Section 1 【 1年の始まりには…役職を? 】
■ 2015年4月8日 (水) 8:25 晴れ ■
□ 【登校中】 正門付近 □
「君を生徒会の副会長にしてあげよう!」
桜田 京也は言われた事を心の中で反芻し、少し考えることにした。
思い返す事5分前……。
紅桜学園は、少し坂を上った高台に位置している。
しかし交通の便が悪いという事もなく、駅から10分圏内である。
入学式の時にも見た満開の桜並木の下を歩いていくと、
紅桜学園の正門がすぐ目の前に入ってくる。
昨年改修されたばかりという紅桜学園は、正門もきれいに塗られている。
正門の近くまで行くと数名の生徒が立っているのが見えた。
腕には『生徒会』と書かれた腕章を付けているのが見て取れる。
「 (朝から大変なんだな…) 」
生徒会役員を横目に中へと続く昇降口へ歩き出そうとした時であった。
「ちょっと、そこの君」
誰かが呼ばれているようで京也も周りを1度見回す。
「 (誰が呼ばれているんだろう…?) 」
気にしながらも更に歩いて行こうとすると、後ろから誰かに肩を掴まれた。
「えっ?」
驚きながら振り返るととても整った顔の女子が1人立っていた。
腕には『生徒会』の腕章を付けているから、生徒会役員なのだろうけど。
「何で呼んでいるのに行ってしまうのかな?」
「いえ、誰が呼ばれているのかわからなかったので…」
彼女は持っているボードを小脇に抱えて、腕を組んだ。
「ところで君、服装違反だよ?」
そう言って彼女は緩んだネクタイを指差した。
「あっ、すみません…」
素直に言われた通りネクタイをしっかりと上にあげると、
目の前の彼女は少し感心した様に口を開いた。
「君は珍しいな。大抵、文句を言うもんなんだけど…」
「だって、間違っているのは僕ですし…」
彼女は少し考えてから口を再び開いた。
これが5分間の間に起こった全容…なのか。
この流れからどうして僕が生徒会副会長になるんだろう。
「とりあえず…失礼します!?」
足早に立ち去ろうとしたら、いきなり違う女子に手を掴まれた。
健全な男子高校生らしい考えを持っていると…その手を思いっきり捻られた。
「痛い、痛い…ホントに!」
そう言うと力は少し緩められたが、以前手は固定状態だ。
京也の頭は混乱状態にあった。
いきなり副会長になれと言われて、去ろうとしたら手を捻られる。
「 (いったいどういう状況なんだ…) 」
すると、困惑している状況を打開してくれそうな奴が現れた。
「あれ? 京也じゃないか、いったい何したんだ?」
同じ1-B で入学式の時に仲良くなった 氷野 晴秋 だ。
「いや…かくかくしかじかで……」
事情を大まかに説明すると、晴秋は納得の言った顔でうなずいた。
「そうか…ちなみに、そこの2人は誰かわかってるか?」
京也は目の前の女子と手を捻りあげている女子を交互に見る。
「いや、すまないが記憶にない…」
そう言うと捻りあげられていた手が解放されフリーになる。
2人の女子はそろって並び、こちらに向き直る。
「言ってなかったな…。私は生徒会会長の 中本 葉月だ」
葉月が軽い会釈をしたのを見てから、横の女子も話し始める。
「生徒会会計監査担当の 監蘭 唯です。以後、お見知りおきを…」
礼儀正しく、先ほどまでが嘘の様に礼儀正しい。
よく見ると 監蘭さんも非常に整った顔をしている。
少し観察していると会長の葉月が尋ねた。
「そう言えば……君の名前は何というのかな?」
そういえば名乗ってなかった…と今更の様に名乗る。
「普通科1年の 桜田 京也 です」
「桜田君か…」
会長は改めて僕の顔をまじまじと見つめて1度頷いて、改めて言い放った。
「改めて、桜田君。君を、生徒会会則 第5条2項の規定基づき副会長に選任する」
「生徒会会則……第5条2項?」
生徒会の会則をそんなに詳しく読んだ事はなかった。
すると、横に居た監蘭さんが静かに、はっきり聞こえる声で喋り始めた。
「生徒会会則 第5条2項『会長は副会長を独自に選任する権限有する』と…」
書かれていますよと生徒手帳を見開いて見せた。
「つまり……」
「君はこの瞬間から、生徒会副会長になったというわけだな」
心の心情を表す様に、校舎から朝礼のチャイム音が鳴り響く。
「詳しい話は、放課後に生徒会室に来てくれ。氷野! 必ず連れてこいよ?」
そう言い残すと、会長たちはボードを片手に校舎の中に消えていった。
桜の花びらが目の前に落ちていき、風が一様に吹き抜けていった。
■ 2015年4月8日 (水) 8:40 ■
□ 【朝礼中】 1-B教室 □
「あーら、桜田君は始業式から遅刻ですか?」
おっとりした口調で尋ねて来たのは、担任の 姫宮先生。
おっとりしているがどこか気が抜けない…それが最初の感想だ。
「ちょっとした事故に巻き込まれた感じです…」
「そうなの~ケガはしてないみたいですね?」
感じ、という一言を付けたがどうやら本当に事故に遭ったと思っているのか。
とりあえず出席番号順になっている座席に着くと、
姫宮先生から始業式の簡単な説明が始まった。
しかし、京也の頭は先程の出来事でいっぱいであった。
ホンの10分程度の間に、生徒会副会長になってしまった。
新手のどっきりにも、ギャグにしてもちょっと笑えない。
そんなに秀でた所もない、ごく平凡だと思って過ごしていたら、
急に副会長になってしまうなんて。
「 (本当に副会長になってしまうのかな…?) 」
不安の占める割合が大きい心の葛藤は、放課後の生徒会まで続いた。
■ 2015年4月8日 (水) 10:55 ■
□ 【放課後】 1-B教室 □
今日は始業式だけなので、11時前には学校が終了した。
コソコソと人波に飲まれて帰ってしまおうとふと考えた時、
前後の入口に見慣れた人がそれぞれ立っていた。
「中本さんと監蘭さん!?」
驚きのあまり、口に出して言うと周りに少し怪訝そうな顔をされる。
「いや~何か良からぬ企みを考えている気がしてな…」
あの会長はエスパーか何かなのだろうか。
「まぁいい。取りあえず、生徒会室に行くぞ。監蘭、連行してくれ」
会長の指示と同時に監蘭さんに後ろを取られ、手を固定される。
「逃げたら、残念だけど後悔する事になるから…」
朝の見せられていたら、この上ない殺し文句だと思う。
「逃げませんよ、っていうより逃げられませんよ……」
成されるがまま、会長を先頭に教室を足早に後にした。
■ 2015年4月8日 (水) 11:07 ■
□ 【放課後】 生徒会室 □
生徒会室は、5階の中央に程近い場所に構えられていた。
会長は生徒会室の入口に備えられているID端末に、
生徒手帳ではない何かをかざして部屋の中へ足を進めた。
部屋の中は中央に長机とその周りには椅子が配置されている。
部屋の周囲には書類棚とパソコンが置かれているが、思いの他広かった。
「唯…離してやって」
会長の合図と同時に固定されていた手が再びフリーになる。
「さて、桜田君どうぞ好きな椅子に掛けてくれないか?」
中本さんと監蘭さんは、入口から向かって奥側の2席に座っている。
1席空けて京也も椅子に座った。
「桜田君、今朝言った事だけど…是非引き受けては貰えないだろうか…?」
「ですが僕にはそんな…」
京也は否定を含んだ風に言うと中本さんは以外な方向から切り出した。
「この学校は、女子の数が男子よりも多いのは知っているかな?」
確かに、この学校は女子の方が多いはずだ。
「はい」
「実は、それは今年だけではなくて、ここ10年はそうなんだ」
それは初耳…というか聞いたことすらなかった情報だ。
「そのため、ここ10年は生徒会に男子が加わる事がなかった。
だから、今年は新しい風をこの生徒会に送り込みたいんだ!」
中本さんはそう言うと、一息深呼吸した。
「かといって、誰でも…という訳にもいかない……」
「では、何故僕を…?」
京也が1番不思議に思っていたことである。
「何ていうか、ある種で一目ぼれなんだよな…。
いや、恋愛的な事じゃなくて注意した時の態度なんだろうかな?
こう、『きっとこなしてくれる』という…女の勘だがな」
そう言われると、京也も何だか悪い気はしなかった。
京也は少しの間考えた末に…結論を出した。
「わかりました。どこまで出来るかわかりませんが、やります!」
京也は副会長を引き受けることにした。
「そうか、そう言ってくれると思っていたよ…。
おい! みんな出てきていいよ~!!」
「えっ…?」
中本さんがそう言うと、部屋の横から数人が部屋に入ってきた。
「えっ、えっ?」
「隣の部屋は、生徒会の休憩室になっているんだよ」
という事は、隣の部屋でじっと息をひそめていたのか…。
「さて、颯花! 第5条2項に基づく任命書を印刷して」
「はいはい、了解!」
颯花と言われた少女は、身軽な動きでパソコンに近づき操作している。
ものの20秒程度で任命書が印刷される。
「続いて、茜音! 姫宮先生の所行って、承認印をもらってきて~」
「はい、わかりました」
印刷された紙を受け取ると、颯爽とした足取りで生徒会室を出て……
行こうとする手前で盛大にこけた。
どこに躓く余地があったのか全く分からないが、あれはもう…芸術だろう。
茜音と呼ばれた少女は立ち上がると、何事もなかったかの様に出て行った。
呆然と扉の方を見ていると、一緒に居た晴秋が呟いた。
「あんなのまだ可愛いものやで…」
「そうなのか……」
しみじみと京也が呟くと同時に、茜音が戻ってきた。
「って、早っ!?」
出て行って1分も経過していないはずだが…。
「桜田、それは姫宮先生の職員室がすぐ隣だからだぞ?」
そういえば、5階の生徒会室の隣が職員室とか言っていたような…。
「それに、姫宮先生は生徒会の顧問だから覚えておけよ?」
「えっ? 姫宮先生って生徒会顧問なんですか?」
「あぁ」
それもどこかで言っていた気がするが…するが、うん聞いていない!
「担任の先生なので、忘れることはないと思います」
「あの人が担任か…。まぁ、桜田もがんばれよ」
何か励まされたけど、どういう意味なんだろうか。
「それと、これ正式な任命書だから無くさないようにな」
手渡された紙には、京也の名前と任命書である旨と、姫宮先生の印が押されていた。
「 (もしかして、これをなくしたら生徒会に入らなくても…) 」
「万が一無くしたら…どうなるかわかってるだろうな?」
そう言う中本の横で監蘭が手首の体操をしながら、こちらを眺めている。
正直……あの体勢はとても恐怖を感じると言わざるを得ない。
「あっ、それとこれを渡しておくな」
そう言って中本は金庫から1枚のIDカードを差し出した。
「これは?」
確か、会長がここを開ける時に使っていた様な…。
「そのIDカードで、学園内の全ての教室に出入りすることが出来る」
「マスターキーみたいなものでしょうか…」
中本の発言に合わせて茜音が補足を入れてくれる。
「まぁ、とにかくだ…。これからよろしくな!!」
紆余曲折あったが、こうして 桜田 京也は正式な生徒会副会長となった。
それは暖かな木漏れ日が差し込み、外は桜が舞い落ちる日でした。
京也の副会長としての苦労は、これから増していくことになるのだが……。
ここまで読んで頂きましてありがとうございました。
3日続けての投稿を初めて経験する作者の SHIRANE です。
初めて投稿した学園シリーズであった「蒼学生徒会!」ですが、
それを全面リニューアルしてこの「僕が役員でいいんでしょうか?」を
やっと投稿することが出来て少しうれしいです^^
自分も数年前に生徒会役員として実際に働いていましたので、
そこでの経験というか…ドジをアレンジして混ぜていきたいと思います。
これで、現在のところ3作品出そろいました。
『ブラックアウト」「護衛艦奮闘記」そしてこの作品。
ジャンルがすべて違うというのも初めての経験ですが、
楽しみながら書いていきたいと思っています。
学園物は手探りのところが本当に多いので、
ぜひアドバイスを頂けたらと思っております^^
それでは、また次回何れかの作品でお会いしたいと思います。
2013年3月5日 SHIRANE