Section 2 【 最初の仕事は…何ですか? 】
■ 2015年4月10日 (金) 16:25 くもり ■
□ 【放課後】 5階 生徒会室前 □
放課後、京也は晴秋と一緒に生徒会室へ向かっていた。
役員が全て決まってからは初めての集まりになる。
「それにしても…今日はまた、とてつもなく天気が悪いな」
晴秋がそう溢すと、京也も窓の外へと目を向けた。
発達した低気圧の影響からか、今日の夜には雨が降り出す予報であった。
「あぁ、確かに…。お前、傘持ってきた?」
「それがな、見事に入れ忘れた…。机には出していたんだが……」
傘は忘れているが、落ちはちゃんと携帯しているようだ。
そうこうしている間に生徒会室前へと着いた。
生徒手帳からIDカードを出して、扉横のスキャナーにかざす。
ピー、という電子音に続いて開錠した音が周りに響く。
部屋の扉を開けると、すでに数人が中に居た。
■ 2015年4月10日 (金) 16:25 くもり ■
□ 【放課後】 5階 生徒会室 □
前言撤回…。数人ではなく、既に他の役員は集まっていた。
椅子に座って、各々が本を読んだり勉強したりしている。
「遅くなりました…」
謝罪を含めつつ席に向かうと、会長が言った。
「別に遅くはないぞ? 偶々、集合が早かっただけだからな」
読んでいた本をパタンと閉じて、机に軽く手を組んだ。
「では…生徒会を始めようか」
役員が勢ぞろいするのは、今年初めての事である。
何せ、副会長人事が未定のままであったことが大きいのだが。
「現在急務の案件が1つある…。宜音、何かわかるか?」
会長が話を振ったのは会計の宜音だ。
国際教養科1年生で、帰国子女。京也は天性のドジ…と評価している。
「えーと…何でしょう?」
入学したばかりでまだ行事を把握していないのだろう…京也も含めて。
続いて指名した監蘭は、さらっとした様子で答える。
「新入生歓迎会…と部活動紹介ですね」
そう言えば案内のプリントを今日貰ったと京也が考えていると、ある事に思い立った。
「あの~会長?」
「何だ桜田?」
「勘違いじゃなければ、それって来週の月曜日ですよね?」
会長は少し躊躇した様に見せ…かけただけで、あっさり言い放った。
「その件に関しては勘違いではなく、事実だから安心しろ」
「いや!? 少し急すぎじゃ……」
京也の声が徐々に小さくなっていたのはとある理由がある。
それは、京也の目の前で監蘭が手をマッサージしながらこっちを見ているからだ。
その目からは「葉月の言った事に文句あんのか?」というのが全開である。
身を以て恐ろしさを知る京也は、ただ押し黙るすべしかない。
「いえ、勘違いでした!!」
慌てて弁明すると、目の前の監蘭から殺気がやっと消えた。
「うん、それならいいんだが。それについてだが、早速分担を割り振りたい」
会長は手元のドキュメントファイルから1枚の紙を取り出した。
その紙には、会長が考えた分担内容が既に印字されていた。
「さてこれの司会進行だけど…早速、桜田にやってもらおうと思う」
「えっ…?」
一瞬の出来事でついつい聞き返してしまった。
「何だ、もう一度言うのか。桜田には、司会進行を担当してもらう」
「…………」
再度聞こえてきた言葉には聞き違いは一切なく、
「えぇぇぇぇぇぇ!?」
京也の叫び声に全員が一瞬びくっ! となって監蘭が咎める。
「何が納得できないのかな…」
そう言いながら手をポキポキと鳴らしている様子は、恐怖でしかない。
「いや、だって、僕ですよ?」
「だからどうした?」
そう言われると何も返すことが出来なくなる。
数日前まで普通の生徒だったのが、ある日を境に役員。
「桜田、まぁ心配するな。みんなサポートするし、あれだったら…な」
そう言って会長が肩を叩いたのは、同じ1年生の宜音だ。
「えっ、何でしょうか…?」
「よし、宜音も同じく司会進行に充てよう。2人で仕切ってくれ」
会長が1人納得した様に、京也と宜音の前に進行表を置く。
「2人はそれをしっかりと読んでおく事。では、早速現地調査と行こうか」
そう言うと会長は、全員を引き連れて体育館へと移動した。
■ 2015年4月10日 (金) 16:35 くもり ■
□ 【放課後】 1階 体育館 □
京也達は会長に連れられて、1階の体育館に来ていた。
外はどんよりとした雲が張っていて、今にも雨が降り出しそうであった。
会長は持っているIDカードを体育館の扉にかざすと、
電子音の後に扉がスライドして開いた。
会長と監蘭さんは、慣れた様子で体育館に必要な用具を準備してしまう。
1年生組は、黙ってその様子を見ているしかなかった。
そうしている間にも、京也と宜音はしっかりと進行表を頭に入れる。
晴秋もさっきまで横に居たが、会長に呼ばれて走って行った。
「宜音さん。ここだけど…どういう風に言ったらいいかな?」
進行表に指をさしながら、宜音に尋ねる。
「そうだね…こういう風に…」
と言って実演して見せてくれた。
「ありがとう。すごく参考になったよ!」
そう言うと宜音は照れて少し距離を取ろうとして…転んだ。
「宜音さん大丈夫!?」
宜音は慣れた様子で立ち上がった…まるで、何事もないように。
「私ね、昔からよく転ぶの。別に、転ぶ所なんてないのに」
そう言われて、京也は一昨日の生徒会室での出来事を思い出した。
確かに、何もない教室で盛大に転んでいた。
「ケガはないの?」
自然な口調で京也が聞くと、左右に小さく首を振った。
ならいいけど、と小さく呟いて進行表に目を落とした。
■ 2015年4月13日 (月) 13:20 晴れ ■
□ 【5限目】 1階 体育館 □
とても早く時間が過ぎた気がする。
ついさっきまで金曜日だったのに、気づけば月曜日の本番だった。
体育館には1-A から 1-Eまでのクラスが勢ぞろいしている。
京也はというと……。
「やばい…すごく緊張してきた…」
1人、異常な位の緊張度合いを醸し出していた。
「桜田! 肩の力を抜いて、人を3回書いて呑み込め」
会長のアドバイスは頭では理解している、しかし…。
「会長、もう人は3回書いて呑み込みましたし、肩の力はこれ以上無理です」
会長と話していると、いつの間にか緊張が少し和らいできた。
開始の時間になり、宜音と一緒に司会席の方へ移動しようと階段を下りていると…
「きゃっ!」
宜音が流れるような動作で階段から落ちる手前で、京也が手をつかんだ。
「おっと、大丈夫?」
宜音はどこか照れた様子で、ありがとうと言って下に降り立った。
司会席に着いて、いよいよ初仕事が幕を開けようとしていた。
「では、今から新入生歓迎会と部活動紹介を開会させていた…だきます」
体育館には予想の他、拍手が多く飛び交っていた。
よく見てみると、扇動しているのは…。
「 (桜子…じゃないか!?) 」
普通科1年生でクラスメート兼幼馴染というべきか、腐れ縁というべきか。
鏡谷 咲子…。それが、今の拍手扇動の首謀者というべきか。
気を取られていると、宜音に軽く小突かれた。
正気に戻って、進行表に軽く目を落とす。
「最初に、生徒会会長の中本よりご挨拶です」
そう言うと、会長が壇上に上がりスピーチを始める。
才色兼備…という言葉を体現した様な人ではあるが、
やはり人目を惹くのはボーイッシュな外見であろうか。
壇上に立って話しているだけでも、とても格好よく見える。
「 (いや、実際に格好いいんだけど…) 」
2分ほどのスピーチを終えると、壇上を後にした。
ここからは、宜音にバトンを交代する。
「えーでは、続いて吹奏楽部の演奏です! 吹奏楽部のみな…きゃっ!」
正面を向いていた京也だったが、突然の叫び声に横を向く。
すると、先ほどまで普通に立っていた場所に宜音が転んでいた。
それは、理解できないほどの綺麗に転んでおられました。
その上、どうやら頭を少し打って脳震盪を起こしているようだ。
先生たちと会長が駆け寄って、保健室へと連れて行かれる。
さて…ここで、1つ問題です。
宜音が居なくなった今、司会をするのは?
正解…「お前がやるしかないだろ」と会長からの命令。
「アクシデントが起こってしまいましたので、ここからは僕が担当します」
簡単なアナウンスを入れて、吹奏楽部の演奏に入る。
市内でも最高峰の演奏を誇る吹奏楽部の演奏は…正直想定外だった。
終わる頃には、一緒になって拍手をしていた。
「吹奏楽部のみなさん有難うございました! 続きまして……」
宜音のアクシデントはあったが、その分気をしっかり張っていたのか、
その後は大きなミスやアクシデントはなく、無事終わる…はずだった。
■ 2015年4月13日 (月) 15:15 晴れ ■
□ 【放課後】 1階 体育館 □
体育館の片づけをしながら、京也は思い出していた。
「まさか、あそこで噛んでしまうとは…」
事の次第は、ホンの20分ほど前に起こった。
終盤まで大きなミスもなく、初めての仕事にしてはいい仕上がりだった。
だった、と過去形になっているのは勿論理由がある。
「最後に学校長先生より、講評を頂きまひゅ…ます…」
まさかの噛みに、全員唖然。体育館があんなに静まったのは、ある意味才能だろう。
学校長の講評の後、学校長に「気にすることないよ」と励まされたのは余談だ。
禿げている先生に励まされる日が来るなんて…つい口に出しそうだった。
「あぁ~今すぐ記憶から抹消しよう」
1人でぶつぶつ後悔を口にしていると会長が近づいてきた。
「桜田、まぁ…何ていうかお疲れだったな」
どこかバツが悪そうに目を逸らされてしまった。
「しかし、最後を含めてとても良い司会進行だったぞ」
宜音が抜けたにも関わらず、とその後に付け足された。
「やっぱり、私が見込んだ勘は間違いではなかったようだな」
「そう言って頂けると、幸いです…」
京也も真正面から褒められて少し照れくさくなってきた。
すると音もなく近づいてきた監蘭さんに…思いっきり手を捻りあげられた。
「何するんですか!?」
監蘭は、いつもの数十倍冷えた目で京也にだけ聞こえる声で言った。
「お前、葉月に手を出したらどうなるかわかってるな…」
そう言いつつ、捻る手に力がより一層込められる。
「そんなこと滅相もありません!」
ふん、と言って捻られていた手が離される。
会長は1人きょとんとしているが、監蘭は依然殺気を放っている。
誰かに必要とされる人になりたい…。
京也はずっと、そういう風に思っていた。
けれど、必要とされることからいつの間にか避けている自分が居た。
そのチャンスをくれた会長にはとても感謝しているし、
いつかこのお礼を出来たらいいなと思う。
そんな気持ちを胸に秘めて少し微笑むと、
油断もつかの間…監蘭にまた手を捻りあげられていた。
紅桜学園生徒会は……今日も、こんな風に流れています…。
明日で東日本大震災から、丸2年の月日が経とうとしています。
以前復興の道のりを歩く東北の皆様方のこれからと、
震災によって亡くなられたすべての方にお祈りを申し上げます。
作者の SHIRANE です。
今回は「僕が役員でいいんでしょうか?」の2話をお送りしました。
改題して全面改訂してお送りしておりますが、如何でしょうか?
以前に、私は中学校の生徒会に在籍しておりました。
と言うより、中学校は生徒会か代議員しかしてませんけど^^;
(本当は、図書委員になりたかった作者……)
今回書かせて頂いた「新入生歓迎会」の件ですが、
本当にありました実話を題材にしております。
経験したのも、勿論……私なのですけど^^;
これからも、実話を混ぜながら書いていけたらと思います。
暖かくなってきましたが、予防は忘れずに!
では、次は「護衛艦奮闘記」だと思いますが…お会いしましょう!!
2013年 3月10日 SHIRANE