第七章 すれ違った想い
投票の間があきすぎてしまい、すいません。
それと、ここが悪いなどの指摘をしてもらえると有り難いです。
第七章 すれ違った想い
(どうして………)
涙を流しながらミラは町を走り抜ける。スケルの制止も聞かず、無言のまま通り過ぎる。
浮遊感が感じられた。ここへ来たときとは違い、上に上がるときは怖いと感じなかった。それはケルクのことを考えている所為かもしれない。
スケルの元へ今度はフェストが来た。
「ミラが――来ません―――でしたか?」
息遣いが荒いまま、フェストはスケルに訊ねた。
「あぁ、女の子がさっき外へ出て行ったよ。その子のことかい?」
「そうです。ありがとうございました」
スケルに礼を言うとフェストも光りの中へ入ると上に上がっていった。
上に着くと眩しいほどの日差しが入ってきた。
「ミラは………どこだ?」
家から飛び出すとフェストは辺りを見回した。人影は一つない、どうやら見失ったようだ。
フェストは家の上に飛び乗って、次々と屋根から屋根へ飛び移り少しずつ高い方へ上っていった。
フェストは町の中で一番高いと思われる建物の上に辿り着くと再び辺りを見回した。
すると町から出て行く人の姿が微かに見えた。しかしあそこまで結構距離がある。
「仕方ない………」
足に巻かれている包帯を取って、静かにフェストが「解風」と言うと風がフェストの体にまとわりついた。
風が吹き荒れる中フェストは地上から30mもあろう建物から飛び降りた。
しかしフェストは落ちることもなく空中を飛んだ。
「これを使うのは久しぶりだ………」
フェストは普段のスピードよりも数倍以上も早くなり、空を飛んだ。
あっと言う間にミラに追いつくと、フェストはミラの前に仁王立ちした。
「どいて」
俯いたままミラが言った。頬には僅かだが涙の後が見て取れる。
「駄目、今すぐ戻るんだ」
「どいて………どかないと力ずくでも通るわ」
「なら、俺も力ずくで止める」
「モーメント・スノウストーム」
ミラの手から雪の混じった強風が発せられ、フェストは吹き飛ばされた。
「本気………みたいだな」
半ば信じられない様子でフェストがミラを見つめた。
「えぇ、言ったでしょ」
「………なら、俺も力ずくで止める」
スッと立ち上がるフェストの目からは威圧感が感じられる。ミラは一歩たじろいだ後に集中した。
「風着」
フェストが言った瞬間に風が手と足にまとわりついた。
「そんな技見たことない………」
「これは最近になってようやくコントロールができるようになったんだ」
暴風が吹き荒れて、ミラが思わず目を瞑った。
そして再びミラが目を開けたとき、フェストの姿は無かった。
「捕風」
キョロキョロと辺りを見回すミラの後ろからフェストが言った。
「なっ!?」
慌てて振り向こうとするがミラは身動きが取れなかった。
「少し………話でもするか」
風でミラを捕獲したまま、フェストがミラの前に座った。
「………何を話すの?」
今までじたばたともがいていたミラも諦めたのかもがくのをやめた。
「はぁ………どこヘ行くつもりだった?」
「分からない―――――独りになりたかったのかもしれないわ」
「意味もなく、あてもなく走るんじゃない………」
一息ついてフェストは表情を緩めた。
「みんな心配してる。帰ろう?ケルクのことも……何か方法があるかもしれないし………な?」
「………うん」
ミラは笑って頷いた。
それを見るとフェストは風を解きはなった。
「あなた方はマルス様の御仲間ですか?」
慌てて二人は振り向くと、そこにはフードを被った男が立っていた。
「そうですが、何かご用でも?」
剣を抜くとフェストはミラを後ろに下がらせた。
「私はマークの命令であなた方を尾行していました」
「尾行……………穏やかな響きじゃないわね」
ミラが目つきを鋭くして言った。彼女も警戒しているようだ。
「まぁ、尾行と聞けば良い思いはしないでしょう。実はお話しがあるのです、デスハーツの―――――」
「何をこそこそとしている?」
斧を担いだ男が言った。
「………閃光打!」
フードを被った男が慌てた様子で斧を担いだ男にパンチを打つと一気に辺りが光りに包まれた。
その瞬間にミラとフェストは持ち上げられて、抵抗も出来ないまま放り投げられた。
「………な、何を―――――」
喋ろうとするミラの口に手を当てて塞ぐと、人差し指を口に当てて静かにするように、と仕草で合図した。
「………ちっ、逃したか」
斧を担いだ男は辺りを見回した後、何処かに走り去っていった。
「とりあえず、マルスさんの元へ案内してもらえませんか?」
男が居なくなったのを確認するとフードを被った男が言った。
フェストとミラは顔を見合わせた。
「それよりも貴方の名前を教えて頂きたい」
「私の名はゼツ、先程も言いましたがマークの仲間です」
「ゼツさん、貴方を信じるわけには………」
「そう言うと思いましたよ。………でも信じて頂きたいのです」
「―――――仕方ない、責任は私がとります」
フェストが少し考えた後言った。
「じょっ………冗談でしょ!? ケルクを攫った連中のこと信用して―――――」
「言っただろ! 責任は俺がとる」
フェストの口調からして相当ピリピリしていることが分かる。
「……………すまない、ミラ。―――――少し心地は悪いだろうが完全に信用したわけじゃないからな」
ゼツの周りに風が巻き付いた。ミラを捕まえたときの技と同じだ。
「くっ!? 何をする!」
ゼツは身動きが取れないまま唸った。
「ミラ、おまえもだ。すまないな」
「え? ………あぁ……分かったわ」
二人とも風で包むと宙に浮かせて、フェストは走り出した。
(………こいつ、どんな足してやがる)
町中を韋駄天のように駆け抜けると、あっと言う間に地下ファリオの入り口に着いた。
「………スケルさんに怒られそうだけど仕方ないか」
ミラだけ風から解放すると、ゼツだけ風で包んだままフェストは下に降りた。
落ちるときの感覚にはやはりまだ慣れないのかミラは目を瞑っている。
フェストが地面に足を着けると大人数の視線を感じた。
見ればたくさんの人々が呆然とこちらの様子を見ている。
よくよく考えればもう朝だ。人が居ても不思議ではない。
「あなた方は―――――とにかく、町長の家へ」
ざわめく人混みをかき分けながら、スケルは町長の家へ向かった。
多くの者が立ち止まりフェスト達を見つめている。子供達は初めて見る客人を指差して騒いでいた。
やっとのことで町長の家の中に入るとスケルは溜息を吐いた。
「また新しく人を連れてきましたね? ………まったく………」
スケルは怒ると言うよりもむしろ呆れた様子で言った。
「ほんと、すいません………」
「いや―――――まぁ仕方がない………行きなさい」
頭を掻きながらスケルは入り口の方へ戻っていった。
「マルス、いるか?」
フェストが言った。
「あぁ、待ってろ」
するとマルスよりも先にホープが部屋から飛び出して来た。
「良かった………ミラ………」
目に涙を浮かべてホープが安堵の溜息を吐いた。
「ありがとう、フェスト」
ホープが笑って言った。思わず頬を赤くしてフェストが顔を背けた。
「いや、まぁ………。―――――そ、それよりもマルス、話があるんですが」
フェストは慌てて話をすり替えた。
「話? ―――――後ろの奴のことか?」
マルスがフードを被ったゼツを見つめて言った。
「えぇ、とにかく外へ………」
フェストの言うとおりにマルスは綺麗に整備された庭に出た。
そしてフェストはゼツの周りにあった風を解いた。
「………それで?」
マルスは全く隙を見せずに静かに言った。
「私はマークの仲間で、名前はゼツです。先日ここにデスハーツが来たはずです。
あれは我々の仲間だった者達です。………今ではファロン達に付いていき、我々の敵ですが、ね。
―――――そこでお願いがあります。あなた方にとってもあのデスハーツ達は敵、ならば共に戦いませんか?」
「少し考えさせてくれ―――――それに………できればマークと直接、話がしたい」
「数日もすればマーク様が来ます。その時にでも?」
「構わない・・こちらとしても人数は多い方が良い、是非とも手を組みたいのだが・・・あんなことがあったからな」
「当然のご判断です。しかしですね―――――」
それから何時間もマルスとゼツが話し続けた。
「それで………ケルクのことだけど」
フェストがゆっくりと口を開いた。
「………これでケルクの居場所が分からなくなったんじゃない?」
ミラが言った。
「確かにマーク達は精霊や天光術を狙っていた。でも、マーク達がマルス達と一緒に戦うと言ってきた以上………」
「手掛かりは完全無くなった。………刹那自身が直接動けばいいのだけれど、それは自らの場所を教えるのと同じ、まずありえない」
「マークと手を組めば少なくとも情報は」
「それは嫌!」
フェストの言葉を遮ってミラが怒鳴った。
「確かに………ケルクを連れ去った人達となんて………」
ホープが思い詰めたように言った。
「それでも、マルス達は彼らの所へ行くと思うよ」
「じゃあ、あたし達は別の方法でケルクの元へ行く方法を考えましょ」
「何を言ってるのよ、私達はマルスについていくと決めたじゃない」
ホープがそう言うとミラの方を向いてフェストが頷いた。
「でも、マルス達はマークと手を組むんでしょ?なら話は別よ」
「冗談だろう? 何故そこまでこだわるんだ? ………彼らだって自分たちなりに世界を救おうとして―――――」
「それでも! ケルクを刹那とかいうのに取り憑かせたのは奴らじゃない! ―――――どんな理由であろうとそれにかわりはない。
だから、私は奴らと手を組むくらいなら一人でも手掛かりを捜すわ」
「ふざけるな!! 一人で探してどうなる? 俺達は仲間だろ?」
「………それでも奴らと手を組むのなら―――――あたしはもう、一緒に行かない」
「何を―――――」
ホープが悲しそうな顔をして反対しようとしたとき、フェストが手でそれを制した。
「………好きにしたらいい」
そう言ってフェストは二人に背を向けて部屋から出て行った。
ホープは戸惑った様子でミラを見た後、フェストを追った。
一人取り残されたミラは目を瞑った。閉じた目からは涙が零れ落ちた。
「大丈夫ですか、刹那様」
低い声が響く、ファロンのものだ。
「こいつ………流石に私を引き抜いただけの力はあるな………ぐっ!」
刹那は呻きながら地に伏せた。
「―――――何なんだよ………くそ………」
刹那に取り憑かれたケルクは剣を杖代わりにして立ち上がった。
「てめぇ………ファロン、お前は何故この刹那に従う?」
取り憑かれたとは言え、ケルクには自分の意志があった。
ファロンの名前も、刹那の思惑も解っていた。
刹那は元々は一人の人間だった。と言うのも、取り憑かれたときに刹那の記憶が一気に流れ込んできたのだ。
男の名は刹那、イライラしていたという理由だけで何十人も殺した大量殺人犯。
刹那は国からも指名手配されていた。
ある日刹那は、兵士達に追いつめられて洞窟に逃げ込んだ。その洞窟で刹那は地に突き刺さっている刀を見つけた。
追いつめられていた刹那は、それが妖刀と知らずにその剣に触れた。
その瞬間、刹那は妖刀に取り込まれた。
遅れてきた兵士が見た物はぽっかりと空いた穴だけだった。
そして今、刹那はその力を使って自分の理想世界を作るつもりなのだ。
その理想世界は悲惨なものだった。なんとしてもこの妖刀刹那を破壊しなければならない。
だが、ケルクにも妖刀刹那を破壊すれば死ぬことは解っていた。
「くそっ!!」
ケルクは手に持つ剣を無理矢理外そうとしたが自分の手のように引っ張っても全く取れなかった。
それでも意識が一時的に戻った今、出来ることは全てしたい。それがケルクの思いだった。
「無理です。取れるはずないでしょう?」
ファロンが冷笑して言った。
それを見てケルクはふと、考えついた。
「確かに引っ張っても取れない―――――なら………その長剣でこの腕を切り落とす」
ファロンの腰にある長剣を指差してケルクが言った。
「ば、莫迦なことを!」
そう言ってファロンはケルクから一歩下がり、剣を抜いた。
「おいおい、どこへ行く気だ?」
ケルクが早足でファロンに近付く。
「ま、まて!! 貴様正気か? 自らの手を切り落とすなんて………!」
信じられないという目でファロンがケルクを見た。
「壊せば死ぬ、なら………腕を切り落として無理矢理にでも取り外すしかない。
他の者が操られた俺の腕を切り落とすのは至難の業だ。だが、本人ならば造作もなく可能だ。
自害するってのも手だったんだがな―――――生憎それだと悲しむ人間がいるからな。
―――――俺の力を侮ったのが間違いだったようだな」
「た、確かにその通りだが、普通思いつくか?」
それを聞いたケルクはニヤリと笑みを浮かべる。
その笑みを見たファロンの剣を持つ手はガクガクと震え始めた。
「し、しかし貴様より俺の方が腕があるんだ!」
自らに言い聞かせるようにファロンが言った。
「だから侮ってるって言うんだよ、バカが………」
呆れた様子でケルクが言った。
「ち、力尽くで止めてやる! ―――――刹那様、お許しを………ッ!!」
そう言ってファロンはケルクに斬り掛かった。
それを妖刀で簡単に弾くとファロンを蹴り飛ばした。
「遅い、冥雷斬!!」
放電音が辺りに響き、ファロンの胸がパックリと割れた。血が噴き出し、ファロンの体が仰け反った。
尾を引く悲鳴の後、ファロンは倒れた。
そして、ファロンの近くに落ちている長剣を左手に持つと、柄に力を込めた。
「はぁはぁ………―――――あぁあぁぁぁぁあぁあぁあ!!!」
ケルクは左手の長剣に力を込めると妖刀刹那を持つ自らの右手に振り下ろした。