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Section 3 【 お金をきちんと使いましょう? 】

■2015年4月23日 (木) 13:00 晴れ ■

□【放課後】 5階 生徒会室 □

「今日から2日間で、全クラブの会計監査をすることになった!」

会長が、生徒会室に入って開口一番切り出した。

そう聞いて、向かいに座っている監蘭はどこか活き活きして見える。

「あの~会長。会計監査って、どんなことをするんですか?」

葉月は会長席に座り、一息ついてから話し始める。

「紅桜学園では、生徒会予算から各部にクラブ費が給付されている。

 そのために、会計監査で正しく予算が使われているか調査するんだよ」

「生徒会会計規約 第14条。そこに書かれている」

監蘭が葉月の内容を補足で補っている。

「そこでだ、桜田! 監蘭と各部の会計監査に行ってきてくれ。

 電卓とデジカメはそこの3番目の棚に入っている」

「えっ、監蘭さんとです…!?」

「何だ、不服なのか…?」

言葉が途中で途切れたのは、いつの間にか近づいた監蘭に手を捻られているからだ。

「どうした? 言いたい事があるなら、今聞こうか?」

言葉はとても丁寧だが、迫力はとても丁寧と言い難い。

「いいえ、何もありません!」

慌ててそう言葉を紡ぐと、手が強烈な痛みから解放され自由になる。

「わかったならいいんだが…さて、行くぞ」

監蘭は電卓を片手に、生徒会室の外へと出ていく。

京也も慌てて準備を済ませ、監蘭に続いて出て行った。

2人が居なくなって生徒会室はというと…。

「さて、残りの役員は会議室で予算委員会に出席する。

 宜音、今年度の予算資料を忘れないように準備しておいてくれよ」

「あっ、はい。わかりました」

宜音は、備え付けのパソコンから資料を数枚印刷し始める。

5階から見下ろす町並みは、桜一色から葉桜の季節へと移り始めていた。


■2015年4月23日 (木) 13:07 晴れ ■

□【放課後】 2階 作法室 □

今、会議室では各部の部長とで予算委員会が行われている…と、

横に並んで歩いている監蘭がそう話している。

「でも、それなら監蘭さんも出席した方がよかったんじゃ?」

「それがな…昨年は少しやらかしてしまってな…」

監蘭が少し遠い目をしているのを見て、京也は何となく悟った。

「 (これは、間違いなく暴れた…んだろうな。黙ってよ…) 」

そのまま少し歩くと、2階の端にある『作法室』に到着した。

「けど、何で部長不在時に会計監査をするんですか?」

「そんなの…誤魔化しが出来ないようにするためじゃないか」

不敵な笑みを浮かべ、監蘭が作法室にIDカードをかざす。

マスターキーの役割も果たしているこのカードは、

紅桜学園内のほとんどの教室を開けることが出来る仕組みになっている。

「失礼します。生徒会の会計監査です、速やかに会計簿を提出して下さい」

監蘭が淡々とした口調でそう告げると、

中に居た女子がファイルを以て監蘭達に近づいてきた。

監蘭と京也は、自分の顔写真と役職が記された縦開きの証明書を提示する。

警察手帳を彷彿とさせるデザインではあるが、カラーは青色でコーティングされ、

上面が写真・名前・所属で、下面が紅桜学園の校章である。

準備が整うと、早速会計監査 (と言っても、監蘭をサポートする) を始めた。

「これよろしければ…」

そう言って出されたのは煎れたての緑茶であった。

今監査しているのは文化部の『茶道部』である。

部員はみな制服から着物に着替えており、落ち着いた雰囲気を醸し出している。

そして、京也の横では凄まじい速さで電卓を叩く監蘭が居た。

矢継ぎ早にでる計算結果を、京也は記録を進めていく。

万が一間違っていたら…想像するだけでも悪寒がする。

そうこうしている間に監蘭は計算を終えて、満足そうに頷いた。

「会計簿に問題はありませんでした。ご協力感謝します」

問題がなければ丁寧にお礼を言う、生徒会に入ってそれを1番言われた。


作法室を後にすると、その足で文化部を回って行った。

こういう風にスムーズに行く事もあれば、以下ない事も…無論ある。


■2015年4月23日 (木) 14:10 晴れ ■

□【放課後】 3階 IT研究部 □

ほとんどの文化部の会計監査が終了し、残すはこのIT研究部だけである。

ここまでの会計監査の内容…問題なし10、一部不備3、不備0となっている。

今までの様に、教室にIDカードをかざして抜き打ちで室内に入る。

「生徒会会計監査です。速やかに会計簿を提出して下さい」

監蘭がそう告げると、男子の1人がこんな事を言った。

「そんなもん付けてませんよ」

男子の一言に肝が冷えたのは、他ならぬ京也である。

横に立っている監蘭は表情が先程から変わらない…。

「そういう態度なら、こちらにも考えがあります」

監蘭は持っていたドキュメントファイルから1枚の紙を取り出し、

素早く記入を済ませ、複写式になっている控えを切り取った。

紙をその男子に渡して、部屋を立ち去ろうとした…が、

その男子がすがる様に声をかけてきた。

「これはなんだよ!?」

どこか憤慨しているようであるが、監蘭は一切表情が変化しない。

「営業スマイル」…という言葉が存在しているが、

京也にとってみればその笑顔は「殺人スマイル」でしかなかったのだ。

「生徒会会計規約 第38条。君は、その内容を知っていますか?」

「知らないよ!」

監蘭は目線だけ京也に送り、京也は促されるまま生徒手帳を開いた。

そして、その部分だけを声に出して読んだ。

「第38条、会計監査において会計簿が提出されない若しくはそれに準じる場合、

 部活予算の執行を会計監査権限で差し止めることが出来る…ですね」

「そう言う事だ。今日から7日中に会計簿が正しく提出されない場合は、

 今年度部活予算の執行を正式に停止するので、そのつもりで」

そう言い残すと男子は深くうなだれ、監蘭達は教室を後にした。


部屋を出た2人は、少し休憩を取る事にした。

各階の中央付近にある自動販売機で、ジュースをそれぞれ買う。

「ガタン」という落下音がして、監蘭がオレンジジュースを取り出した。

京也はクリッポボードの紙に、文化部の監査結果を記していく。

「いつもこんな感じなんですか?」

京也はクリップボードに目線を落したままそうつぶやく。

「まぁ、今年は少し不備が多いが…こんなものだろう」

監蘭はジュースを一気に呷ると缶をゴミ箱に入れ、

運動部の方へとゆっくりと歩き始めた。


■2015年4月23日 (木) 14:20 晴れ ■

□【放課後】 1階 軟式野球部 □

これまでと同じような流れで運動部の会計監査へと移る。

軟式野球部の女子マネージャーが、会計簿を持って駆けて来る。

「すみません…これが会計簿です」

会計簿はとても丁寧に付けられている…しかし、ある所が気になった。

京也が気づいたという事は、もちろん…。

「ここの部分はどなたが書きました?」

明らかにそれまでとは違う字の流れに疑問を抱かない方がおかしい。

「えぇ…と」

声が尻すぼみになっていくのを見て、監蘭がこう促した。

「部長? 副部長?」

小さな声で「部長」という声が聞こえてきた。

監蘭は京也の方を一度向いて「ほらね」と言わんばかりの目線をくれた。

「わかりました。この件は、部長に直接お聞きします」

京也は会計簿の写真を撮って、軟式野球部の部屋を後にした。


「こんなこともあるんですね」

京也がそうつぶやくと、監蘭が何気なしに話し出す。

「この学校は部費の管理が意外とゆるくなってる所があるんだよ。

 そのために、会計監査は入念に厳しく行うのだが…」

監蘭はどこか寂しそうな顔をして、残りの運動部監査を続けて行った。


■2015年4月23日 (木) 16:00 晴れ ■

□【放課後】 5階 生徒会室 □

生徒会室に入ると、葉月達一同が座って雑務をこなしていた。

「全クラブの会計監査終わりました」

葉月が顔をあげて「首尾は?」と尋ねてくる。

「文化部が…えぇと、問題なし10、一部不備 2、不備が1です。

 運動部は、問題なし6、一部不備5、不備2でした」

京也がクリップボードを見ながらそう答える。

葉月は少し苦い顔をして、言葉をつなぐ。

「今年は不備が多いな…」

葉月も同じような感想を抱いた様である。

「あっ、それから IT研究部が大変非協力な態度を見せましたので、

 会計監査権限で今年度部活予算の一時差し止めを勧告しました」

これが正票です、と葉月の前に勧告書を差し出す。

「わかった。岡井、これをスキャナでパソコンに」

「は~い、わかりました!」

岡井が紙を受け取って、コピー機に早速かけている。

「今日はお疲れだったな。まぁ、とりあえず座ってくれ」

促されるままに自席へと座る。

「今日の予算委員会だが…」

葉月が含みを持たせたように話し始めるが…

「無事、生徒会の請求通りの予算権を得ることが出来た!」

嬉しそうにそう言うと、目の前の監蘭もどこか嬉しそうである。

「まぁ、宜音が学校側を完全シャットアウトしたんだがな…」

あぁ~という空気が、監蘭と京也の間に流れる。

「そんなことしてませんよ!!」

宜音が手をばたつかせてアピールするが、どのような状況か想像がつく。

「 (間違いなく、教員側を完膚なきまでに叩きのめしたんだろう…英語で) 」

宜音はイギリス帰りで…いわゆる帰国子女というやつである。

本場のネィテイブな英語に勝てる教員、それも英語の教員はおそらくだが、

予算委員会に出席している筈もないので、コテンパンだろう。

予算請求通りに通って葉月と監蘭は得意満面の笑み、

思い出して恥ずかしいのか宜音は「飲み物買ってきます!」と出て行こうとして、

お約束の様に扉の前の何もない所で転ぶ…と見せかけて前回り受け身を取る。

「おぉ~!」

京也が感嘆の声を上げたのとほぼ同時に、扉に衝突したが…。

それを見て京也・岡井・氷野の3人は苦笑い。

何事も無かったかのように部屋を出るが、あれは絶対に痛い。

会計監査も何とか終わってのんびりしていると、

葉月が何か思い出した様に京也に向かって言い放った。

「あっ、桜田? 5月頭の生徒総会で就任挨拶があるから、

 話す事とか考えておくようにな。副会長だから、3分くらい…」

まさかの最後でどんでん返し。

「僕がですか!? 挨拶なんて要り…」

ここで言葉が途切れたのは、目の前の監蘭が急に視界から消えたからである。

その状況が指し示すのは1つ…身の危険だけである。

「監蘭さん、いえ違うんですよ?」

一応弁明のようなものをしてみたが、時すでに遅し…。

「お前も学習しないな…。隣行くぞ!」

あっという間に手を捻りあげられ、休憩室に引きずり込まれる。

その日生徒会室からは、不思議な泣き叫ぶ声が聞こえたとか。

真偽かどうかは定かではないが、

京也が傷だらけで生徒会室前で寝ていたのはまた別の話である。


ご拝読頂きまして誠にありがとうございます。


本作の作者であります SHIRANE です。


3話目の投稿となりますが、今回は架空の話になります^^


僕の学校に会計監査権はありませんでしたので、


一度予算交渉とかしてみたかったな…とか^^;


次回のお話ですが、おそらく生徒総会と委員会の話になると思います。


また読んで頂けましたら、幸いに思います。


なお、Section 3 で登場した「生徒会 会計規約」は、


数日中に投稿させて頂きたいと考えておりますので、


ぜひそちらも宜しくお願い致します^^


それでは、またお会いするまで…。



2013年 3月 24日 SHIRANE

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