているのが、風紀委員長の氷野だったりする。
クールな外見通りで、黒縁のシャープなデザインのメガネ。
すっと通った顔は、学年問わず人気が高いのだが…。
風紀の事になると鬼になる、そう鬼に。大事な事なので2回。
その二つ名を決定付けた「ある事件」が実はある。
あれは丁度、中学3年生だった時に遡る。
■ 2014年12月15日 (月) 13:00 雨 ■
□【見学中】 2階 職員室前 □
当時中学3年生だった氷野 秋晴は、柔道の実力を評価され推薦入学が決まっていた。
学校の見学という事で、たまたまこの紅桜学園を訪れていた時の事だ。
職員室で生徒会の役員、その時はまだ副会長の中本 葉月を待っている時、
ふと廊下の所で何だか揉めているのを見つけた。
氷野がそちらに近づくと、どうやら女子に言い寄っている不良男子が3人…。
「どうしたんですか?」と、氷野は問いかけた。
すると女子が氷野の後ろに隠れて、無理やりデートに連れて行かれると訴えた。
男子の1人が氷野に掴みかかろうとして手を伸ばしたが…その刹那、
その男子は世界が反転して床に眠る事になる。
何が起こったかを簡単に説明すると、氷野が伸ばされた手をそのまま取って、
所謂…「一本背負い」を綺麗に決めたのだ。
というのも、氷野が最も得意とするのが「一本背負い」だったのだが…。
残りの男子は典型的な不良の様に、ポケットからカッターナイフを取り出したが、
そこからが早かった…異様な位時間経過が早かったと言われている。
ここからはイマイチハッキリとした事がわからないのだが…。
相手から差し出されるカッターを避けながら関節を極めて外してしまった…とか、
自分の脇腹で相手の腕を挟み、そのまま曲がらない方向に曲げた…とか。
結果としては、職員室から覗いていた葉月が迅速に先生を招集。
女子たちからは感謝され、不良生徒たちは連れて行かれ、
そして葉月に最終的に生徒会室に連れ込まれたそうだ。
その事で、氷野は葉月に見込まれ風紀委員長に選任されたらしい。
というのが、去年の12月に起こった「氷野事件」の顛末である。
■ 2015年4月27日 (月) 16:15 くもり ■
□【放課後】 5階 生徒会室 □
「では、今日の生徒会役員会を終わろう。
最後になったが、5月6日に迫った「生徒総会」の担当を割り振っておく」
葉月はそう置いて、手元の案件が書かれた資料に目を落した。
「まず、桜田。お前は…今後の生徒会関連行事について纏めておく様に。
唯は今年度の会計監査報告、宜音は会計報告をそれぞれ頼む。
岡井は、生徒会アンケートの実施要綱についての説明を。
氷野は…そうだな。一つ、弛んだ風紀を締めてくれ」
はい、と一同が頷こうとしてどこか違和感を覚えた。
そして、それを一番感じたであろう人が会長に質問する。
「あの…会長? 締めるって…?」
勿論聞いたのは、さっきの会長の割り振りが可笑しかった氷野である。
「そのままだが。氷野事件の再来は防ぎたいからな」
そう言う葉月の顔はニヤニヤしている。
あの状態になった会長を止められる人は生徒会には存在しない。
仕方なく氷野も椅子に座り、会長の話の続きを待つ。
「それとだが、就任挨拶を各自考えておく様に。以上、解散!」
会長の号令で全員がそれぞれの仕事に取り掛かり始める。
氷野は資料をファイルに挟み、生徒会室を出ようとすると京也に声を掛けられた。
「秋晴は、今からまた会議なのか?」
「まぁな。次は、風紀委員会の会合に行ってくるよ」
「頑張ってな!」
そう言って京也は親指を立て、仕事に戻った。
氷野もそれを見てから生徒会室を後にして、風紀会合へ向かった。
■ 2015年4月27日 (月) 16:20 くもり ■
□【放課後】 4階 風紀委員会室 □
ちょうど生徒会室の真下に、風紀委員会室というものが存在する。
風紀委員会は学校内での役割が大きいことを理由とし、唯一専門室がある。
「遅い!」
部屋にIDカードをかざして入ると、開口一番そう言われた。
仁王立ちで迎えているのは、風紀副委員長の 夏葉 望夢。
会長らと同じ2年生で、叩き上げの風紀委員会を引っ張ってきた人だ。
監蘭と幼馴染で、夏葉も合気道の有段者である。
抜き打ちで行われる服装点検では、鬼として有名である。
ただ、可愛いものが大好きで机は人形であふれている。
良からぬ事を考えるのが必ず1人居るようで、
以前に腹いせからか夏葉の人形を隠した奴が居た。
結果は言うまでもなく…学校から居なくなったんだったかな…。
「すみません。生徒会の会議が長引いて、全員居ますか?」
「もちろん!」
「じゃあ、風紀会議を始めますので席に…」
氷野がそう促すと、主要役員が自分の持ち椅子に座る。
少し風紀委員会の組織を説明しておこう。
風紀委員長を代表として、風紀副委員長がまず存在する。
2人の直轄組織に、各学年から1名ずつの代表者で構成されている。
紅桜学園では、生徒会会則で風紀指導権限を生徒会と風紀委員会が有している。
生徒会役員と風紀委員会に教職員の合同会合で決定され、
訓戒から停学、退学まで裁定を合議で下すことが認められている珍しい学校である。
では、話を元に戻そう…。
「じゃあ、東さん。今月の風紀報告をお願いします」
「はい!」
東さんは、2年生代表で小柄な体躯ながらもその技は豪快。
これまた柔道の有段者で、投げられた男性は数知れず…。
「今月は服装指導が少し多く感じます、それに対し頭髪指導は…」
東さんが流れる様に手元の資料を見ながら、報告を進める。
「わかりました。ありがとう、座って下さい」
そう促されて、東は席に座った。
「では、続いて啓発キャンペーンに関して」
「はい」
続いて立ち上がったのは、3年生代表の鶴谷さん。
風紀委員会では珍しい、武道はまったくの未経験者。
しかし、ディベートをさせたら紅桜一、いや日本一。
こないだの全国大会で、優勝トロフィーを持って来たのは記憶に新しい。
「今月は、挨拶強化月間を予定しています。来週から…」
鶴谷さんが報告を済ませると、氷野が話し始める。
「今日もお疲れ様でした。では最後に僕から。
昨日ですが、校内で喫煙事案がありましたので注意お願いします。
本日は校内巡視に当たっていませんので、各自上がって下さい」
校内巡視は、生徒会と持ち回りで行っている校内パトロールである。
大体1日おきに交代して行うのが通例である。
氷野の合図と共に、全員が各々の仕事を始める。
夏葉はと言うと…人形を眺めてうっとりしていたりする。
「夏葉さん、少し怖いですよ?」
「あぁ? 氷野、何か話でもあるのかな?」
こう言う所は幼馴染、監蘭にそっくりだと思う節がある。
「いえ」とだけ返して、生徒会と風紀の雑務をこなしていく。
部屋に差し込む光が一筋に重なって、書類の束を照らしていた。
■ 2015年4月27日 (月) 16:40 くもり ■
□【放課後】 3階 廊下 □
「今日はまた一段と、ぽかぽかしていますね…」
京也がそうつぶやいて、窓に目を遣った。
「あぁ、ここの所暖かい日が続いているからな」
葉月がそれに続く様に相槌をうつ。
葉月と京也は、校内巡視の当番でパトロールをしていた。
京也の手には携帯型の無線機が握られていて、
何かあった時に連絡が出来る様になっている。
「会長、あの部屋施錠してないんでしょうか?」
窓が開いている教室が目の前に見える。
葉月はタブレットを操作して、教室の入退室記録にアクセスする。
「いや、誰も居ないみたいだな。見てみるか」
葉月がIDカードをかざして、部屋を開ける。
教室の中には人影は見えず、窓だけ占めて部屋を後にした。
部屋に再施錠しようとIDをかざそうとした瞬間…
近くの火災報知機がけたたましい音を上げて吹鳴し始めた。
取りあえず部屋を施錠して、京也が生徒会室に確認を取る。
『桜田ですけど、現在3階で火災報知機が吹鳴中。
通報場所の一報を、至急でお願いします!」
通信すると近くにいたのか宜音が返答してきた。
『宜音です。通報場所は、2階理科実験室前、確認をお願いします!』
連絡と同時に葉月が走り出し、京也もその後を追いかける。
2階に続く階段を駆け下りて、理科実験室前に到着した。
■ 2015年4月27日 (月) 16:50 くもり ■
□【放課後】 2階 理科実験室 □
教室の前は数人の生徒かいるだけで、火災が起きている訳ではなさそうだった。
しかし、確認しないわけにもいかないのでIDカードをかざす。
部屋の中に入ってみるが、焦げた匂いもなく、燃えている訳でもなさそうだ。
部屋に再施錠してから、生徒会室に一報を入れる。
『桜田です。2階理解実験室を調査しましたが、火災と認められず。
誤報ですので、校内放送で告知をお願いします」
数秒の間をおいて『了解です』と宜音から返答があった。
程なくして校内放送で誤報の旨が、全員に伝えられる。
元のパトロールに戻ろうかとした時、1人の女子が気になった。
気づくと京也は彼女の横に立って、証明書を提示していた。
「すみません、生徒会ですけど。少しよろしいですか?」
縦開きになった手帳を開いて、彼女を椅子まで案内する。
「さっきの火災報知機の件ですけど、何か知ってます…よね…?」
あくまでも優しい口調で尋ねると、こくん、と一度だけ頷いた。
「会長、とりあえず…生徒会室にお連れしましょうか?」
「そうだな…よろしいですか?」
同意を経て生徒会室に彼女をお連れして、事情を聴くことになった。
■ 2015年4月27日 (月) 17:05 くもり ■
□【放課後】 5階 生徒会室 □
「お話しいただいてもいいですか?」
聴取を担当するのは会計の宜音と監蘭で、監蘭が調書を取っている。
「はい…。実は……」
そう言って話してくれたのは、男子に押されてぶつかってなってしまったようだ。
「その男子は覚えています?」
「はい」
「じゃ、教えて。ちょっと反省させてくるから」
「えぇ!?」
監蘭は葉月の手を煩わせたが大層お気に召さない様子で、
今にも走り出して殴りだしそうな雰囲気である。
「監蘭さん、それはやりすぎでは…」
そう言って言が止まったのは、監蘭に冷たい目でにらまれたからである。
井の中の蛙状態で、京也は自分の雑務の片づけを始めた。
調書を取り終った監蘭がそのまま部屋から出て行ったのは別の話で、
下校途中でその監蘭が追っていた男子が倒れていたとかも別の話である。
生徒会の愉快な仲間たちは学校のトラブルを解決しながら、
迫りくる「生徒総会」へ準備を続けていた。
各々の机の上は、書類で埋もれているのもまた別のお話である。
皆様毎日をいかがお過ごしでしょうか?
作者の SHIRANE です^^
もうそろそろ、作者名を変更しようかな…とか思っています^^;
今回は風紀委員会に目を向けて書いてみました。
僕の中学校には風紀委員会がなかったので、ぜひ欲しかったですね…。
まぁ、それはさておき…。
新学期がスタートしていますので、更新がゆっくりになります。
読者の皆様には申し訳ありませんが、今しばらくお待ちください。
では、風邪などひきませんように、体をご自愛くださいませ…。
2013年 4月 16日 SHIRANE